第2章-4
「待て! この」
「傷つけるなよ、上玉だ」
漏れ聞こえる声からして、あまり歓迎できない状況を察したシルフィリアは長靴に仕込んでおいた小刀を取り出し手元に忍ばせると、路地のさらに奥へ踏み込んだ。
整備されている大通りと違い、路地裏は細く入り組んでいる。
壁と壁のわずかな隙間に洗濯物がひるがえり、不要になったと思われる木箱が乱雑に積み上げられ、人ひとり通るのがやっと。しかも、すぐに行き止まりになってしまう始末。
焦る気持ちを抑えつけ、漏れ聞こえる声を頼りに走り回ったシルフィリアは、崩れかけたどん詰まりの壁の向こうに複数の人間の気配を察するや、ビタリと壁に背をつけた。
壁のひび割れから、声がはっきりと聞こえる。
「クソガキ、手間取らせやがって」
「大人しくしてりゃぁ、痛い思いせずに済むってのに」
三文芝居の悪役の台詞としか思えない。どうやら、追われていた誰かはこの壁の向こうに追い詰められてしまったようだ。話し声と足音からして、相手は男が2人、あるいは3人。
荒い息遣いが聞こえてくる。男の口ぶりから察するに、追い詰められているのは子どものようだ。
「……わたしを、拐しても、……あなた方に何の利益も、ありません……」
息の合間に、かすれた声が混じる。気丈に振舞っているが、恐怖に震えていた。男女の区別はつきかねた。
シルフィリアは、目星を付けていたその辺に転がっていた木箱で足場を作り、壁の上から慎重にのぞき込む。推測通り、相手は男2人。追い詰められている子どもと男たちとは、まだ距離がある。
手にしていた小刀を素早く仕舞い、機を見計らって、シルフィリアは声を上げた。
「おい! 上を見ろ。掴まれ!」
驚いた顔で振り返ったのは、少年だった。一瞬で状況を理解した少年は、伸ばされたシルフィリアの手を掴んでなんとか壁をよじ登る。
「あっ、このガキ! 待て!」
状況を測りかねて呆気に取られていた男たちが我に返ったときには、もう遅い。
少年を引きずり上げたシルフィリアは足場を降りるや、それを崩し、少年を肩に担ぎ上げて一目散に走っていた。
ご覧いただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
誤字脱字等ございましたら、お知らせください。




