(16)
今回は難産でした…
例によってギリギリチョップ更新で待っててくれた人がいたらスンマソンです。
ゆっくりと、モルガネの双眼が開いた。
「ここは……あら? アデル? どうしたの、泣いて……あなた、騎士団に行ったんじゃ……まあ、ミカエル様!? 間近で見られるなんて思わなかったわ」
「ッも、モルガネ様あぁぁぁっ!」
アデルは涙と鼻水でべたべたになった顔を、モルガネの胸元のブランケットに押しつけた。
ミシェルは苦笑して、これまでの経緯を包み隠さずに話した。
目を開けたものの状況を把握できずに戸惑っていたモルガネは、冷静なミシェルの説明を聞いて納得したようだった。
「そんなことになってたのね。確かに、もう昼時だったから、階段の辺りには私以外いなかったはずなのたけれど……途中で誰か入ってきても、不自然ではないから気にしていなかったわ。上級聖女以外は、聖堂降誕祭の礼拝のために祭壇の準備をしていたもの」
「階段を登りきって、室内のバルコニーで作業をしていたところ、突き落とされたのですね」
と、ミシェルが尋ねた。
アデルはモルガネが目を覚ましたのが嬉しくて、安心のあまりまだ泣いていた。
「そうなの。誰かに背を押されて……いつもなら柵があるのだけれど、週末に大聖堂の降誕祭があるでしょう? バルコニーからタペストリーを垂らさなければいけなくて、一時的に柵を外していたのよ」
「そこにあなたが行くと知っていたのは誰ですか?」
と、ミシェルは鋭く尋ねた。
「いいえ、誰も。だって本来は私の業務ではなかったところですもの。本当ならタペストリーは別の方の担当だったのです」
「どなたに」
「上級聖女のジョルジェット様です。どうしても手が離せないから、代わりにタペストリーをかけてくるようにと」
「ジョルジェット……」
ミシェルは難しい顔をした。
「もし彼女が犯人だとしたら、下級と中級の聖女を狙った食中毒騒ぎも説明がつくな」
アデルは驚きのあまり涙がすっかり引っ込んでしまった。
しかし、それよりも驚いていたのは当のモルガネだった。
「ミカエ……ミシェル殿下。お言葉ですが、私を突き落としたのはジョルジェット様ではありませんわ」
「なぜそう思うのですか」
「ジョルジェット様は確かに厳しい方ですが……あの方は正義の方です。何かあれば言葉になさいます。決して人を陥れるような方ではありません」
ミシェルは押し黙った。
何も証拠が無いというのに、信頼だとか絆だとか、そういう目には見えないもので判断しようとするモルガネを理解できないようだった。
アデルにはどちらの気持ちも理解できた。
モルガネの、そういう心の優しいところを尊敬してきたのだ。
「もし、そうだとしたら、モルガネ様を突き落としたのは別の人間ということになりますわ」
と、アデルは言った。
「しかし、別とはいっても……いったい誰が。何か恨まれるようなことをした覚えはありますか?」
と、ミシェル。
モルガネは小さく首を振った。
「いいえ。とはいっても、嫌われない人間なんていませんから、私もどこかで知らないうちに恨みをかっていたかもしれません」
アデルは涙を拭いて立ち上がった。
「食中毒事件、その次に宝物庫の破損事件。そして、モルガネ様の殺害未遂事件。これらが全て同じ犯人ってことは考えられない?」
ミシェルは眉をひそめた。
「宝物庫についてはガブリエルや団長が調査をしているが……魔力で閉ざされたドアを開くには、合い言葉が要る。内部の者にしか不可能だ」
アデルは考えた。
本当に犯人はモルガネを狙っていたんだろうか。
「もし最初からモルガネ様を狙っていたとしたら、宝物庫なんて狙わないよね。しかも宝を盗むんじゃなくて、その場に捨ててあったなんて……」
ミシェルとアデルは顔を見合わせた。
金髪をかきあげて、ミシェルが分かったと小さく叫んだ。
「モルガネ様じゃなくても良かったんだ!」
「どういうこと?」
「あのバルコニーからタペストリーが飾られることは、聖堂にいた聖女たちなら知ってる。もし来たのがモルガネじゃなくて、ジョルジェットだったとしても、犯人は良かったんだ」
「無差別……ってこと?」
と、アデルが聞くと、ミシェルは頷いた。
モルガネが不思議そうに言った。
「でも、何のために?」
「まだ分からない。だけど、これをガブリエルに伝えよう。聖女の命を狙うことと、宝物をこじ開けて捨てる……犯人はいったい何がしたいんだろう」
ミシェルはぼやいた。
「おかげで騎士団は、先月からずっと出ずっ張りだよ。現場検証だの聞き込みだので大忙しさ。マティアスなんか、家にほとんど帰れないって言っていたら、激怒されたみたい。もう聖堂と結婚したらって」
「ミシェル。それかも」
アデルには一つ、考えが浮かんでいた。




