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「でねぇ、ティアナはぼくを見捨てて逃げたんだぁ。だから嫌いなんだよぉ」
…結論から言おう、私は生きている。騎士に突っ込んで行ったイヴァンくんは、物凄く強かった。本人はこの通り、ピンピンしていらっしゃる。
「アレはそう言う女ですから」
「むぅ、シャーは黙っててぇ。今はぼくがイナとお話ししてるんだからぁ」
「ならば早く済まして下さい。連れて行かねばならないんですから」
「シャーはぼくに負けたんだよぉ?鳥がよく言ってるでしょぉ、負けた人間は勝った人間の言う事を聞けってぇ」
「…ふん、何故私が奴隷の言う事など…」
ブツブツと文句を言っているシャーことシャルルさんは、説明によると、何とティナのお兄様らしいです。初めから現在に至った経緯説明をすると非常にシンプルで、イヴァンくんが騎士に突っ込んで全員を倒して、それを指揮していたシャルルさんだけが残った。流石に貴族であるシャルルさんをぶっ倒す訳には行かず、一旦落ち着こうと酒場の中に引き返した訳です。
因みに今は色々教えてもらっている最中で、シャルルさんはティナの、ファシート家の長男で、本妻さんのお子さんなんだそうだ。そしてイヴァンくんがシャーと呼んでいるのは、彼を気に入っている鳥さんとやらが地位の高い人らしく、そうやって呼ぶことを許可されているんだとか。イヴァンくんの買主は別人らしいけど、戦闘能力と外見の美しさから鳥さんが気に入り、自分の小性さんみたいなポジションにしたらしい。そう、フードを外した彼の外見は、正に美少年だった。褐色オッドアイの超美少年。これで強くて奴隷なら、引く手数多だろう。
奴隷輸送の道中、彼はティナと出会ったらしい。その時、彼女がお金を突き付けて自分だけ助かったのを見て、嫌いになったのだとか。でもさ、それって逆恨みだよね。
「…えぇっと、ティアナはその事知ってるの?」
「えぇ?多分しらないと思うー」
「…だよね、それならティアナを嫌いにはなっちゃいけないね」
「えぇー?」
完全な逆恨み確定じゃないか。
「だって鳥がお前を見捨てたんだぞってぇ。シャーもそう言ってたぁ。そして鳥はぁ、そんな奴を嫌いになってぇ、自分を好きになればいいって言ったぁ」
…クソ鳥め。
「成る程…でもそれは鳥さんを好きになるだけで良かったんじゃないかな?」
「どういうことぉ?」
「お金は自分の分しか無かった人が、他の人まで助ける事が出来るかな?それに、そこに自分以外が居たことも知らなかったと思うよ?そんな人を嫌いになってたら、もっと沢山嫌いにならなきゃいけなくなっちゃうよ。それに嫌いって物凄く嫌な感情だから、せっかく鳥さんが好きな君が汚くなってしまうよ」
分かるかな、抽象的過ぎたかな。逆恨みだし、心が汚れるよって事が言いたかったんだけど。
「…ふふぅ」
「馬鹿馬鹿しい。あんな女嫌われて当然です」
あ、二人とも何とか分かったみたいだ。良かった。ただシャルルさんの言葉は痛い。私に突き刺さる。
「…やっぱりぼくぅ、イナの事好きぃ」
「…?ありがとう?」
「だからシャー、このナイフは君のせいって事にするねぇ?」
「は!?何ですって!?」
「バイバーイ」
ドスッと鈍い音がして、あっという間にシャルルさんが動かなくなった。状況についていけないんだけど、どうしよう。お腹を殴ったみたいだから死んではいないよね?嫌だよ人殺しシーンなんか見たくないよ!?
「ふぅ、これで良し。テラー」
「……遅い」
「!?」
「ごめんよ、どうしても彼女を見極めたかったんだ。でも君もこれでスッキリしたろ?」
「そうだな」
突如開いていた扉からニュッと人が出てきた。イヴァンくんと同じ格好をしている。そして話し方変わってませんか?てか今度は誰だよ!
「…ごめんね、イナ。君を見定めていたんだ」
「へ?」
「僕らはフクロウといって、とある人の影部隊なんだ」
「え!?」
「大丈夫、怖がらないで。僕らは君を元々逃すつもりだったんだよ」
…助けてヘルプミー!元々整理出来てなかった頭が更に訳分からなくなってきたよ!頭良くなりたい!!
「…と言っても混乱するよね。取り敢えず、今日の事は見なかった事にしてくれると嬉しい。宿屋にはちゃんと僕が連れて行くから。テラ、こっちの後の事頼んでいいよね?」
「あぁ」
「という訳だから、行こう。立てる?」
すっと差し出された手。それを握るか、躊躇ってしまった。そしてそれに苦笑いしたイヴァンくんの顔を見て、あぁ、またやってしまったと気付いた。私は懲りない。
「…ごめんね、行ける?」
「う、うん」
怖い。正直何が何だか分からないこの状況が。人が。イヴァンくんは手を引っ込めて、少しだけ距離をとった。
…これで例え死んでも、私は悔いなど無いその日暮らしだ。何を今更怖がっている。自分の価値なんか無いに等しい筈なのに、何を自惚れてるんだか。必要とされている人様を傷付けるなんて…最悪だ。
〇
ふと、道中ある事に思い至った。このまま彼を宿屋へ連れて行って良いのだろうか、と。答えは間違い無くノーだ。そう、だってあそこにはあの人が居る。気付いていて着いて来た可能性があるよね?誰かの影部隊らしいし。
「…あ、あの…」
「うんー?」
「私なら大丈夫なので、此処で良いです。戻って下さっても…」
「…ごめんねぇ、それは無理ぃ」
「!?」
言葉!口調がまた変わった!?てか戻った!?もう本当に何なの!?
「今はぁ、ちょっと一人には出来ないのぉ。…色々お話し出来ないけどぉ、ぼくは君に嘘は吐いてないからぁ、それだけは信じて欲しいなぁ」
「…はあ」
「…ありがとうー」
苦笑いして向きを変えた。嘘は言わないと、信じて良いと言ったからには、送るだけって事だよね?ならそれを信じて着いて行きますよ…大丈夫だよね?
「…そう言えばぁ、どうしてあの機械を渡したのぉ?」
「………え?」
考え事をしていたら質問をされていたらしい。機械がどうのと…?
「機械だよぉ機械ぃ。あの四角い機械ってぇ、この世に無いものだからぁ」
「あ、あぁ…」
「渡したのはぁ、何か理由があったからじゃないのぉ?」
「渡してないです」
「えぇ?じゃあ何でサイラスが持ってたのぉ?鳥がシャーから貰ってぇ、シャーはサイラスから貰ったって言ってたよぉ?」
何だよ、色々出て来たなぁおい。と言うかサラよ、思いがけずスマホの在り処が分かりそうですよ。でもこれ、まだしらばっくれる事出来そうだよね。どっちが正解だろう?
「あー…ちゃんと君のだって知ってるからねぇ?」
…私そんなに顔に出てるのかしら。
「…渡してません。私のだと言った覚えもありません」
「…そうかぁ、分かったぁ」
私だって嘘吐いてない。私自身がサラに私のだと言って渡してないし。そう、そもそも彼が勝手に盗んだんだから。心の中でそう付け加えておく。そこからお互い、一言も喋らないで宿屋に向かった。気まずいったらなかったけど話すだけの話題も無いから、仕方ないね。何を考えているのか分からないのが怖いけど、それを聞く勇気は微塵もない。




