(12)
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夕方、アデルが王宮の離れで縮こまりつつ湯浴みをして、自室に戻ろうとすると、メイドに客間で待つように告げられた。
来客は、豊満な肉体の色気のある美女だった。
(だ、誰っ!? というか、む、む、胸がスイカくらいある……)
色気ムンムンの女性はアデルの姿を見るやソファから立ち上がった。
「あなたがアデルちゃん?」
「うぇっ、ハ、ハイ」
どうにもナイスバディに弱いアデルだった。
自分がそうではないからか、女性ホルモンがドバドバ出ているようなタイプの女性への羨望のようなものがあるのかもしれない。
ぽーっとしていると、女性はニコッと微笑んだ。
「初めまして、ディアーヌです。突然の訪問ごめんなさい。あなたがアデルさんよね?」
「は、え、はい、そうですが」
「旦那に教えてもらったのよ。ミシェルが連れてきた面白い聖女の子がいるって聞いてね。あっ、言い忘れてた。あたしは義手を作っててね」
「もしかして……団長さんの」
「そうそう! 騎士団長のマティアスって分かる? アイツよアイツ。幼なじみの縁でねぇ……結婚までしちゃったわよ。我ながらよくやるわよね」
貫禄のある騎士団長マティアスの妻が、このナイスバディーお色気ムンムン美女だと分かって、アデルはガンッと頭に衝撃を受けた。
こんな人と幼なじみだったとするならば、マティアスの幸運と思春期の心労はいかばかりだったかしれない。
いや、胸元の開いた挑発的なデザインの服のデザインを見るに、夫の心配は尽きないのかもしれないが。
「やっぱり変なのよね。魔力が無いと魔導具は発動しないのに。ところでアデルさんは、魔力がどれくらいあるのかしら……わ、すごいわね。色も形もなかなか……うん。逸材ね」
アデルは自分の魔力を測られることには慣れていた。
どうやらアデルは他の聖女よりも、かなり魔力量が多いらしい。
しかし、アデルは慢心しなかった。
(クレマンさんの魔力、見ちゃったもんね……)
師匠である公爵家の執事、クレマンの魔力は文字通りとんでもなかった。
魔力のない公爵夫人や、多少はあっても薄らとしか感じられない他の面々にはよく分からないようだったが、アデルのような魔力持ちには、意識さえすれば魔力の色も形も明確に『視える』のではっきり理解できた。
ある意味、魔王のような師匠だった。
だから、多少周りからちやほやされたとしても、手放しで喜べない。
上には上がいる、と知ったときから人間は謙虚になるのだ。
ナイスバディ美女、ディアーヌも魔力持ちなのだろう。
嬉しそうにアデルの周囲をくるくる回って、お気に入りのおもちゃを見つけた牧羊犬のように目をきらきらさせている。
「アデルちゃんは今は二十四歳なの? まあ、その年でこれなら……ミシェル殿下が目を付けるだけあるわ。ねえ、しかも魔力を物体に流せるって本当? 自分で? どういうこと? 物質を変質させる……潰れた花を蘇生できたって聞いたわ。あれって本当なの? ねえ、ちょっとあなた、今度、私の工房で一緒に義手を作ってみない?」
「あぇ、はい、それはぜひともご一緒したいですが、なぜ」
「本当? 約束ね。ああ、そうだわ、なんでここに来たかすっかり忘れてた。あのね、聖堂で宝物庫の破損事件があったのは知ってる?」
ミシェルが言っていた話だろう。
最近まで騎士団長たちと一緒に出張っていたと聞いた。
アデルが頷くと、ディアーヌは続きを話し始めた。
「実はね、少しおかしいのよ」
「というと?」
「魔導具は魔力を込めると作動するわ。一度使ってしまえば、魔導具は機能を失ってしまう……だけど、形は残るのよ。でも、聖杯は壊れていた。犯人は、魔力を込めて魔導具を作動させたあと、それをわざわざ床にたたきつけて壊しているの」
魔導を発動させたあと、元に戻せばすぐにはバレないだろう。
しかし、犯人は聖杯を壊している。
なぜそんなことをしたのだろう?
「普通は周りに分からないように隠すはずなんだけど。しかも、あの聖杯に込められていた魔導は『回復』の効果。聖堂に恨みがあるなら、炎や雷の効果をもった魔導具を使えば、小さな火事くらい起こせる。でも、犯人はしなかった」
「怖くなったとか?」
「それなら、何もせずに帰るか、バレないように元あった通りに返すわよね。犯人はわざわざ聖杯を壊しているわ。だから気持ちが悪いのよ。目的が分からないわ」
「ディアーヌ様は、その調査をなさっているのですか」
「ん? ああ、あたしはただのお使い。調査してるのは旦那。あたしの仕事は、その壊れた聖杯を修復するのよ。ユーリンヒッテ様に頼まれちゃったからね。で、見た目はこれで大丈夫そうなんだけど、魔力の付与がイマイチうまくいかない。それで、花を蘇生したって噂のアデル嬢に会いにきたのよ」
ディアーヌは木箱から布にぐるぐると包まれた聖杯を出した。
「あとはこの杯に、回復の魔法を付与したらいいのだけど。一度壊したものを直すのって、作るよりも難しいのよね」
「分かりました」
「分かりましたってあなた……」
「これに魔力を注げばいのですね」
アデルはイメージした。
師匠のクレマンが教えてくれたように、少しずつ繋いでいく。
「……驚いた」
と、ディアーヌは囁いた。
「元通りどころか、それ以上よ」
「だといいんですが」
「本当はあなたの他にも何人かに頼もうと思っていたの。複数人で魔力を注ぎ続ければ何とかなると思って。だけど、アデルちゃん……あなた、予想以上だわ」
手放しで褒められてくすぐったい。
アデルはもじもじしながら、
「いやあ」
と鼻の下をこすった。
クレマンほどではなくても、少しは誰かの役に立ったのかもしれない。
「そういえば、今ひらめいたのですが、ペンのようなものも作れますか?」
「ペン? 魔導具の?」
「はい。魔力を流したペンだったら、字が綺麗になるような効力があるのではと」
「うーん、やってみたことはないけれど……貴方くらいの魔力だったらもしかしたらできるかもね」
アデルは、騎士団向けに専用のペンを開発しようと決めた。
ミシェルに任される代筆の報告書の類も、これでもっと数を減らすだろう。
スミマセン、まだ続きます!




