↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初心者ダンジョンを掃除してたら、中級になりました  作者: ギズモ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/3

第2話 戦わないための試験です

 三日後。


 俺は。


 中級ダンジョンの入口にいた。


「…………」


 帰りたい。


「まだ始まってませんよ」


「分かってます」


 受付用の机。


 その向こうには、試験担当の協会職員。


 隣には中継ドローン。


 その上には。


「キィ!」


「お前は楽しそうだな」


 俊太郎が胸を張った。


 今日受けるのは。


 新しく作られた。


 中級清掃従事者ライセンス。


 その実地試験。


「もう一度確認します」


「はい」


 職員が端末を見る。


「今回の試験では、戦闘能力を評価しません」


「素晴らしいですね」


「モンスターを倒しても加点はありません」


「倒せません」


「自分から戦闘へ入った場合は減点対象になることがあります」


「絶対入りません」


「即答ですね」


「俺、清掃員なんで」


「そのための試験です」


 職員が。


 ダンジョンの地図を表示した。


 今日使うのは。


 中級ダンジョンの浅い階層。


 構造も。


 出現するモンスターも。


 罠の位置も。


 ある程度把握されている。


「指定された三か所を清掃してください」


「はい」


「ただし」


 職員が俺を見る。


「三か所すべての清掃は、合格条件ではありません」


「…………」


「危険だと判断した場合は?」


「帰ります」


「清掃途中でも?」


「帰ります」


「まだ一か所残っていても?」


「帰ります」


「いいですね」


「いい試験ですね」


「そこは昨日も聞きました」


 覚えていたらしい。


「評価対象は、安全確認、モンスター回避、罠への対応、装備管理、ルート選択、撤退判断などです」


「掃除は?」


「もちろん清掃品質も見ます」


「よかった」


 一応。


 清掃試験だった。


「それから」


「はい」


「何か予定外のことが起きた場合、自己判断だけで進めず、可能であれば協会へ報告してください」


「可能であれば?」


「通信不能など、報告できない場合もありますので」


「なるほど」


「では」


 職員が入口を見る。


「試験を開始します」


「はい」


「佐倉さん」


「何です?」


「頑張ってください」


「頑張らない程度に頑張ります」


「それで結構です」


「キィ!」


 俺は。


 モップと清掃道具を持ち。


 ダンジョンへ入った。


     *


 一か所目。


 問題なし。


「《浄化》」


 壁際に残っていた。


 乾いたモンスターの体液。


 薄い光。


 消える。


「よし」


『第一指定地点の清掃完了を確認』


「次」


「キィ!」


 俊太郎を乗せたドローンが。


 少し先へ進む。


 地図を見る。


 二か所目までは。


 まっすぐ行けば近い。


 ただ。


 この先には。


 モンスターの巡回経路がある。


「ドローン、前方確認」


『走査します』


 少し待つ。


『前方約六十メートル。移動反応を三つ確認』


「種類は?」


『グレイラットと推定』


「…………」


 中級。


 なので。


 初心者ダンジョンに出る個体より。


 少し大きい。


 俺が戦いたい相手ではない。


 というか。


 俺が戦いたいモンスターなんて。


 基本いない。


「巡回方向は?」


『こちらへ接近中』


「じゃあ待とう」


 少し戻る。


 壁際。


 地図上にある。


 小さな待避スペース。


 そこへ入る。


「キィ?」


「通り過ぎるまで休憩」


「キィ」


 俊太郎が。


 ドローンの上で座った。


 俺も。


 壁にもたれる。


 遠くから。


 小さな足音。


 だんだん近づいて。


 通路の前を。


 三匹のグレイラットが通っていく。


 こちらへは来ない。


 そのまま。


 遠ざかった。


『前方の移動反応、離脱』


「よし」


 進む。


 それだけ。


 何もしていない。


 でも。


 これが。


 今日の正解らしい。


「楽だなあ」


『発言を記録しました』


「記録しなくていいよ」


『試験中のため記録を継続します』


「ですよね」


     *


 二か所目。


 床。


 泥。


 何かを引きずった跡。


「結構汚れてるな」


 モップを使う。


 細かいところだけ。


 《浄化》。


 五分ほど。


『第二指定地点の清掃完了を確認』


「あと一つ」


 地図を見る。


 三か所目。


 ここから。


 十分くらい。


「行けそうだな」


 通路を進む。


 角を曲がる。


 その先。


「…………」


 道が。


 塞がっていた。


 岩。


 瓦礫。


 天井の一部が崩れている。


「こんなの地図にあった?」


『登録情報にはありません』


「最近崩れた?」


『可能性があります』


「キィ」


 俊太郎が。


 崩れた場所を見る。


 俺も近づこうとして。


 止まった。


「……やめとこう」


『理由を確認します』


「崩れた直後かもしれないし」


 追加で。


 落ちてくる可能性もある。


「俊太郎」


「キィ」


「向こう側、分かる?」


 耳が動く。


 しばらくして。


 俊太郎が。


 右側。


 壁の向こうを指す。


「別の空間?」


「キィ」


「ドローン、走査」


『壁越しに空間反応を確認。ただし直接通行可能な経路は確認できません』


「じゃあ駄目だな」


 瓦礫を。


 どかせば。


 通れるかもしれない。


 俺は。


 そういうことも。


 やったことがある。


 でも。


「今日は清掃試験だし」


 無理して。


 道を作る必要はない。


「迂回路は?」


『現在位置から第三指定地点までの代替経路を検索します』


 地図が切り替わる。


『一経路確認』


「どれくらい?」


『通常歩行で約十八分』


「遠いな」


 でも。


 帰還時間には。


 まだ余裕がある。


「行くか」


 俺は。


 迂回路へ向かった。


     *


 五分後。


「…………」


 足を止める。


「キィ?」


「待って」


 地図を見る。


 さっきの分岐。


 こっちへ曲がった。


 問題ない。


「…………」


 何か。


 忘れている。


『どうしました?』


「いや」


 試験。


 予定外。


 ルート変更。


「あ」


 思い出した。


「協会に報告してない」


『通信は正常です』


「ですよね」


 昨日。


 言われた。


 予定外のことが起きたら。


 可能なら。


 報告。


「こちら佐倉です」


『はい。試験管理室です』


「すみません」


『何でしょう』


「予定ルートが崩落で通れなかったので、迂回してます」


『確認しています』


「……先に言うべきでした?」


『試験終了後に評価します』


「今教えてくれないんです?」


『試験中ですので』


「ですよね……」


 たぶん。


 減点だ。


「キィ」


「お前、気づいてた?」


「キィ!」


「絶対分かってないだろ」


     *


 迂回路を進む。


 モンスター反応なし。


 罠。


 一つ。


 床の色が。


 少し違う。


「これ怪しいな」


『走査します』


 罠だった。


 壁際を。


 慎重に避ける。


 そこから。


 さらに進む。


 第三指定地点まで。


 あと少し。


 そのとき。


『警告』


「ん?」


『前方に複数の移動反応』


「どれくらい?」


『五』


「種類は?」


『小型人型。ゴブリンと推定』


「多いな」


 地図を見る。


 別ルート。


 ない。


 後ろ。


 安全。


 前。


 ゴブリン五体。


 指定地点は。


 その先。


「…………」


 時間を見る。


 まだ。


 行けなくはない。


 待てば。


 巡回が外れるかもしれない。


「巡回予測は?」


『現在の観測情報では、当該通路周辺を十五分以上巡回する可能性があります』


「十五分」


 待つ。


 そこから。


 清掃。


 さらに。


 帰る。


 できなくはない。


 でも。


 帰還予定時刻。


 余裕は。


 かなり減る。


 しかも。


 帰り道には。


 さっきの罠。


 巡回していたグレイラット。


 予定外の崩落。


「…………」


 俺は。


 三か所目を見る。


 見えないけど。


 あの先。


「帰ろう」


『第三指定地点は未清掃です』


「うん」


『試験を中止しますか?』


「中止じゃなくて」


 少し考える。


「清掃を二か所で切り上げて、帰還します」


『理由を』


「ここで十五分待って」


 そのあと。


 掃除。


 帰り。


 途中で何かあったら。


 余裕がなくなる。


「今なら普通に帰れるので」


『了解しました』


「じゃあ帰ろう」


「キィ!」


 俊太郎は。


 なぜか。


 一番元気だった。


     *


「お疲れさまでした」


「お疲れさまです」


 入口。


 戻ってきた。


 モップ。


 ゴミ袋。


 道具。


 全部ある。


 怪我。


 なし。


「キィ!」


 俊太郎も。


 無事。


「結果は?」


「現在集計中です」


「不合格?」


「まだ何も言ってません」


「三か所目、掃除してないですよ」


「はい」


「それって」


「問題ありません」


「…………」


 職員が。


 端末を見る。


「第三指定地点を諦めた判断は適切でした」


「よかった」


「巡回中のゴブリン五体を避けるため待機した場合、帰還予定に対する安全余裕が不足します」


「ですよね」


「作業完遂より帰還を優先した点は加点です」


「掃除しなかったのに?」


「そのための試験です」


「いい試験だなあ」


「ただし」


「…………」


 やっぱり来た。


「予定ルートが使用不能と判明した時点で、協会への報告が必要でした」


「忘れてました」


「はい」


「途中で気づきました」


「はい」


「そこは?」


「減点です」


「ですよね」


「さらに」


「まだあるんです?」


「迂回開始前に、帰還予定時刻の再計算をしていません」


「…………」


 そういえば。


 地図に。


 十八分。


 と出たから。


 そのまま行った。


「後で時間見ました」


「後では遅いです」


「はい」


「予定外の事態が起きた場合、その時点で時間、物資、退路を再確認してください」


「分かりました」


 こういうところ。


 自己流だったんだな。


 帰る判断はする。


 でも。


 正式な手順として。


 何を。


 どの順番で確認するのか。


 そこまでは。


 知らなかった。


「ほかは?」


「現時点では大きな問題はありません」


「お」


「モンスターへの接触ゼロ」


「はい」


「罠への接触ゼロ」


「はい」


「負傷ゼロ」


「はい」


「指定清掃二か所の品質も基準を満たしています」


「じゃあ」


「合格です」


「…………」


 思ったより。


 あっさり。


「受かった?」


「はい」


「中級?」


「はい」


「俺、一人で中級ダンジョン入っていいんです?」


「清掃業務に限り」


「…………」


 なんだろう。


 嬉しいような。


 嫌なような。


「おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「キィ!」


「お前も受けたみたいな顔するな」


 ニィッ。


「笑うと怖いって」


 職員が。


 次の資料を出した。


「では次回」


「…………」


 もう嫌な予感がする。


「清掃系能力の比較実証を行います」


「あ」


 そうだった。


《洗浄》。


《清浄》。


 そして。


 俺の《浄化》。


「黒い異常も?」


「グラーフさん立ち会いのもとで実施予定です」


「…………」


 俺は。


 少しだけ。


 期待した。


 もし。


《洗浄》でも。


《清浄》でも。


 黒いモヤを消せるなら。


 俺だけが。


 あちこち行かなくて済む。


「《洗浄》」


「はい」


「強いんですよね?」


「清掃用途では」


「期待してます」


「何にです?」


「いろいろです」


 できれば。


 ものすごく。


 頑張ってほしい。


 俺ではなく。


《洗浄》に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。