其の三
マエストが作業している工房は、王命によって与えられた場所だった。しかし、マエストの工房とはいえど、マエスト自身がここで生活しているわけではなかった。マエストが生活と仕事の場所を分けたいタイプだったからだ。彼にとっての工房は家ではなく、泊まり込みで仕事をするための下宿所兼仕事場だった。だから、まとめる荷物はほとんどなかったし、荷物をまとめておけと言われても、やることと言えば洗濯と掃除、そして荷物を衣服類と工具をまとめておくくらいだった。
やるべきことを半日で終えてしまったマエストは、息抜きに町に出た。城下町のここは、国一番の職人と兵士、そして学者たちが集まっている。そのため、商人たちの売り込みは激しく、マエストは彼らを追い払うために、臨時で人を雇ったことがあるくらいだった。 それでも、商人たちは命がけで売り込んでくる。彼らにだって生活があるからだ。
「おじさん、これ、僕が造ったの!買って!」
少年が一人、マエストのそばに寄り、立派な剣を自分の自信作だと言って高々と上げた。マエストは、少年の無邪気な瞳の中に、何か薄黒いものが見えた。マエストは少年が持っている剣を奪い取り、柄の造りから刃の反り具合、鞘の縫い目まで、ジロジロと値踏みするように見る。マエストの視線が次々に映るうちに、少年の瞳の輝きは増していった。
使い手を考えていない独特な刃の流れ。見栄えを良くするためだけに施された鏡面加工。諸刃の剣なのに、片側が異常に大きく造られたガード。握るだけで疲れてくる柄。練習生が打ちがちな、独りよがりな剣だ。職人以外の相手なら、騙せたのかもしれない。
マエストの反応は残酷だった。マエストは、少年の期待とは裏腹に、一つ一つはあまり時間もかけずに見ていき、最後は鼻で笑った。
「おいおい。あまり職人をバカにするんじゃない。これは、お前が造ったものじゃないだろ」
マエストは少年を見下ろして、睨みつけた。
「違うよ、ちゃんと僕が造ったもん!」
少年は、やや癇癪気味に感情的にマエストに言葉を返した。マエストは何も返さず、少年に剣の柄を突きつけた。
「お前が造れるレベルを超えてんだよ。商人なら、もっと商品をよく調べろ。商品の知識をちゃんと身に着けろ」
マエストは、それだけ言うと少年に剣を渡して、足早に立ち去った。身をかえす時に、奥にいた少年が働いているであろう店のオーナーを少し睨んで。
グランダー国は、隣国と長く戦争している。大陸の八分の一を占めていると言われるほど資源が豊富なグランダー国でも、何年も戦争していれば国民の不満は溜まっていく。重税に不況、そして、他国との交流の抑制。内陸国であるこの国は、他国と一度揉めてしまえば、どちらかが滅びるまで攻撃し続けるしかない。貿易のための道になるからだ。
「マエスト様でございますか?」
自身の背丈ほどの高さを持つ木の杖を片手に納め、黒いゴスロリを身にまとった少女が、マエストに話しかけてきた。少女の言葉に、道を歩く人々の動きが一瞬止まり、マエストに視線が集まった。
「そうだが、どうかしたのか?」
マエストは、国一番の職人として、できる限りの威厳を出そうとした。
この国は、魔法教の本部があるお陰で、魔法学に長け、その恩恵を受けてきたが、その力を戦争にすべて使っている。戦争に必要な事以外はほぼしない。マエストが今回引き受けた依頼も、兵士用の服を織るための機械を作ることだった。だが、職人としてマエストは、その仕組みが戦争に使えることくらい勘づいていた。だからといって、マエストは仕事を中途半端にすることはなかった。彼が職人としてもつ、一番の矜持だった。
(魔法教の連中は俺の機械の設計図を欲しがる。きっと、今回だってそうだろう……)
「い、いえ。憧れの人に会えたので、つい……」
マエストの高圧的な姿勢に、少女は少し萎縮した。マエストは「そうか」とだけ言うと、胸のペンダントを確認して、来た道を戻っていった。
「モノダマノクニ」序章「二百年前」其の三でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、高評価とブックマークをしていただけると嬉しいです。
「小説家になろう」様では、他にも作品を投稿させていただいているので、そちらも読んでいってください。




