F 無邪気な悪意は加速して
部室に入り、いつもの定位置に座る。
「そういえば、晃仁さんは文化祭の準備はしないんですか?」
「ん? いや、美樹も別にいいって言ってたし、俺ができることとかあんまりないだろうしな」
「…ないじゃなくて、しないだと思う」
「自発的に行動するタイプじゃないですもんね」
確かに自発的な方ではないと思うけど。
「…しかもサボリ魔」
「スキあらばサボってますしね」
待て、お前ら教室とか見てないだろ。
「…想像できる」
「目に浮かぶようです」
少なくともそこまで不真面目ではないはずだ。そりゃ、授業中に寝たりとかはあるけど。
「…成績も中の下に近いから救いようもない」
「将来が思いやられますね」
おい、成績はいくらなんでも知らないだろ。それに、中の中ぐらいのはずだ。
「というか、準備の話からなんで成績の話になるんだよ」
「…そういえばそうだった。皆が準備してるのにこんなところで怠けてる事をイジってたんだ」
「あら、私たちとしたことが、飛躍してしまいましたね」
二人は、ハッという感じの表情をしてからそんなことを言う。というか、イジってたのかやっぱり。
「…お守りなら当然」
「そうですね。私たちにネタを提供する義務があると思います」
満面の笑みで言う二人。そんな義務あったのか…。
「というか、まだ引っ張るかそれを」
「…当然」
「なんでしたら、まだまだ引っ張るつもりですし」
「…それに、どこにも行けない可哀想な私たちの暇つぶしには必要」
ユリエは結界を指差しながら言う。
「そうですよ。だから準備をするよりもここで私たちに弄らせてくれてるほうがいいですね」
さっきと言ってること違わないか?
「…あっちは建前、こっちは本音」
「えぇ、はっきり言って真面目に準備されているより、サボってもらってたほうが私たちの本質としては喜ばしいことですから」
別にお前らを喜ばせるためにいるわけじゃないんだけど。
「…それでいい。無意識に喜ばしてくれてれば」
「それに、こんなことを言ったからと言って明日から晃仁さんが準備にはりきるなんてことはないですよね」
癪ではあるが、確かに準備をする予定はない。
「…だと思った」
ユリエが晴れやかな笑顔で言う。
俺は一つため息をついて、机へと突っ伏す。少し眠気が襲ってきたようだ。
「…堕とせないね」
「えぇ、やっぱり堕とせませんね」
意識が落ちる中、二人のそんな会話が聞こえたような気がした。
「…でもこの状態のほうがやりやすい」
「そう、ですね…」




