第9話 王家の異変
「ボーデン侯爵家のファインと申す!父の様態を確認しに参った!」
馬上から王城の入口で声を張るファイン。
「話はお伺いしております、どうぞそのままお入りください」
弟に続きティアを乗せた俺も前に進もうとするが、馬の前で屈強な門兵の槍がクロスされる。
この世界、屈強な男が多すぎる……。
「そちらの御仁はここでお待ちください」
「え?いや、俺ボーデン家の長男なんだけど……」
そう告げるが門兵二人がうなずき合い。
「イズナ=ボーデン様、貴方は我々にお付き合い下さい」
殺意も敵意も感じない門兵の真剣な眼差し。
それにその門兵の顔には見覚えがあった。
「……理由は、教えてくれるんだろうな?」
「む、勿論です。直ぐに済みますので」
俺はファインに目配せするとティアと馬を降り、門兵の一人に同行する事にした。
ティアの耳はパッシブが効いているのか普通の耳になっており、見た目ちょっと奇麗なお姉さんくらいになっている。そんなティアは。
「たかが門兵ごときがイズナ様を呼び止めあまつさえ付き合えとは……殺りますか?」
「やらないよ!物騒な事言わない。そもそもアイツは知り合いだ」
「たかが門兵がですか?」
そもそもこの二人、サムとトムは今は門兵をしているが以前は近衛騎士の中でも最精鋭。
謁見の間で王座に一番近い位置で王様を守ってる人、あれだったのだが……。
そして二人が俺に近づき。
「イズナ殿!」
「え、は、はい」
「もーちょっとだけ待ってくれ!」
「俺ももう少し待って欲しい、そろそろ給料日だ」
急に俺に頭を下げ出す二人に驚くティア。
「えーっと、サムさんが51万ゴールドでトムさんが38万ゴールドでしたよね」
「イズナ様?」
首をかしげるティアだが、さもあらん。
この二人は以前から俺のスキル先生の餌食になっているのだ。
「それよりそろそろギャンブル止めたら?」
「いや、それはできん!」
「うむ、できんな」
「なんでだよ!門兵まで格下げになるくらいギャンブルするとか頭おかしいでしょ!」
「今は負けているが、運が少し逸れているだけなのだ」
「うむ、運はうつろいやすいもの故な」
「イズナ様……この者達」
ティアの言いたい事はわかる。
カッコイイ感じに言っているが、ダメな大人の見本なのだ。
「はぁ、わかりました。借金取りでもないですし余裕のある時でいいですよ」
「おぉ~それはなんとも心の広い!」
「これで次の賭場での種銭が確保出来たぞ」
本当にダメな人達だ。
だがそれでいい。次の賭場でまた稼がせてもらうから!
てかそれどころじゃなかった。
「あ、それで俺の親父が城で倒れたって聞いたから急いで来たんだけど。何か知ってる?」
俺の問いに二人は顔を見合わせた。
「その事でイズナ殿にご相談があります」
話し始めたのはサムさん。
「ここ最近の王家は少し……いや、かなり異常です」
「……と言うとトムさんのスキル関係?」
サムさんの隣の寡黙そうなトムさん。
このトムさん、俺が賭場に現れるまで賭場の王と呼ばれる程のギャンブル王だったのだが。
その秘密は彼のスキルにある。
「ええ、ご存じの通りトムには《看破》のスキルがあります」
「だよね、近衛騎士トムの看破は巷では有名だもんね」
「しかし今、王の側近近衛に鑑定系のスキル持ちは居ない、いや、意図的に外されているとしか思えんのです」
「……トムさんとサムさんが外されたのは借金問題――」
「ゲフッゴフッ!」
「大丈夫かトム!」
「だ、大丈夫だ。持病の依存症が少し出ているだけだ」
「それギャンブル依存症じゃねーか!しかも持病になってる!」
「ははっ、これはお恥ずかしい」
「聞いてるこっちが恥ずかしいよ!」
と、まぁ二人の三文芝居を見せられつつ詳しく聞くと、近衛だけでなく王だけでもなく、王家全体に鑑定系排除が進んでいるらしい。
「それで昨日の事件ですよ」
「事件?親父が倒れたのは今日だろ?」
「ボーデン侯爵が倒れられたのは頭に血が上ったせいだと聞いてます」
「え、そうなの?」
「相当王に対して切れられたそうで……」
「なにやってんだあの親父。様態は?」
「今は意識も取り戻されて王城の一室でお休みされていると報告は受けてます」
「はぁ、ま、一安心だな。で、昨日の事件って?」
「ハインリッヒ公爵令嬢が幽閉されているのはご存じですか?」
「ハインリッヒ公爵令嬢って……テルマイル嬢だよな。婚約破棄されたのは知ってるけど幽閉?婚約破棄までしてその相手を幽閉って……テルマイル嬢って誰か殺った?」
「あの令嬢が殺人を犯すなんて事はありません。理由は王家に対する侮辱罪だそうです」
「なんだそれ……そんな法律この国にあったか?」
「ある訳ないですよ。あったとしても平民が貴族に対してだけです」
言いながら一瞬目を反らすサムさん。
「……サムさんとトムさんが貴族に借金してる不敬は置いとくとして、強引すぎだろ……あ、テルマイル嬢と言えば悪魔の令嬢、鑑定スキル持ちじゃなかったっけ」
「ええ、間違いなく鑑定持ちです」
「それに最近トムも街で何度か命を狙われてまして……」
「他にも借金返してない所あるんだ」
「そ、そーではなくてですね?そのスキルを狙ったものではと」
「そーだよね。借金してる奴殺したらお金貰えないもんね」
「ウグッ」
「……このままいくとテルマイル嬢は幽閉どころか罪をどんどん着せられて死罪まで追い込まれると」
「そうなる可能性は十分に……」
はぁ……なんて話を俺に聞かせるんだよ。
どことも知れない令嬢ならいざ知らず……ハインリッヒのテルマイルか……。
「イズナ様どうされました?」
「あーちょっと昔の事を思い出してた。サムさん、トムさん、この話を俺にしたって事は――」
「この国は目に見えない何か大きな何かに襲われてます。借金はあるがこれでも元近衛なんでね。信頼できるイズナ様にこの事件を解決して欲しい。いや、あなたしか出来ない……と、トムが言ってます」
「うむ」
「そっちかーい!俺に看破使った?」
「うむ」
「使ったんかい!はぁ、まあいいや。テルマイル嬢には恩もあるしな」
「では今より期間限定ではありますが、我ら二人は貴殿の配下となりましょう」
「……じゃ配下の期間ギャンブル禁止ね」
「ゲフッ!持病の依存症が!」
「トム!大丈夫かトムーーーー!」
「……殺りましょうか?」
ティアの殺気に俺は頷く。
「あ!なんか急に依存症が無くなった気がするぞサム!」
「誠か!」――チラッ
期間限定でもいらねぇと思うが……このおっさんらマジ強いからなぁ。
「わかったよ、他で借金作られても心配だから期間中は俺が相手するよ。それでいい?」
「流石イズナ殿!一生ついて行きますぞ!」
……い、一生は。いいかな。
親父の見舞いに来ただけだったが、急遽テルマイル嬢幽閉事件の真相を暴く為に俺は動き出す事になった。




