其の一
その男は、異質であった。無精ひげに、年でもないのに禿げ上がった頭、筋肉質な腕に対して大きく丸い腹。チグハグという印象を強く受ける彼は、巨大な木製のからくりを熱心にいじっていた。大きな手に似つかわしくない繊細な動きは、どこか熱を帯び、彼の鼓動の高鳴りを伝えていた。彼は慎重に、しかし大胆に巨大なからくりをいじっていた。
どこかが合わないのだろう。彼はもう一週間はその部分を熱心に調整していた。その間、家には一切帰っていなかった。というよりも、帰る家がなかったの方が正しい。彼の妻と子供は、彼がこの話を国から受けた時に、彼の実家に行ってしまった。国で一番と名高い彼にとって、こんな事は日常であったし、それが彼なりの家族の形だった。
「ふぅー!」
彼はどこか納得したように息を吐くと、持っていた工具を置き、巨大なからくりを下から見上げた。胸まである奇妙な首飾りが、月の光を反射して彼の屈強な胸の上で光った。彼はおもむろに部屋を出て、水瓶から盥一杯の水をすくい上げた。こぼさないように、ソロリソロリと歩いて部屋まで戻ってくると、からくりの下部にある金属製の盥に水を移した。
いや、盥と言うには奇妙なその容器に入った水は、男が横にある掌ほどの大きさの棒を倒すと、盥に飲まれてしまった。男は満足げにそれを見ると、また部屋を出た。今度は暖炉から火のついた薪を一本拾い上げると、からくりの中で異様に大きな存在感を放っているかまどに火をつけた。すでに中にセットされている薪に火がつくと、かまどの中から暖かな光が広がり、部屋の中を照らした。
いつの間にかろうそくが消えていたことに気づいた男はもう一度、今度は明るく照らし出された自分のからくりを見上げた。ほとんどが木でできているように見えたそのからくりは、かまどの光に照らされて、金属質な光を放った。男は、自分がこの巨大な化け物を作り上げたことを誇らしく思った。日が昇るのが待ち遠しくすら感じた。
「キィーー!」
何がたてた音なのか、男にとって、それは火を見るよりも明らかだった。巨大なからくりが、命を持って動き出した。
「プシュー!」
荒く熱い息を吐いて、ガタガタと音をたてながら、誕生を喜ぶように産声を上げた。一つのからくりから、美しい音色が奏でられていた。ぱちぱちという火の爆ぜる音、金属がきしみ、木がたわむ音、そして、布が織られる音――。全身全霊でそのからくりは、何よりも美しい音を奏で、自分の誕生を祝っていた。男の頬に、涙が伝った。
日が昇った頃、男は城に向かった。円形になっている王都の、どこからでもこの城は見える。それくらい、この城は巨大だった。興奮した様子で走ってきた男を、門番が止めた。
「待て。何者であるか!ここはグランダー国国王、プログマ様が居られるところである!身分証を見せないか!」
男は煩わしく思いつつも、ポケットから金属板をとって見せた。薄っすらと文字が光っているので、薄暗い朝方でもよく見える。門番はその文字を見て、武器を直し、姿勢を正した。
「失礼!かの有名なマエスト様であられたか!入城を許可する!」
マエスト様と呼ばれた男は、門番への敬礼もほどほどに、また駆け足で城内へと入っていった。
「モノダマノクニ」序章「二百年前」其の一でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、高評価とブックマークをしていただけると嬉しいです。
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