第8話 地下牢の令嬢
――ティアが大魔法を放って、褒めて欲しそうにこちらを満面の笑みで見つめていた。
「に、兄さん……こ、この魔法は」
放った本人が目の前に居るのになして俺に聞くの?
てか、本人が精神支配解除魔法って言ってんだから俺に聞くなよ……。
「魅了掛かってたのをティアが解除したっぽい?」
「こちらの美しいエルフ様が……」
様?……ティアを見るファインの目がハートになってるんだが?魅了解けたんだよな?
「ファイン?ちょっと今見てやるから」
――《直観》
見事に魅了が消えて制限の文字も解除されて……そしてスッと再び魅了の文字が浮かび上がる。なんでだよ!
「おいティア!魅了が消えたのにまた魅了状態だぞ!」
「そ、そんなまさか」
「これ見て見ろよ」
俺はスキルを発動したままティアにファインのステータスを見せる。
「……先ほどの制限は解除されていますね。ですが魅了だけ残ってるとは」
するとファインがティアの前に立ち。
「僕が魅了に掛かっているとすれば」
すれば?
「貴女の瞳に魅了されているのですよ、我が愛しの君」
そしてティアの手を取り、そっと両手で包み込む。
――プルプル震えるティア。
「ん?僕に触られて緊張しているのかい?」
「私に触れていいのは主様だけだ!!」――ドクシュッ!!
次の瞬間、ティアの空いてる右手が綺麗にファインの鳩尾に決まっていた。
「う、美しい上に強い、とは……最高」――ガクッ。
「ファイーーーーーーン!!」
――――
――
と、まぁそんなやりとりがあったのだが。
今はファインも落ち着きを取り戻し椅子に腰かけている。
「で、お前に魅了を掛けた相手だが」
俺はファインを見ると、ファインがティアを見つめている。
「そっちの魅了じゃなくてな、話続けていい?」
「す、すみません兄さん。ついつい視線で追ってしまってました」
「はぁ、まあいいよ。で、そのお前に故意に魅了を掛けた相手の話だ」
「……はい。今思えば僕はどうしてあの様な男爵令嬢ごときに心を奪われていたのか……ぞっとします」
「そー言う魔法かスキルなんだろう。気にするな」
「はい」
「問題は王子の方だ。ティア」
「はい!」
「いまの解除魔法って何発も放てる?」
「すみません主様。先ほどの規模では数日は無理です」
「……どの規模ならいけるの?」
「そーですね。相手の目を5秒ほど見る事が出来れば解除は可能です」
「兄さん待って下さい!」
「な、なに?」
「ティアリア様がその瞳で王子を5秒も見つめるという事ですか!」
「え?あ、うん。そーなるな」
「無理です!」
「なにがだよ!」
「僕が無理です!」
「知るかーーーーっ!」――――スコーーーン!
「またですか!どこからスリッパ出したんです!」
「煩い!そもそもティアがさっきのどでかい魔法を王城で使ったら一瞬で解決だっただろ!ほんとお前ら面倒くさい!」
「そんな主様!」
「酷いよ兄さん!」
……あー面倒くさい。
その時、部屋をノックする音が響く。
――コンコン。
「イズナ様、ファイン様。王城より早馬が参りまして書状をお預かりしました」
それに答えたのはファイン。
「わかった。入ってくれ」
そしてファインが書状を受け取り読み進める。
だが内容が思わしくないのか、その表情がみるみる曇る。
「どうしたファイン」
「父さんが王城で倒れました」
……どういう事?
「……とにかく王城へ行ってみよう」
「はい」
◇
一方その頃。
セレスティア王国領に隣接するハインリッヒ公爵邸に娘と王子の婚約破棄の書状が届いていた。
――ハインリッヒ公爵邸執務室。
「王はいったい何を考えているんだ!」――ドバンッ!!
いきなり届いた書状を握りしめ、白髪に白髭を蓄えた精悍な初老の男が大きな拳でデスクを殴りつける。
それを見つめる年老いた兵士達。
だが年老いたとはいえ、その兵たちの姿勢と眼光はハインリッヒ公爵にも引けを取らない屈強な者達だ。
一発の拳で粉々に粉砕したデスクを見つめ、公爵はうなだれる。
「高齢で漸く授かった我が娘に……なんという仕打ち」
兵達も忠誠を誓った主の嘆きに拳を握りしめ、血を流す者まで居る。
「閣下。ご下命頂ければ直ぐにでも王家を亡ぼしに参ります」
一人の兵士が、静かに、そして憤怒が籠った怒りの声を上げる。
「……ならん、ならんのだ」
「閣下!」
「今国が荒れれば帝国との均衡が崩れる……そうなれば我が領民にも多大な被害が出るであろう」
「クッ、ですが姫は王家の地下牢に捕らえられておるのですぞ!我らの、我らの可愛いテルマイル嬢が不憫でなりませぬ!」
初老の兵たちは其々が幼き日のテルマイルとの日々を思い起こす。
「……いずれ王家は滅ぼす。だが今ではないのだ……」
――バン!「閣下、失礼致します!」
「何事ぞ!!」
大きく開け放たれた扉の前で、老兵の怒りを無視し息を整える間もなく言葉を発する。
「ご、ご報告申し上げます!ボーデン侯爵の子息がセレスティア王家よりテルマイル嬢を誘拐したとの事です!」
「「「おぉ~」」」
老兵たちに笑顔が見えるが、当の公爵は眉間にしわを寄せた。
「今、誘拐と申したか?救出ではなく」
「はっ!王家の正式発表です!尚公爵家はボーデン侯爵家より自身の娘の奪還に協力せよとの依頼が来ております」
「――いったい何が起こっているというのだ……」




