第2章-3
と、まぁこういった経緯で第一王子の近衛騎士となったシルフィリアである。
青天の霹靂もいいところだが、王命は王命。世間一般論で言えば大抜擢ととられるだろう。
そうして叙任式を終えるや大急ぎで支度を整え、王宮で迷子になりかけながら、狭霧宮にたどり着いたというのに。
誰もいない離宮に通う日々に嫌気がさしたシルフィリアは、とうとう城下に出て自ら王子を探すことにした。そして現在、路地裏で人の多さに辟易としているところだった。
ファルカ王子の容姿は知らないが(なんと肖像画の1枚もなかった)、「彼」の姿ならわかる。狭霧宮を初めて訪ねたときに会った、王子の唯一の侍従だという赤金色の髪と琥珀の瞳の青年、セト。
きっと、第一王子と一緒にいるはずだ。
あの日以来、いつ訪れても、宮には誰もいなかった。セトにも、彼が連れていた白狼にも会えていない。
セトの話がすべてとは言い難いが、第一王子はどうやら城下によく行くらしい。この様子では、何日も宮を留守にすることも頻繁にあるようだ。
セトはどうだろう。王子に付き従って動いていても不思議ではない。
主である第一王子に何かしらがあって、後を追ったとか。……あるいはシルフィリアの訪問を不信に思い、王子に報告のうえ、意図的にこちらを避けているとか。
この5日の間、騎士仲間から聞かされた「王家の事情」も少々気になっていた。離宮に隠されるようにして暮らす第一王子と国王とは、不仲だという話だ。
王宮で迷子になりかけていたときに親切にしてくれた女官たちの、どこか奥歯に物が挟まったような受け答えにも、納得がいった。
王国における第一王子ファルカの存在は、異質だ。
庶出で、幼い頃に王族に迎えられるも、第二王子の誕生によって立場を追われた不遇の王子。母親である第三妃が死亡した火事の後、2年もの間行方をくらまし、再び王宮に戻ってきたという不自然さ。
傍に置いても、放っておいても、火種になりかねない。
国王が第一王子を離宮に軟禁したのも、不穏の種を手中で管理するためだと言われていた。王位継承権をはく奪しなかったのは、そうするだけの正当な理由がなかったからだろうというのが、おおかたの見解だ。以来5年間、公式行事以外ではめったに離宮から出てこない第一王子を、嘲りと同情を込めて人は呼ぶ。
『鳥篭王子』と――。
それを耳にしたとき、シルフィリアは思った。
鳥籠の王子様とは、とんだ皮肉だな、と。
一般に市井にも出回っている噂らしく、――とかく人々は王家の話題には敏感だ――どこまでが本当か真偽の程は定かではない。しかし現状を鑑みるに、おとなしく鳥籠に閉じ込められている性格ではないようだ。
文字通り血を吐くような訓練を重ねて、ようやく掴んだ騎士の座。想定外の事態への困惑は拭えないものの、やるべき仕事はさせてもらわなければ。
再度、息をついて気持ちを整え、再び人ごみの中へ戻ろうとしたときだった。
路地のさらに奥から複数の男のひそめようとしても荒々しい声と、空の木箱でもひっくり返したような騒々しい音、乱れた足音が聞こえてきたのは。
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