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第2話 世界の覇者

 私はエルフ族王家の娘、ティアリア。

 

 3か月前、その王国は滅んだ。

 近隣の王家の手によってだ。


 父は命を賭して私を守り、護衛の騎士を付けてくれた。


 その騎士も逃亡の末私を守り命を落とし、私は独りになった。


 もう何も無い私。あるのはこの命と父の残した言葉だけ。


『あぁ私の可愛いティアリア、必ず君のもとへ君を救う強き世界の覇者成りえる者が現れる……その縁を見逃すでないぞ――』


 父の言葉は死の間際に見た妄想だと思い始め、私はとうとう自暴自棄になった。


 気づけば奴隷商につかまり、檻に入れられていた。


 エルフだと気づかれれば何をされるか……パッシブで魔法が掛かっているのでバレる事もないだろうが。



――そんな時、私を一人の男が買った。


 見れば凡人であり、父の言った世界に覇を唱える様な者には見えない。


 そして森に連れてこられた。

 宿では無く森へ、だ。

 そうか……私はこの森で彼に犯され非業の死を遂げるのだ。


 そんな時森の茂みから音がする。

 その時凡人は言った。


「まぁここは普通に熊は出るんだけどな」


 思わず凡人の袖を握ってしまった。

 なんて男だ!私を獣の餌にするつもりか!なんて性癖の持ち主だ!


「あーすまんビビらせたな。でも問題ない」


 何が問題ないだ!この性悪変態。


「俺、強いから」


 はぁ?この凡人が強い?ないない。

 これまでで一番笑える話だわ。


 こんな凡人男が強いわけないじゃない。

 それに引き換え私の騎士は屈強で魔法の腕も立ち、知的だったわ……。



 しばらくして滝のある小さな川へ到着した。


「あぁ、服はここで脱いで」


 !!やはりか!今脱げと言ったな!……ヘラヘラと凡庸な顔をしてとうとう本性を現したか!


「いや、抱かないよ?お前臭いもん」


!!!!今この男は臭いから抱けないって言った!?言ったわよね!……な、なんたる屈辱!なんたる侮蔑!


 ……でも。い、一応気になるわね。――クンクン――くっさ!


 た、確かにこれでは抱けないわね!抱かれないけど!――くっさ!


 だ、だが私は元王家のエルフ。

 たとえ凡人に抱かれようとも、この様な有様では私の矜持が許さないわ。


「服は後で洗ってやるから、とっととコレ使って身体洗ってきな」


 彼はそう言って荷物から石鹸と手ぬぐいを渡してきた。

 それはわかる。抱く女が臭いのはたまらないだろうから。


 でも、これはおかしい。


 なぜ鎖を外したの?……あ、え?おい!どこへ行く!このままだと奴隷である私は逃げるわよ?いいの?おい!


 そして凡人は森の奥へ消えていった。


「はぁ、なんなんだあの男は……何が狙いだ?……もしや王家の血を根絶やしにする為に放たれた敵国の!……ないわね。あの顔でそれはないわ。ではなんだと言うの――くっさ!」


 逃げる事も考えたが今は身体を洗う事を優先した。


 久々に体の隅々まで洗うと、荒んだ心まで一緒に洗い流される様だ。


 川のせせらぎ、滝のしぶき、陽に照らされて輝く小さな虹、その隙間に見える熊。



……熊っ!!



 近い近い!無理!無理無理無理!

 

 近すぎて魔法放つ時間もない!ムーリー!!



「きゃーーーーーーーーーーっ!!!」



 久々に大きな声を出したけど、思いのほか大きい叫び声が出た。

 それを機に熊は私に興味を持ってしまった。


 敵国の追っ手から逃げている時でさえこんなミスはした事が無い。

 獣の前で大声を出すなんて!


 自殺は考えたが熊に食い殺されるなんて死に方は想像していなかった。


 そんな死に方は嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!


 私は一縷の望みを次の叫び声に賭ける事にした。

 あんな凡人では無理なのはわかっている。

 たとえ来たところで熊の餌が増えるだけだ。


 それに、奴隷を助ける為に命を懸ける者が居るとも思えない……


 こんな命の危機に瀕している時に、いや、だからこそなのかも知れないけど、生前の父の言葉が頭をよぎる。



『泣かないでおくれ、私の可愛いティアリア。必ず君の元へ君を救う強き世界の覇者が現れる』

 


 だけどもう頼れるものもない……あんな凡人。



「ご主人様ーーーーっ!」



 私の人生最後の叫び声。誰にも届かないかもしれない、そう思ったその時。



「ハッ!」――バシュ!――チン



 突如現れた人影。


 その人影は一瞬のうちに魔熊の首を跳ね飛ばした。



――――見事。


 

 そんな言葉しか思いつかない。

 あまりに洗練された動き。


 私に仕えてくれた騎士でさえこんな動きは不可能だと思う……いったい誰なの。  



 倒れる獣。その横で天を仰ぎ佇む一人の男。

 その神々しさに私は……。



「ご主人さまーーーーーっ!」――バフッ!



 私は恥もなく彼の胸に飛び込んだ。



「本当に強かったのですね、ご主人様」



 何故私はこの方を疑ったのだろう。


 今なら分かります、お父様。

 この人だったのですね。



 首をかしげる彼を見て、その謙虚いえ、慎ましさに私の心は彼のものとなってしまったのです。






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