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そのままナードと会話しながら行列に並びつつ、私は一人、ちょっとだけ昔を思い出していた。私が社会人になった、住み込みの仕事をしていた頃の事だ。何でこんな事を今思い出したのか、それはこんな風にあの頃並んだことがあったからだ。勿論、並んだ理由は今回と違う。住み込みで寮住まいだったあの頃、二人で一部屋だった。その時の同室だった田中さんが、大好きなPCゲームのイベントの為に、各店舗で買えるグッズを少しでも高確率で手に入れたいと、彼女の知り合い数名が駆り出され、朝から並んだのである。元々買う物は指定されていて、私は他の人に混じって何とか指定数購入する事に成功した。もう、お会計して店を出た瞬間の達成感は、魔王を倒した気分だった。ゲームなんかやったことないけども。他の任された人の中には、その任務を達成できなかった人も居て、私は中々な強者扱いをされたものだ。その後、お礼にと彼女と一緒にそのゲームをやった。…正確にはやったわけじゃない。やっているのを見ていた。そのゲームの名前は忘れてしまったけど、確か主人公が男で、男同士がイチャコラする内容だった。出てくる人はみんな綺麗でカッコイイ、腐女子と呼ばれる人達が大好きな物だった。そう言えば、主人公は今の私みたいに異世界からやって来て、不思議な力を持っていて、しかも兄弟で、どちらかを選べる内容だったな。それぞれで攻略対象が違うから、もどかしいとか言っていた気がする。でも、その兄弟もカッコイイから絵になるし、ハイスペックだから嫌味な感じがしないんだとか。同室の推しメンは何人か居て、確かとある国の王…の……あれ?
「…ナードさん」
「…?」
「オルスタムの王子ってなんて名前だっけ?」
「…全員?」
「あ、違う違う。あの人」
私は視線の先にあった、肖像画を指す。勿論指では指さないよ、不敬罪に当たるからね。
「…ムスカード殿下だ」
同じように私の視線を追って見たナードが答えてくれた。そう、ムスカード王子は、この国の第一王子だ。私もティナ達から教わっている。
「…そうだよね」
「…何か気になるのか…?」
私は知らなくて聞いたわけではない。何事もなく行けば王となる存在を、私が、この世界の人間、この国の人間となった者が分からないでいるのは駄目だ。例えそれが奴隷であっても。だから王家の、会ったこともないのに、大体のお偉方の名前と顔は覚えている。ならばどうして聞いたのか。理由は単純で、ただ感じた違和感を違和感じゃなくしたかったからだ。
今の王の名はムシャード。御歳70歳で、地位とお金にがめつい、所謂強欲ジジイで有名だ。その息子のムスカード、彼もまた強欲で、その上性欲も強いのだそう。まぁ、その辺はどうでもいいが、問題は別だ。ティナの結婚相手であった第二王子、その名前だ。初めて聞いたときはへー、ふーん程度の、感想だった。お得意の無感情だった。でも、今この状況で違和感を感じている。
「…第二王子、メルーソル殿下」
「……」
「メルーソル・テン・オルスタム…第二王子…」
そう、王や第一王子ではなく、第二王子に。同室の彼女がゲームでしきりに推しメンなのは、とある国の王であるメルーソル王だと言っていたのだ。後は別の国の宰相と、騎士。彼女の周りには彼らのグッズが大量にあった。グッズは基本デフォルメされていたから、今までなんとも思ってこなかったが、思い出したら違和感極まりない。なんてこった。
「…嘘だ、マジでか」
「…どうした?」
「私は歴史を見るかもしれない」
「は…?」
?を沢山浮かべているナードをちょいちょいと手招きして、耳を寄せさせる。聞かれたら大問題だ。
「………っ!?」
その耳にこっそりと告げて、私はニッコリとワザと笑ってみせた。告げたのはそう、近いうちにおそらくこの国は、世代が変わる、という事。誰が王になるかは告げなかったが、私の予想では第二王子だろうと思う。何故そう思うのか、それは主人公に当たる人がこの世界に居るからだ。不思議な力を持っている異世界人の男は、間違いなく居る。スペルリングに。そしてその男が主人公なら、ウィンファルターに居る彼もまた、そうであるのだろう。兄弟設定が生きるなら、間違いなく知っている人だ。つまり、異世界から来たハイスペック兄弟なダブル主人公完成である。
「…どうして…」
「…ゴメン、そればっかりは私の感て事にしておいて。話してもこの世界の人には信じてもらえない内容だから」
「……分かった。でも、何故近い内、と…?」
「王子達の年齢かな。現王が70歳、第一王子が25歳、第二王子が24歳…姉姫様達が多いから王子達は歳が未だ二十代だけど、動きが遅い。サーマルクは確か、十代で、でしょ?それは逆に早いのかもしれないけど、スペルリングやウィンファルターは20歳だって聞いた。動くのが大体が幾つなのかは知らないけど、考えたらいつでもおかしくないと思わない?」
極力小さな声で、尚且つ明言を避ける。こんな世代交代の話を国のお膝元でやるなんて、命知らずもいいところだ。でも、伝えたかった。ナードには得をしてもらいたいから。
「……確かに」
「そうしたら、その混乱に乗じてあの人を出せるかもしれない」
「!」
「でも、それより残って商売した方が得するかもね。あ、お仲間が商売して、ナードは送って報酬を貰えば両方手に入るね」
「…中々、悪どいな…」
「ふふ、何を仰る。散々お守りをさせられてきたんだから、報酬はきっちり回収しなきゃね?それから、負ける方と勝つ方を早期に見極めて、双方で上手いことやるのは、商人の腕の見せ所じゃない?私に賭けるなら、その情報も差し上げようか」
私は汚いんだよ。物凄く汚れているんだよ、だから元身内を商品にしたって、賭けの対象にしたって全く心が痛まないんだ。
「それも…分かっているのか…?」
「うん、多分ね。あ、でも分かった。賭けっていうリスクじゃなくて、判断材料をあげるよ。数字の2。私の推しはこっちかな」
田中さん、貴女に感謝するよ。全部を覚えているわけではないけど、貴女がくれた知識が役に立っている。もう少し関心を持てれば良かったのかもしれないけど、貴女が熱く熱く語った部分だけはハッキリと思い出せる。この世界は、貴女の大好きなゲームが現実になったバージョンなんだと思うよ。私ではなく貴女だったら、もっと記憶を駆使してそれこそ神様になれたかもしれないのに。何で私なんだろうね?
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病気により、耐性が無かった女性が多く被害を受け、圧倒的に数が少なくなった。にもかかわらず、あろう事か時の権力者達は、それが卑しいからだとして女性を差別し、男性こそ正義だと女性を卑下していった。そんな世界に、ある時不思議な力を持った二人の男が、異世界から現れた。二人は心優しき兄弟で、その現状を嘆き、世界を変えようと決意する。その中で様々な人々と出会い、協力や利用をし合いながら、一人の運命の相手と出逢う。世界を救う決意を胸に、運命の相手とどうなっていくのか。ある事件をキッカケに、時が動き出す…




