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聖女アデルは頷かない ~気付かないうちに推しと5年前に結婚の約束をしていたらしい~  作者: 丹空 舞


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(18)

 聖堂の裏庭には、小さな花畑がある。

 高台から見下ろせる墓地に面しているのだが、歴史ある風情があって、気味の悪さは無い。 

 色とりどりの小さな花々が咲き乱れる庭は、ポーションや傷病薬用の薬草が生えているので、聖女たちも時折訪れる。


 アデルは一人で木製の白いスツールに座っていた。


 日の沈みかけた花畑には、ねぐらに戻って来た気の早い小鳥が葉音をたてる。

 人は他には誰もいない。

 仕事が終わって立ち寄ると言っていたミシェルとの待ち合わせは、この花畑なのだ。


 また鳥が飛んできて、チ、チ、と木々の中でさえずる。

 アデルは愉しげに口角をあげて、後ろを振り向いて鳥の姿を探した。


 その時、アデルの背後に影が迫っていた。

 静かに近寄った人物の手には、厨房で使う短刀が握られている。

 アデルの後頭部を睨みつけ、頭上に短刀を振り上げた。


 その瞬間、その人物の手首をグッと握りしめた者がいた。


「キャッ!? み、ミシェル様……!」

「君だったんだね」


 ミシェルは悲しそうに女性の手首を掴み、そっと短刀を抜き取った。


「危ないでしょ、こんなもの振り上げたら」


 くしゃり、と表情を歪めたのは、下級聖女のユピーだった。


「だって! この女が悪いんです! ミシェル様とあたしの間に割り込んできて」


 嫉妬と憤怒で震えている。

 ユピーは濃い口紅を塗った唇のまわりを唾で濡らしながら、興奮して叫んだ。


「騙されてるんですッ! ミシェル様は、あのアデルとかいう女に! あんなの聖女なんかじゃない」

「うん、そうなんだよね」


 と、ミシェルは言った。


「えっ?」

「君も、騙されてるよ。アデル、もう視えた?」


 先ほどまでスツールに座っていたアデルは、パッと立ちあがって、聖堂へ続く小道の塀の一角を指差した。


「そこ! 塀の陰!」


 途端に、何者かがパッと身を翻して走り去ろうとした。

 しかし、白い何かがそれよりも早く飛び出して、何かを引き倒した。


「手荒な真似をしてすまんな、お嬢さん」

 白い何かは騎士団長のマティアスだった。

 隊服の白いズボンを身に着け、女性の腕を拘束している。


 ユピーが目を見開いた。

「デレダ? 何でここに?」

「……」


 背の高いデレダは血の気を失った顔をして、地面に膝をついていた。


 裏庭にガブリエルが走り込んできた。

 惨状にも動じずに、一瞥したのみでマティアスへ報告する。


「この女達の部屋の私物のクローゼットから、毒の入った瓶が見つかった。食中毒事件に使われたものだろう」


「えっ?」

 と、ユピーが変な顔をした。

「嘘よ、そんなはずないわ」


 ガブリエルが首を振る。

「いや、確かにお前たちの部屋からだ」


「だって、あの瓶はもう川に捨てたはずだもの……そうすれば、食中毒事件の犯人は永久に分からないはずって」


「それは誰が言っていたの?」

 と、ミシェルが言った。


 蜂蜜色の瞳がユピーを映す。

 途端に紅潮したユピーは、熱に浮かされるように言った。


「デレダよ。彼女、本当に良い友達なの……ミシェル様に会うためにはどうしたらいいか、デレダが教えてくれたの。花祭りの祭典で、聖女が足りなくなれば、下級聖女の私たちもきっと、壁の花として呼ばれるって。だから、少し具合が悪くなるくらいのちょっとした毒を食事に入れたの。それに、宝物庫の宝物を壊せば騎士団が来るっていうのも本当だった。でも、すぐ帰ってしまったでしょ? 騎士の姿のミシェル様をもっと見たかったって言ったら、デレダが教えてきこれたの。もし、聖女が殺されたら、ミシェル様はきっと何日かいらっしゃるって。ああ、ほら、やっぱりデレダは正しかったわ。こんなに近くでミシェル様に会えるなんて……」



お付き合いありがとうございます。

次回最終話です。

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