(17)
聖堂の中には、今日も聖騎士団が揃っていた。
騎士団長、神速の右槍のマティアス。
副団長、神の鋼剣ガブリエル。
そして、魔導の天使ミシェル。
他にも歴戦の面々が、大聖堂で起こった悲劇の検分と調査のために集まっていた。
「昨日の……お聞きになった?」
「ええ。上級聖女以外は立ち入り禁止だそうよ」
「怖いわね。誰かに突き落とされたのですって」
「おかわいそうね、モルガネ様」
聖女たちは心配そうに、しかし同時に僅かな好奇心を滲ませて、聖堂の外壁をちらちらと見ながら囁きあっていた。
「週末の儀式はどうなるのかしら」
「さあ……事件が解決しないとどうにもならないわね。まだ犯人も捕まっていないのでしょう」
「聖騎士団の皆様が、ほぼ全員いらっしゃっているらしいわよ」
さわさわ、と噂が広がっていく。
立ち止まる者たちもあれば、足早に去っていくものもある。
だが、彼女たちの全てに共通していたのは、モルガネの安否についての憂慮だった。
「まあ。モルガネ様の件で?」
「ということは……殺されたって本当なの?」
「恐ろしいわ」
「モルガネ様が恨まれていたってこと? いつたいどなたに」
「食中毒の騒ぎのときも、モルガネ様を狙っていたのかしら。他の関係のない聖女たちも毒に当たって苦しんでいたなんて、なんだか人騒がせだわ」
「そうね。もしかしたら婚約者の不倫相手だったりして」
アデルは肩をいからせながら、聖女たちの群れの中を分け入った。
(全く、好きなことばっかり言って!)
噂は善意と少しの悪意を伴って、全く違った形になりながら人々の間を駆け巡る。
モルガネは生きているし、婚約者ともめているわけでもない。
プリプリしているアデルの後ろから、下級聖女のデレダとユピーがバスケットを持ってついて行く。
連日、調査をしている騎士団たちへの差し入れのポーションだ。飲めば立ちどころに疲労が減少するらしい。
「アデル、本当に私たちで大丈夫だったの?」
と、デレダが不安そうな顔をして、アデルの後ろ頭に話しかけた。
「上級聖女の方たちばかりなんでしょう。どうしましょう。差し入れのポーションを持って行く係、私たちで良かったのかしら」
アデルは聖堂のドアのところに立っている騎士に黙礼した。
「うん、重たいから、私一人じゃ無理だよ。それにミシェ……ル殿下から直々の言い渡しだから、問題ない」
「ミシェル殿下から? どうしてあなたが?」
と、尖った声でユピーが言った。
「さあ……」
アデルは濁しながら、聖堂の扉を開ける。
「だいいち、聖堂から騎士団の本部に異動する話にしてみたって、ちょっとおかしかったわよね」
「そうかな」
「ねえ、あなた何か隠してるんじゃないの」
といったところで、聖堂の扉が閉まった。
バタンッという音に反応して、何人かの騎士たちがこちらを振り向いた。
「アデル!」
ぱっと満面の笑顔で、ミシェルが駆け寄ってきた。
「ミシェル、持ってきたよ」
「助かるよ、アデル。ん? 朝食はクロッシェだったの? 頬についてるよ。とってあげる、こっち向いて」
「え、ああ……うん、ありがとう」
まるで恋人たちのように顔を寄せて、ミシェルはアデルの頬についたクロッシェの屑を指先で優しく払った。
生暖かく見守る騎士団員と、溜息をつくガブリエル。
デレダはそっとバスケットを片腕で握りしめたまま、黙って口元を押さえた。
「どういうこと?」
地を這うような声で呟いたのはユピーだった。
デレダがハッと我に返ったように、ユピーを見る。
「だめよ、ユピー」
「だって」
「いけないわ……いくらミシェル様が、アデルと仲良くなさっているからって……」
「仲良く?」
「だってそうでしょう。まるで――恋人同士みたいじゃない」
まるでキスでもされそうな距離で、彫像のようなミシェルの綺麗な顔が近付いても、アデルの心臓は高鳴らなかった。
「ねえ、今日は会える? 騎士団の本部に戻る前に、アデルと少し話がしたいんだ」
「そうね、大丈夫」
「よかった」
パアッと花の開くような嬉しそうな笑顔だった。
アデルたちはバスケットをミシェルに渡し、聖堂を後にした。
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