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兄弟様は主人公らしい  作者: トミネ
本章 兄弟様は主人公
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 その日の午後、事態が動いた。とてもとても不思議な方へ。


「何で私なの?」


 そう、私が出向く事になったのだ。私が、ナードと一緒に役所へ。


「私だって不安よ、でもこんな時に限って団長は帰城命令で帰ったし、サラもそうでしょ?私もよりによってこの街の会合で不在にするし。残ってもらってもいいけど…って考えるとアークにその役をやらせて、貴女はフィルと一緒に行った方がいいと思うのよ」

「フィルは強い。それにここに居るより心穏やかに過ごせるだろ?それで行ったついでに自分の分も貰ったてきたらいい」


 という事らしいです。確かにナードとのお出かけは楽しみだけど、あの人の為って言うのが納得いかない。だからね、ナードくん。そんな捨てられた子犬みたいな顔しないで?でもそうか、ナードとお出かけは良いな、うん。


「…分かった、行く。ナードとなら行く。宜しくね!」

「ああ…」


 あからさまにホッとした顔しないで?本当に君が嫌だったんじゃないんだよ?本当だよ!?


「…あぁ、もう!可愛いな!ナード、君となら何処へでも行くからそんな顔しないで!」


 思わずぎゅーっと抱き着く。抱き心地は男の人だけど、私はもはやデカい犬を抱きしめてモフモフしてるつもりだ。


「…い、イナ…?」

「うん、うん、なぁに?」

「は、恥ずかしい…の、だが…」

「ギャー!可愛い!!」


 もう変態と言われても良い。これから姿が見えた段階で抱き着く権利を下さい!


「聞いた!?恥ずかしいって!可愛すぎて辛い!ギャップ萌え万歳!」

「…という事だから、フィル、イナを宜しくね?」


 興奮していた私は知らなかった。この時、ティナとアークが私を見て優しく微笑んでいたのを。ナードが顔を真っ赤にしていた事を。デカい彼の腹付近に顔を擦り付けて堪能していた私は、実に勿体ない光景を見逃していた。…どうして知って居るのかって?他にいたお客さんの一人から、これまた微笑まれながら告げられたからだよ。




 〇




 元々荷物の無い私には、出立準備に然程時間がかからなかった事もあり、一旦落ち着いた後直ぐに出た。道中、今後何かしらフォローしてもらう事もあるかもしれないと、私のことを簡単に話しておいた。その話を聞いて物凄く驚いていたけど、話は合わせてくれる事になった。流石、話が早い。時は金なり、ナードは商人だ。判断するのはナードだが、損な情報を与えたつもりはないから、今後、私の周りに迷惑を掛けなければ、その情報を有益に使って構わないと伝えておいた。その言葉に少し難しい顔をしたけど、直ぐに分かったと頷いてくれた。


「…ナード、此処が役所なの?」

「ああ…」

「お城じゃないの?門あるよ?」

「…城は、あっちだ…」

「…うん、そうだね…」


 現実逃避ってやつだよ、だってお城みたいな屋敷なんだもん。もうちょっと日本のお役所的なのをイメージしてたんだよ!


「どの国もこんな感じなの?」

「ああ…」

「そう…住む世界が違うんだねぇ」


 この世界の街並みですら始めは外国みたいだって感動したけど、まさか公的施設がこんな感じとは。


「よし、ごめんもう大丈夫。行こう、色々覚悟決めた」

「大丈夫だ…何かあったら、必ず、守る…」

「頼りにしてる!」


 そう言って二人で門をくぐる。花で彩られた庭を抜け、施設の中へと進む。その中は更に豪華だった。こんな所で権力を見せつけなくても良くない?ていうか、見せ付けたいならバンバン仕事出来る所を見せた方が好感度上がるよ、日本もね。


「…あそこだ」


 指を差された先には、一際長い列。そこに並ぶらしい。


「…アレ?フィル、また来たの?何回も言ってるだろう?本人を連れて来なきゃ貰えないって」

「……マル」


 並ぼうとした矢先、一人の頭の悪そうな…失礼、漫画で言うパパに言いつけてやる!って言うヤラレ役みたいな人が声をかけて来た。


「しかも女が居るし。今日は騎士団長は一緒じゃないのかい?」

「…あの人は、忙しい…」

「そりゃそうだろうけど…なぁんだ、残念だなぁ」

「それに…彼女が本人、だから……行こう」


 何だ?この人も団長好きなのかな?顔が若干狙った人の顔をしてるから、サラとは違って尊敬ではなさそうだ。ラス、頑張れ。私なら無理だわ、生理的に受け付けられないもん。


「待ちなよ、女が取るなら自分だけ並べば良いじゃないか。フィルは俺と一緒にカフェにでも行こうよ」


 …あぁ、あまり感情が顔に出にくいナードが、ピクリとした。ナードも彼があまり好きではなさそうだ。此処は私が出しゃばって良いのかな?いや、ナードに任せた方が良さそうだな。


「…ナーマール・シクステト」

「うん?何だい急に、フルネームで呼ぶなん…」

「俺の…友を、見下すな…」


 低い、ビリビリと震えるような声だった。私は勿論、目の前の彼も初めての様子のようだ。驚きで目を見開いて固まっている。


「…俺は、お前を許さない…行くなら、一人で行けば、いい…」


 そう言って、ナードは私の肩を抱くような形で列へと向かう。私もそのまま彼に従う。確かに驚きはしたけど私の場合は呆気に取られることはない。人の態度や雰囲気の変化は、言っちゃなんだが直ぐに分かる。鈍感でありたかったが故に、より機微に感じるようになってしまった。…私の場合、学生時代のイジメは、居ないものとされるまでがまさにそれを駆使しなければいけなかったから。


「…ありがとう」

「…驚かない、のか…?」

「驚いたよ?でもナードが思っている驚きじゃないね」

「…?」

「カッコイイって思ったから」

「っ!?」


 今まで可愛い面を見てきただけに、ギャップがどっちか分からなくなったけどね。でも、この世界に来て思うのは、実は私にはこの世界の方が幸せが多いのでは?と言うことだ。ナードもだけど、ティナやアーク達にはもう何度も助けてもらってきた。こう言うあからさまな嫌がらせや差別は、普通に暮らしている中でも別に少なくない。私が多少慣れているせいで、おそらく普通の精神の人なら逃げ出したくなる様な言葉も、言われたことだってある。だから今回のなんか安い。でも、この世界よりマシな筈の元世界では、ホームレスのおじさん達の様な遠い他人しか、私には助けてくれる人が居なかった。直接ではなく、お金をくれたり、一緒に居てくれたり。その存在で確かに救われる事も多かったけど、彼らだって善意の塊ではない。それは当たり前で、それで良かった。けど、この世界のこの恵まれた環境が、もしあの世界であったのなら。私はもっとマシな性格になっていたのではないだろうか、そう思ってしまった。自分の事を人のせいにするなんて、最低だが。


「嬉しかったんだ。だから申し訳ないけど、申し訳なさより感謝が出ちゃった」

「…それで、良い…謝られても、困る…」

「そっか、良かった」


 暫くして後ろで復活した例の彼が、なんかワーワー騒いでいたが、私達は無視してキャッキャウフフしていた。うん、私達の時間は誰にも邪魔させませんよ?

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