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兄弟様は主人公らしい  作者: トミネ
本章 兄弟様は主人公
19/46

5

 あれから長い列に並んだにもかかわらず、取れたのは私の物だけだった。…私の、取れちゃったんです。以外と呆気なくて、あれー?ってなった。思わずナードと二人で顔を見合わせたくらいだ。私女の人よー?って思ったけど、どうやら今は女の人は眼中にないようで、あの人くらいの世代で、男である事。お役人達はその事で頭がいっぱいらしい。そりゃそうだ、何たってその上の貴族がそうなのだから。何処の世界でも、お偉いさんというのは私達一般人には分からない、とてもとても難しい事を考えていらっしゃるようですよ。お金と欲望。わー難しいねー。


「さてと、これからどうする?」


 簡単に行かないと思っていた私の手続きは、意外にもアッサリ終わってしまった。本来の目的は私が娘であると言ってもダメだった。ということは、だ。いくらごねても、これ以上は無理だということだ。商人の国だからお金でってなるかとは思ったけど、大商人でもない我々では無理で。万事尽きた、ということだ。だが、もう一つ、賭けが残っている。恐らく、ほぼ高確率で勝てる賭けが。それが始まるまで、あの人が待てばいい話だ。


「…取り敢えず、戻ろうと、思う…」

「そう?分かっ…た…?」


 役所の入り口のところで話していた私達は、ふと周りの騒ついた雰囲気に気が付いた。おかしい。明らかにさっきと雰囲気が違う。


「…何?」

「……宿屋へ戻ろう…」

「?そうだね」


 ナードも何か警戒している。道中、何かしら分かるかもしれない。そう思って私達は外へ出た。だが、直ぐにその異変はやって来た。


「…っ!」


 その異変に慌てたナードが、私を背中に隠す。そう、目の前には騎士が二人居た。ラスやサラのお仲間だろうかと、ふと思ったけど今の私のナイトの反応からして、違いそうだ。


「…何を庇っておいでです」

「……」

「貴方様を皆様がお待ちですよ。留学と称して、最早どれ程ですか。いい加減戻っていただかなければ困ります」


 騎士が、ナードに様付けした。一介の商人が様なんて付けられるわけがない。と言うことは、ナードは…。


「偉い、人…?」

「っ!」

「偉い人だと?何を言うか薄汚い女が。この方は…」

「黙れ…!」


 低く、唸るような声だった。静かに、でも強い獣のような声。さっきもあったけど、それよりも更にビリビリくる。


「貴様らこそ、誰に物を言っている…」

「っ!」

「貴様らがソレを持ち出すのであれば、俺も持ち出させてもらうが…?」


 いつも少し辿々しい口調が、スムーズに、そして威厳を帯びている。彼が言うソレは、きっと身分の事だろうと安易に想像がついた。きっと、いや、間違いなく彼は偉い人なのだ。本来、私のような人間が一緒にいる事すら出来ないほどの。


「…っ、も、申し訳…」

「…私はこの国で、貴様らのようなクズではない、本物の騎士と知り合った。あぁ…実に不愉快だ。去れ、そして二(・)度(・)と(・)私(・)の(・)前(・)に(・)姿(・)を(・)見(・)せ(・)る(・)な(・)」


 決定打だ。ナードは怒っている。引き金は色々ある気がして何だったのかは分からないけど、私に隠す気もなく、権力を振るって見せたことからも、彼が本(・)気(・)で(・)怒(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)と分かる。そう、私も正直怖くて震えていた。何だこの怖い人は。動物に優しくて、私に可愛いと言われて照れる人が、怖い。頭だけがハッキリとして…ああ、久し振りの感覚だと思った。他人を怖いと、恐ろしいと感じる感覚。


「…も、申し訳、ござい、ませっ…」

「詫びはいい。去れ!」

「し、失礼いたしました…っ!!」


 バタバタと居なくなった騎士達は、本来であれば許されない失態を犯した。目の前のこの人を置いて、逃げるという失態を。身分が高い相手を置いて居なくなるなんて。


「………イナ」


 その騎士が居なくなって、ゆっくりと振り返ったナードが私を呼んだ。私はその動きに合わせる様に、視線を向ける。


「…宿屋に戻ろう…」

「…う、ん」


 どう答えて良いか分からなかった。そのせいで躊躇いがちになってしまった回答は、ナードに辛そうな顔をさせてしまった。




 〇




「…すまなかった…」


 宿屋の人が居ない部屋に入って先ず、頭を下げられた。偉い人なのに。


「…俺は、俺が何者なのか、皆に、言っていない…」


 口調もいつものに戻っている。優しい時の彼のものだ。怖くはないが、反応に困る。


「…すまない…どうしても、言えなかった…言ったら、今ある全てが、失われてしまう…だから…ずっと言えなかった…でも」

「…?」

「お前に…イナには、話す。だから…聞いて、欲しい…いい、だろうか…?」


 捨てられた子犬のような顔で私を探る。不安で堪らないといった顔だ。その顔に、聞くのが、私でいいのだろうかと思いつつ、頷いた。


「!あ、ありがとう…」


 あからさまにホッとした様子で顔を緩めた彼を見て、私もホッとする。ゲンキンなもので、正直、私も話してもらえて嬉しいのだ。それだけ信頼されているということだから。


「…俺の、本当の名前は、クリスナード…クリスナード・ゼロ・サーマルク…」

「いっ!?」


 待て待て待て、その名前は聞き捨てならない。サーマルクて何、サーマルクって!しかもクリスナードって言った!?クリスナードて言ったら王様の名前なんですけど!?私ちゃんと覚えてるんだぞ。


「名前は、聞いたことがあると、思うが…一応、コレでも王、なんだ…」

「い、一応って…そんな方がどうして此処に…」

「イナ」

「!?」


 急に名前を呼んで視線を合わせてくるのは止めてください。普通にビビります。そして、視線を合わせるのは、苦手なのですよ、だから勘弁して下さい。


「お前に、こうして話すのは…こういう状況に、なってしまった、事も…勿論、ある…だが、何より…信用、しているんだ…友として…話しても、友で、いてくれると…」

「え?」

「イナ、お願いだ…どうか、友である事を、辞めないで、くれないか…?」


 え、重要なのそっちなの?そういう信用なの?いや、嬉しいんだけどね、なんか違わないかな?


「え、と…」

「…やはり、駄目…か…」

「………あぁあ!もうっ!そんな顔しないで!駄目じゃないから!」


 何だよもう!私が悪いみたいじゃないか。ワンコ属性め、卑怯だぞ。


「今まで通りの呼び方とか、話し方で良いって事と思って良いんだよね?」

「!そうだ」

「分かった。じゃあこれからもナードって呼ぶし、敬語も使わないし、可愛いとか言うけど良いんだね?」

「…可愛いは、ちょっと…だが、それで構わない…ありがとう、イナ…!」

「…っ!!」


 ふにゃり、と笑って、次の瞬間私を抱きしめたナード。余程安心したのか、少し震えている気がした。そっと触れられる範囲で抱きしめ返すと、その力は更に強くなった。


「…良かった…」


 その小さな小さな呟きは、聞いていないふりをした。

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