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初心者ダンジョンを掃除してたら、中級になりました  作者: ギズモ


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第1話 清掃員用の資格ができました

「佐倉さん」


「はい」


「清掃員用の資格を作りました」


「…………」


 探索者協会。


 会議室。


 机の向こうには、いつもの男性職員。


 その横には見覚えのあるダンジョン管理部の職員。


 俺の隣。


 椅子の背もたれには中継ドローン。


 その上に俊太郎。


「キィ!」


「元気だなあ」


 俺はもう一度。


 机の向こうを見る。


「……清掃員用?」


「はい」


「資格?」


「はい」


「俺、もう清掃員なんですけど」


「存じています」


「ですよね」


 何の話だろう。


 今日は。


 第六回。


 たぶん。


 いや。


 もう数えるのはやめよう。


 協会から呼び出された時点で。


 普通の話ではないと思っていた。


「正式名称は、ダンジョン清掃従事者ライセンスです」


「長いですね」


「通称は清掃ライセンスで構いません」


「じゃあそっちで」


 職員が資料を一枚こちらへ滑らせる。


 見る。


《ダンジョン清掃従事者ライセンス制度 試験運用案》


「本当に作ったんですね」


「作りました」


「…………」


 前に。


 言っていた。


 俺が安全かつ正規に。


 中級。


 そのうち。


 上級ダンジョンでも活動できる条件を考えると。


 俺は。


 別に考えなくてもいいと言った。


 ちゃんと。


 言った。


「これ」


「はい」


「俺を上級ダンジョンに入れるために作ってません?」


「制度上は違います」


「制度上は?」


「ダンジョン内で活動する非戦闘専門職のための制度です」


「今、制度上って言いましたよね?」


「言いました」


「じゃあ実際は?」


「佐倉さんの件が制度設計のきっかけになったことは否定しません」


「やっぱり」


 嫌な予感しかしない。


「ただし」


 職員は資料を指した。


「佐倉さん専用の制度ではありません」


「他にもいるんです?」


「その予定です」


 資料をめくる。


 清掃。


 衛生管理。


 設備点検。


 残留物処理。


 ダンジョン内部には。


 探索者以外にも作業が必要な場所がある。


 それは分かる。


 俺も。


 ずっと掃除している。


「現在は、そうした作業も探索者資格を持つ者が行うか、比較的安全な区画に限って実施しています」


「はい」


「ですが」


 別の職員が続けた。


「戦闘能力が高くなくても、専門技能を持つ人間をダンジョン内で活動させたい需要は以前からありました」


「へえ」


 俺だけの話ではないらしい。


 少し安心した。


「そこで今回、非戦闘専門職向けの資格制度として試験運用します」


「なるほど」


「取得した等級に応じたダンジョンへ、単独で入場できます」


「…………」


 安心したのを返してほしい。


「単独?」


「はい」


「護衛なし?」


「原則として」


「俺、戦えませんよ?」


「承知しています」


「ゴブリンでも嫌ですよ?」


「承知しています」


「この前も逃げましたよ?」


「それも承知しています」


 何で。


 それで一人で入れていいと思ったんだ。


「だからこそ、探索者とは別基準で審査します」


「別基準?」


「はい」


「戦闘試験は?」


「原則ありません」


「…………」


 いい資格かもしれない。


「その顔をすると思いました」


「いい資格ですね」


「ただし」


「…………」


 来た。


「安全に関する審査基準は、通常の探索者試験より若干厳しく設定されています」


「何でです?」


「戦えない人を一人で入れるからです」


「なるほど……」


 ものすごく納得した。


 納得したくなかったけど。


「モンスターの巡回把握。遭遇回避。罠の発見と回避。退路確保。非常時対応。応急処置。装備管理。撤退判断」


「多くないです?」


「必要です」


「探索者より?」


「戦闘能力で危険を突破できませんから」


「ですよね」


 敵が出た。


 倒す。


 ではない。


 敵が出る前に避ける。


 出たら逃げる。


 無理なら帰る。


「……なんか」


「はい」


「俺がいつもやってることですね」


「そうですね」


「キィ!」


「お前もな」


 俊太郎が胸を張った。


「ただし」


 職員が続ける。


「自己流でできることと、正式な安全手順を理解していることは別です」


「はい」


「ですので、佐倉さんも通常通り受験していただきます」


「特例でくれたりは?」


「しません」


「ですよね」


 そこは。


 少し安心した。


 俺専用で作った資格を。


 俺だけ無試験でもらったら。


 さすがに嫌だ。


「等級は?」


「現時点では、ダンジョン区分に対応させます」


「初級、中級、上級?」


「はい」


「初級から受けるんです?」


「佐倉さんは既存の活動実績がありますので、初級相当の審査は免除できます」


「お」


「今回受けていただくのは中級です」


「…………」


 やっぱり。


「いきなり中級?」


「これまで中級ダンジョン内での活動実績があります」


「飛ばされたんですけど」


「生還実績もあります」


「実績って言い方すると格好いいですね」


「実績ですので」


 俺の中では。


 事故だ。


「試験に合格すれば」


 資料の次のページ。


《中級清掃従事者》


「中級ダンジョンへ清掃業務を目的として単独入場できます」


「普通に?」


「規定の範囲内で」


「コアルームも?」


「条件付きです」


 やっぱり。


 そこは別らしい。


「ボスが存在している間は入室できません」


「そりゃそうですよね」


「探索者による討伐後、次回リポップまでの安全期間に限って入室可能です」


「リポップってどれくらいです?」


「ダンジョンによりますが、数日程度が一般的です」


「じゃあ掃除できる時間は結構あるんですね」


「はい。ただし、コアルーム清掃は毎回行うものではありません」


「そんなに汚れませんもんね」


「必要性がある場合のみです」


 ボス戦のあと。


 血。


 壊れた装備。


 残骸。


 そういうものが多ければ掃除。


 そうでもなければ。


 わざわざ入る必要はない。


「あと」


 職員が俺を見る。


「清掃ライセンスを取得しても、攻略核およびダンジョン核への接近制限は解除されません」


「ありがとうございます」


「喜ぶところですか?」


「俺は近づきたくないので」


 そこは。


 本当に助かる。


「キィ」


「お前も近づくなよ」


「キィ!」


 分かってるのかなあ。


「それで」


 俺は資料を閉じかけた。


「試験受ければいいんですよね?」


「はい」


「受かれば中級で単独で掃除できる」


「はい」


「じゃあ」


 まあ。


 それくらいなら。


 今までだって。


 中級ダンジョンには入ったことがある。


 地下八階から六階まで歩いたこともある。


 もう一度やりたいかと言われれば。


 嫌だけど。


「受けます」


「ありがとうございます」


「上級は受けませんよ」


「まだ何も言っていません」


「先に言っときます」


「希望は拝聴しました」


 職員が。


 もう一枚。


 資料を出した。


「それから」


「…………」


 嫌だ。


 その出し方。


「まだあるんです?」


「今回の制度試験には、佐倉さん以外にも参加者がいます」


「それは聞きました」


「清掃系能力の保有者です」


「清掃系?」


「《洗浄》」


「はい」


「《清浄》」


「はい」


「ほかにもいくつか候補があります」


「へえ」


 俺以外にも。


 掃除に向いている能力。


 そりゃ。


 いるだろう。


「実際の清掃能力についても、今回比較します」


「試験ついでに?」


「はい」


「俺、負けるかもしれませんね」


「可能性はあります」


「そこ即答します?」


「《洗浄》は清掃用途では非常に優秀です」


「名前からして仕事できそうですもんね」


 少し。


 興味が出てきた。


 俺の《浄化》は。


 掃除に使える。


 だから使っている。


 でも。


 掃除だけなら。


 もっと向いている能力があってもおかしくない。


「そして」


「はい」


「もう一つ確認します」


 嫌な予感。


「黒い異常に対して、《浄化》以外の清掃系能力が有効かどうか」


「…………」


 やっぱり。


 そっちか。


「グラーフさんが言ってたやつですね」


「はい」


 初心者ダンジョンで見た黒いモヤ。


 普通の人には見えない。


 侵食が進めば。


 黒い染み。


 粘液。


 膜。


 そういう形で実体化する。


 そして。


 今のところ。


 あれを元に戻せたのは。


 俺の《浄化》だけ。


「でも」


「はい」


「《洗浄》とかで消えたら」


「佐倉さんだけを中級、上級へ派遣する必要はなくなります」


「…………」


 俺は。


 少し考えた。


「絶対試しましょう」


「その予定です」


「念入りに」


「もちろんです」


「何人でも」


「安全上可能な範囲で」


「《洗浄》がんばれ」


「キィ!」


「俊太郎も応援しろ」


「キィ!」


 良い話だ。


 もし。


 ほかの能力でも黒いモヤを消せるなら。


 俺が。


 上級ダンジョンへ行く必要はなくなる。


「佐倉さん」


「はい」


「顔が明るくなりましたね」


「気のせいです」


「そうですか」


「はい」


 俺は資料を見る。


 中級清掃従事者ライセンス。


 戦闘試験なし。


 危険回避。


 撤退判断。


 生きて帰る。


「試験はいつです?」


「三日後です」


「早くないです?」


「準備はすでに進めています」


「俺が受ける前提だったんです?」


「受けていただけると考えていました」


「断ったら?」


「説得する予定でした、色々と……」


「…………」


 苦肉の策。


 とは。


 たぶん。


 こういうことを言うんだろう。


「分かりました」


「では、詳細な試験要項を説明します」


「お願いします」


「まず最重要事項として」


「はい」


「試験中、作業の完遂を最優先にしないでください」


「…………」


 清掃員の試験なのに?


「危険だと判断した場合、清掃が途中でも撤退してください」


「帰っていいんですか?」


「帰らなければ減点です」


「…………」


 俺は。


 少しだけ。


 この資格が好きになった。


「いい試験ですね」


「まだ始まっていません」


「キィ!」

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