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イヴァン、と名乗ったフードの男の子は、私の更に側へとやって来て、頷いた。
「あのねぇ、このままだと殺されるよぉ?」
「………え?」
「だって見つけちゃったでしょぉ?」
何を、とは言わずもがなだ。私は見付けた。血の付いたナイフを。
「…君は何で知ってるの?」
「えぇ?だってぇ、見てたんだもんー」
「そう…じゃあそもそも何で此処に居たの?」
「秘密ぅ。言ったらぼくが殺されちゃうもんー」
「そう…」
どうして、君は誰かのお気に入りなんでしょう?と突き詰めたくなったけど、それを聞いたところでって言うのが強くて何も聞けなくなってしまった。
「…じゃあもう一つだけ。君が見たのは、アレを使ったところ?此処に片付けるところ?それとも私が見付けたところ?」
「んー、全部ぅ」
「え!?」
待て待て待て、駄目だろ!こんな子供にそんな刺激の強いもの見せたら!トラウマになるわ!
「全部って、怖くなかったの!?」
「えぇー?別にぃ。何でぇ?」
「何でって、私だったら怖いからだよ!そもそも私より年下の君が見るものじゃないでしょ!?」
「……アハッ!何それぇ、変なのぉ。だってアレぇ、鳥捌いたやつだよぉ?それのどこが怖いのぉ?」
「………鳥?」
「そう鳥ぃ」
え、待って。鳥って何?鳥捌いたってどう言うこと?血は鳥の血なわけ?だとしても私は見たくはないけども、人でないなら何で私は殺されるとか脅されたの?て言うか、もうこの子本当に何者なの!?
「ぼくはねぇ、ティアナが大嫌いなのぉ。だからぁ、その周りにいる奴らもだぁい嫌いだったのぉ」
「は、はぁ…?」
「イナもティアナの側に居たらからぁ、ヤな奴だと思ってたけどぉ、面白いねぇ。流石ぁ、あの変な機械持っていただけの事はあるなぁ」
「………」
あぁ、なんだそっち側の人間だったのか。ちょっと想像はしてたけどさぁ。何者か分からないけど、ティナや私のスマホの事を知っているって事は、ほぼ確定でしょ!
「…このままだったら私は殺されるんだよね?君も此処にいたら危ないんじゃないの?」
「んー?ぼくは殺されないよぉ?怒られるだけぇ」
「そうなの?だとしても、私が殺されるところを見ることになるかもしれないでしょ。早く逃げた方がいいよ」
「…んふー、やっぱり面白いなぁ。きぃーめたぁ」
私との距離を完全に詰め、グッと手首を掴まれた。子供と思っていた彼の力が思いの外強くてギョッとしつつ、そもそもその行動にビビる。暗いのと彼が何を考えてるのかよく分からない相乗効果がハンパない。
「助けてあげるぅ」
「……は?」
「このまま此処に居たらぁ、鳥を傷付けた罪で殺されちゃうー。それは面白くないからぁ、鳥の所に行ってぇ、ぼくの友達になった事伝えてぇ…」
「ちょ、ちょちょっと待って?」
「んー?」
「鳥って何?さっきから鳥を捌いたって言ったり…」
「んもぉ、何かと思ったらそんな事ぉ?イナってば何でちゃんなんだねぇ。そこも楽しいけどぉ」
ずっと笑っていて機嫌が良い彼は、どうやら私を気に入ったようで。寿命は少し伸びたようだと思うんだけど、根本が解決してないし、そもそもまた鳥とかよく分からない事が増えてキャパ超えそうなんだよ!何ならもう超えて若干はみ出てるわ!
「鳥はぼくの飼い主だよぉ」
パンッと頭の中の何かが弾け飛んだ気がした。完全に訳がわからん!
「鳥…飼い主…」
「うんー、ぼく奴隷だからねぇ」
…つまりだ、彼の言う鳥って人の事なんじゃないの?正直彼が奴隷だと言う事はどうでもいい。あ、でもその事で一旦整理できそう。彼は飼い主…自分の主人を鳥と呼んでいる。…ん?ちょっと待って。鳥が主人であれば、捌いたって何。そしてお気に入りって誰の。ダメじゃん!整理出来てないし!
「あ、あのね?」
「んー?」
「私色々聞きたいことあるのね」
「うんー、何でちゃんだもんねぇ」
「答えてくれる?」
もうダメ元だ。頼むよ、気に入ってくれたんだよね!?と拝む勢いで縋り付いてやろうか。出来るよ、私。
「…ふふふー良いよぉ。でもねぇ、此処はダメェ。鳥係が来るからぁ、移動ぉ!」
ゴー!と言うように手を挙げ、私の手首を掴んでいる方をこっちだと言うように引っ張る。もう深く考えないことにした。成り行き任せも一つだよね。鳥が出てきた時点でハイハイっと聞いておけば良かったのだよね、無い頭は使えませんもの。
私が入ってきた扉へ彼は私を引っ張って行く。そして扉の前に立つと、よいしょっと言わんばかりに足を上げた。どうやら蹴破る気だと気付くのに一瞬間が空いたのは許して欲しい。
「いっくよぉ」
「!?」
マジか!と思ったその瞬間、ドアの外でガチャガチャと音がして、アレこれって…と嫌な予感がした。因みに二つ。一つ目は、ドアが開くと同時に蹴破りが外の誰かに直撃して、鉢合わせる。二つ目は、蹴破りが成功してドアが外れるなり壊れるならして外に出て、鉢合わせる。結果は同じ。鉢合わせて私は殺されるのか、また捕まるのか…何にせよ良い選択はないだろうなぁ。悟りそうです。
「………あれぇ?」
ーーードゴォッ
…結果は一つ目でした。ちゃんちゃん!…なんて済むかぁ!あれぇ?じゃないでしょうが!彼が蹴破るつもりで勢いを付けた蹴りは、見事に鍵を開けたのであろう手前の騎士に直撃し、吹っ飛んだ。いや、本当に!文字通り吹っ飛んだよ、マジで!
「……イヴァン」
「あぁ、やっぱり来たぁ」
「やっぱりではありません。私は貴方を捕まえる仕事も仰せつかって来たのですよ、イヴァン。余計な仕事を増やさないで下さい」
「むぅ…ほらねぇ、シャーは直ぐぼくを怒るんだよぉ」
何がほらねぇ、だ。私に振るな。と言うか怒られるのは当たり前だろぉ…明らかに仕事増やしてるもんね。
「当然でしょう、奴隷の分際で手間を掛けるのですから。取り敢えず中に戻りなさい。その人を何処に連れて行くつもりですか」
「ぼくのお家に連れて行くんだよぉ。シャー、イナの事殺す気だからぁ、ぼくが隠す事にしたのぉ」
「…相変わらず馬鹿ですね、誰が誰を殺すと?」
「シャーがぁ、イナをぉ」
「…話になりません。貴方達、二人を室内へ」
逃す気なら話すな!と突っ込みたくなること言ったよね、今。頭回ってないし今の状況が余りに寿命縮まってる感がするから、怖くてそれどころじゃないけれども…シャーとか言う人が言ってる事がマトモ過ぎて、もう私の人生ここで終わるんじゃなかろうか。
「…バッカだなぁ、シャーってばぁ」
ボソリと、多分私しか聞こえなかったと思う程の小さな声で呟いた。と、思った瞬間、私から手を離すと、イヴァンくんは目の前に居た騎士達に向かって突っ込んでいった。
「…チッ、厄介な!」
「ダメェ、鳥の騎士以外は潰しても問題無いってぇ、ぼくは鳥に言われてるんだもんねぇ」
「あの馬鹿王子め!」
「あーぁ、シャーってばぁ、言ってやろぉ」
キャッキャと楽しんで、しかも人か!?と言いたくなる程のスピードで、大の大人の男を倒して行く少年。私は今、何を見ているのだろうか?これってチャンス?でも巻き添え食らいそうだよな、なんて思いながら、取り敢えずその場に居ることに決めました。
…ごめんなさい盛りました。単純に足がすくんで動けないだけです。




