第4話 婚約破棄
翌日、俺はティアリアと夜明けと共に街へ戻り宿で部屋を借り、ティアリアの服を買ったり靴を買ったりで奔走した。
既に首の鎖は外していて、再び付ける気にもならないのでそのままだ。
逃げたとしても、それはスキル師匠の金持ち戦略の一部に違いない……違いないよね?
「こんな綺麗な服はもう着れないと思っていました……グスッ」
「な、泣くほど!?だ、大丈夫だから!俺に任せとけばいいから!」
女性の涙は毒だ。
自信も無いのに大丈夫だぁ、心配ないぞぉ~とか言ってしまう。
「ご主人さま」
顔近っ!
「そ、それよりだな。俺は一応この国の侯爵家の長男なんだ。君をこのまま意味も無く連れて歩くわけにもいかない」
「はい」
「そこで魔法が得意な君を俺の護衛として雇う事にする。勿論給金は払う」
「お給金なんてそんな」
そーですよ!スキル師匠の指示が無ければ金払うとかあり得ん!!スキル師匠に最大の敬意を払うんだな!
「とにかく今日中にティアリアを父へ紹介する。身分は冒険者をしていた事にしてもらってるから問題ない」
「冒険者、ですか」
「こう見えて小遣い稼ぎに冒険者もやってるからな。知り合いもギルドには多いんだ」
「わかりました。冒険者ギルド所属だったティアリアですね?」
「んー、ティアでよくない?」
「っ!呼び捨て!」
「あ、ごめん。そういう意味じゃ――」
「いえ!是非ティアとお呼び下さい!!」
「あ、あぁ、じゃティアさん」
「ティア!ティアです!」
「お、おう」
脅威度MAXでその圧やめてくれません?
◇
「旦那様、イズナ様が女性を伴ってご帰宅なされました」
「なんだと!今すぐここへその女性と共に連れてこい!」
「は、はい!ただいま!」
執事がこれまで以上のボーデン侯爵の圧に慌てて執務室から飛び出していく。
その後姿を確認し、ボーデン侯爵は深いため息と共に椅子にもたれ窓から空を見上げる。
ふぅ……イズナが生まれて19年。
あれの母親、妻のヒミコが東方の島国出身であり、その血を濃く受け継いだ息子は周りから酷くイジメを受けていたのは知っていた。儂はそれをあの子の試練と勝手に定義して放置してしまった。
あいつの奇行がそのしわ寄せなのだと誰でも気づくだろう。
そんな息子を唯一心配してくれた令嬢もお一人だけ居た。
だが、その方は王家と婚約し息子とは住む世界の違う御仁となられてしまった。
そして彼女の一人も出来ることなく19年アレは暴走し続け、侯爵家長男という立場でありながら貴族の中で誰も相手をしなくなった。
そんな息子が女性を連れて来た。
な、なんと嬉しい事か。
そうか……あいつにも漸く春が来たのだな。
ヒミコ、これで、これで少しは君に顔向けが出来るかも知れないな。
「旦那様、イズナ様とティアリア様をお連れしました」
なんと、亡国の姫君と同じ名前とは。さぞ美しい女性なのだろう。
「やぁ親父、今日から俺の護衛になってもらう冒険者のティアだ」
「うむ」
「お初にお目にかかります、冒険者のティア。本日よりイズナ様の護衛として身命を賭してお守りする所存でございます」
綺麗なカーテシーと共にその銀髪の女性は顔を上げる。
「……銀髪の、エルフ」
「あ、あぁ彼女実はエルフなんだよね。こ、この辺じゃ珍しいよね」
「銀、髪、エルフ」
「だからそーなんだって、あ、親父もエルフってあんまり見た事ない感じだった?でも美人でしょ」
「あ、主様、私みたいな醜女を美人だなんて//////」
「な、ななななな何を連れて来とるんだイズナーーーーーーっ!」
◇
その頃――場所は変わり、王都のセレスティア学園卒業式。の卒業パーティ。
貴族の子息子女が集い、生演奏に合わせ其々のパートナーと踊っている。
「皆の者!注目して欲しい」
会場の二階へ続く階段の中央で、白のスーツを着るひときわ目立つ金髪の青年。
「私、フランツ王家第一王子であるミハエルは本日この時をもって公爵家との婚約を破棄する!」
その宣言に唇を噛みしめる金髪縦ロールの女性が一人。
「っ!」
「これからはこのマミリー男爵家令嬢を私の婚約者とする事をここに宣言する!」
その宣言に湧く貴族の子息たち。
だが、その中で数人の貴族子息が声を上げる。
「王子!それはあまりにも酷いではないですか!」
「マミリー!俺との婚約の約束は!」
「テルマイル公爵令嬢がまた何かを画策したのか!これはおかしいだろ!」
マミリーに思いを寄せていた子息たち。
その中にはイズナの弟であるサイファの姿も勿論あった。
「君たちが我が愛しのマミリーに対して並々ならぬ想いを持っている事は承知している。だが……これもそこのテルマイルが仕組んだこと!彼女を辺境の魔窟へ送る事でその憤りを何卒収めて欲しい。既に王には通達し許可を得ている」
「王子が頭を下げるなんて……王子!やめてください!」
「王子が謝る事ではありません!すべてはそこの悪魔がしでかした事!」
「なんと恐ろしい女だ」
「衛兵!そこの女を捕らえよ!!」
そしてその場でテルマイルと呼ばれた公爵令嬢は捕らえられたのだった。
しかしその場で立ち尽くす金髪の青年が一人。
「マミリー……君は僕を、僕を裏切るのか?」




