其の二
「それで、ここに来たということは、あの件が仕上がったということでよいのだな?」
少し眠そうにしながら、グランダー国国王プログマは、マエストに確認した。マエストは、神妙な顔つきで王の言葉を肯定した。きらびやかな応接間の装飾に合わない、いかにも寝起きの雰囲気を醸し出しているプログマは、政変で王に担ぎ上げられた前国王と愛妾の間の子だ。愛妾との子供だから、教養もなければ名声もない。国が機能しているのは大臣と閣僚達が優秀だからだ。
だが、この国王にも唯一無二の才能があった。腕っぷしが強いことだ。田舎に隠されていたプログマは、兵士となり戦場で名を挙げた。その圧倒的な魔力の量で、一個小隊をたった一人で潰したこともある。横暴で、不良で、それでいて強者。対してマエストはその逆であった。堅実に親の仕事受け継ぎ、腕を磨いて依頼を受け、そのお金を家計の足しにする。プログマが出来損ないなら、マエストは優等生だった。
「では、そこのお前」
お前、と指で示された兵士の顔に、緊張が走った。プログマは意地悪そうに笑うと、紙を取り出し、兵士に側近を通じて渡した。分厚い羊皮紙の束と、その間には兵士の一週間分の給料に相当する銀貨が挟まっていた。兵士はその紙がただの紙だけではないことに気がついたのだろう。驚いたようにプログマを見て、敬礼をした。
「マエストの工房まで確認しなさい。すぐに」
「はっ」
兵士は歯切れよく返事をすると、応接間を後にした。マエストとプログマの間に、妙な間が流れた。マエストは、ずっと片足を地面につけて、片手を下ろした状態で下を向いたまま、決して口を開かなかった。無愛想な顔で、王が話しかけるのを待っているようにも見えた。
「マエストよ」
少しの間の後、王が呟くように話しかけた。マエストの体がビクリと動き、視線が王に固定された。
「はい」
「もし、本当に成功しているのなら、お前に休暇をやろう」
マエストは、少しの笑みを浮かべた。
「それは、とても嬉しゅうございますね」
マエストは親しげにプログマに答えた。プログマの言葉に、親友としての友愛を感じたのだ。プログマが愛妾の子として忌み嫌われた末に流れ着いた田舎の村と、マエストの実家の工房がある村は同じ場所であった。幼少期は畑に囲われた土地で共に駆け回り、青年期にプログマが兵士になってからは、彼の剣を打っていた。マエストとプログマは、身分さえ違えど、確かに親友であった。
「そうか。では、休暇は何をして過ごすのだ?」
王の質問に、マエストは少し黙って考えた。そして、名案が思いついたのか、勢いよく答えた。
「そうですね。自分の技術に磨きをかけたいです。今のままでは、プログマ様の期待に答えられないので」
マエストの答えに、王は感心したように頷いた。
「そうか、よい心がけだ。だが、我が休暇をやると言っているのだ。働かずに休みなさい。今の君は根を
詰めすぎだ。それでは、できる仕事もできないだろう……」
頷きとは裏腹に、王はマエストに滋養を奨めた。マエストは無駄を悟ったのか、「そうでございますね」と言っただけで、会話を止めた。マエストと王が黙っていると、応接間の扉が勢いよく開かれた。扉を開いたのは、先程出ていった兵士のようだった。
「プログマ様、確認が取れました!」
「そうか。では、結果を述べなさい」
兵士は一枚の紙を取り出すと、流暢に読み上げた。マエストはため息を吐いた。お世辞やマエストの実績などが長々と読まれたからだ。その程度のことなら、耳が腐るほどに聞いてきた。
「動作を確認し、機能、実用性共に充分と判断いたしました」
兵士の言葉に、王は満足そうに頷くと、マエストに帰宅を促した。マエストは礼をして応接間をあとにした。帰りに王の側近に呼び止められ、次に城に行く日を伝えられると、そのまま馬に乗せられた。
「では、工房に戻って、荷物をまとめておいてください。明日の朝には工房を出発、マエスト様の家族が居られるシャリーア村まで、我々が護衛させていただきます」
側近は口早にそう言うと、馬の手綱を握っている兵士に合図をした。兵士は間髪入れずに馬を出し、マエストが明朝に歩いてきた道を駆け戻っていった。
「モノダマノクニ」序章「二百年前」其の二でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、高評価とブックマークをしていただけると嬉しいです。
「小説家になろう」様では、他にも作品を投稿させていただいているので、そちらも読んでいってください。




