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ナードに相談したら、取り敢えず各々が出来ることをする事になった。全てにおいて、とてもややこしいのだ。一人一人なら解決の糸口はあるけれど、それを一気には出来ない、と言う感じなのである。結論、私だけならどうでも良い。ナードだけならサーマルクに一旦帰れば良い。あの人だけなら此処で客のフリして待機するか、ちょっとの間街散策でもしてれば良い。ほら、簡単だ。だが、あの人を一人にするわけにはいかない、となるとナードが身動き取れずってなる。世話になってる所から一人代わりをって言ったけど、各自各々忙しくてなかなかコッチに来れないらしい。ほらね、ややこしい。だからと言って、それだけに時間を取られるわけにはいかない。私達には私達の生活があるのだからね。
「……サブちゃんサブちゃん、何か変だけど」
そう、その生活を営んでいる。そして、いつもの酒屋に酒を頼みに行ったわけですよ。酒屋の店主であるサーブさん、通称サブちゃんと私は仲良しです。恰幅のいいオッサンで若干強面だけど、気前が良くて気持ちがいい性格なんだ。私のサブちゃん呼びにも快くオーケーを出してくれたしね。
「何言ってやがる、オレは変じゃねぇよ」
「知ってるし!ゴメンそうじゃなくて、ココに来るまでの街の様子がおかしかったの。何かあった?」
花屋のおじちゃんはいつも半分踊りながら花を弄ってるのに、今日はただ手を動かしていたし、肉屋のオッチャンはいつもの豪快さがなりを潜め、パン屋のおばさんは旦那さんだろうか、おじさんに変わっていた。そして、何より子供が遊んでいなかったのだ、何かあったでしょ、確実に。それか何かこれから起こるのか。
「あー…ティナの嬢ちゃんから聞いてねぇのか?王族様が視察に来るって」
「あぁ、聞いてる。まさかそのせい?」
「親切な騎士様がこっそり今日の昼からだって教えてくれたんだよ。そんな状態で楽しく商売が出来るかってんだ。抜き打ちなんか性格悪すぎだよなぁ」
「うっそ、ホントに!?ティナ知ってるかな」
「この後どっかに寄るのか?予定がねぇならとっとと帰って教えてやんな」
「ウゲー、そうする。サブちゃんには申し訳ないけど、取り敢えずいつものをいつもの分頼んでおいていい?」
「おう、任せな!」
ティナから預かったお金を渡して、店を出る。サブちゃんはいつも宿屋まで物を届けてくれるから、私やティナは大助かりだ。因みにサブちゃんの店はお酒だけじゃなく、調味料類も取り扱っている。胡椒とか塩とかね。
この世界の料理は、流石に和食では無いけれど、なかなか日本人には合うと思う。どちらかといえばイタリアンとかフレンチなんじゃないかな。本格的なものを食べたことがないからわからないけど、間違っても生魚とか味噌汁とか出てきた試しがないもの。
「…居たぞ!」
「っ!?」
突然だった。食べ物の事を考えながら歩いていただけだったのに、気付いたら何故か騎士らしき人達にわーわー叫ばれながら追いかけられてしまっていた。冗談じゃない、理由も分からず捕まってたまるか!
〇
…と思っていた時期が私にもありました。突然始まった鬼ごっこは、呆気なく鬼側の勝利で幕を閉じましたのです。…そりゃそうだ、運動不足が脳筋に勝てるわけないっての。後ろ手で拘束され連れて行かれる道中、街の人たちは見て見ぬ振りだった。普段そこそこな関係を築いていても、こんなもんのだ。それに対して何にも思うことはない。だって、私だって同じ立場なら、間違いなく見て見ぬ振りするもの。我関せず、触らぬ神に祟りなしってね。
そして連れて行かれた先は路地裏にある薄汚れた酒場だった。牢屋かな、なんて思っていた自分にとっては拍子抜けだったけど、定番っちゃ定番だよね。
「…ここで大人しくしていろ、女狐め」
「……」
女狐?誰か何かを拐かした?よく分からず、頷くこともできず、取り敢えず辺りを見回した。残念ながら私の外見では誰も誘惑は出来ませんよ。
「何とか言え!是しか認めんがな!」
「…是」
「舐めているのか!肯定という意味だ!」
「…はい」
別におちょくってるわけじゃないよ。心底怖いしね。でも是しか認めないって言うから是って言ったのに、って理不尽を感じてもいる。…分かってやったけどね。だって状況として、ここに連れてこられて大人しくしていろって事は、少なくとも今何かをされるわけではないって事だ。誰かが私に用事があるのか、もしくは私を使ってどうにかしたいって事だから。そして、それをするのには今はまだ揃ってない。だったら大人しくしているに越したことはないわけで。子供の頃から人の顔色を伺って生きてきた。そうしないと不利に働く事が多かったからね。
「ふん、まったく」
「行くぞ、お待ちだ」
私を連れてきた騎士達は、私を放って出て行った。そう、放って。縛られもせず、酒場に放っていったのだ。馬鹿なのかな。勿論鍵は閉めていったようだけど、危険物が無いのかもしれないけど、閉められたら真っ暗だけど、私が何をするか分からないぞ。にしても、サラやラスに知られても問題無い騎士さんなんだろうか?
…と言うか、私は兎に角ここからが問題だ。ずっと此処に居ていいのか、はたまた逃げた方がいいのか。せめてもうちょっと説明があってもいいよね、と今更ながらに思う。誘拐にしたら正解なのかもしれないけど、少なからず私が連れて行かれたのを見てた人は居るのよ。その時点で完全犯罪じゃないわけだから、聞いてても問題無かったのかも。そうしたら目的が分かったのかもしれないけど、それが出来る心の余裕はない。今までの生活が幸せだったのだし、多少の奴隷生活は覚悟した方がいいのかなぁ。痛くなければ少しは我慢できると思うんだけど。
段々と目が慣れてきて、周りを見渡してみる。うん、やっぱり酒場で間違いはないな、と一応確認して辺りを動き回ってみる。そしてやっぱり目的を聞いておけば良かったと後悔しております。こ綺麗なんだもん。つまり、使われているって事だよね。もしくは、このために掃除したのか。戸棚を開けば皿やグラスは有ったし…後は刃物は何処だ。私の武器にもなるし、相手の武器にもなる。そんな物、置いておけないでしょう。まぁ、相手は別の刃物をお持ちではあると思うけども。
「…ん?」
思わず声が出た。ある扉を開いたら出てきた物、それは紛れもなく違和感があった。この店にあることも、この場にあることも、私が持つことになっても、違和感しかない。そしてそれを見て、私は悟った。奴隷でも何でもないものになる、と。
私は、生贄だ。
「…あーぁ、やっぱり見つけちゃったねぇ」
「うぁ!?」
「アッハハァー変な声ぇ」
悟った瞬間、少しだけ甲高い声が後ろからしてビビった!反射的に振り返った先には、フードを被った人影があった。
「君はイナだよねぇ?」
「…え、ええっと?」
「ぼくのことは気にしないでいいよぉ。あ、でもぼくお気に入りだからぁ、今後会うかもしれないよねぇ」
「……」
フードと暗さで全く顔が見えないけど、多分子供だ。中学生位の年齢だと思う。間延びした口調が緊張感を全く感じさせないけど、多分ピンチだよね、私。
「ぼくはねぇ、イヴァンー。よろしくねぇ?」
「は、はぁ…」




