第2章-1
「さぁさぁとくと御覧じろ! 太陽と砂の国カドレナ産の絹織物だよ! どうだいこの繊細な色使い、美しい唐模様。この織物を纏えば浮気な旦那も姫君に傅く騎士の如く、奥方に惚れ直すこと間違いなしだ! おっと、そこのお兄さん、可愛いあの娘に贈ったならば、彼女の心はあんたのもんだ! こんなに安いのはうちだけだよ!」
「……いや、結構だ」
「ちょいと兄ちゃん、採れたての野菜だよ! 朝一番の露に手を濡らして採ってきた、新鮮な野菜はいらんかい?」
「……確かにうまそうだが、間に合っている」
「おや、そこな黒髪の御仁、浮かない顔だがどうしたね? どれ、この婆が占ってやろう。一回たったの胴50枚さ」
「……地味に高いな」
「あらあら、格好良いお兄さん、『花』を買っておくれでないかい? うちの店には可憐な『花』がたんと揃ってるよ」
「…………………………」
少々露出の高い衣服を着た、しどけない雰囲気の女に腕を掴まれ豊かな胸を押し付けられるに至って、シルフィリアはとうとう路地裏に逃げ込んだ。もちろん、丁重かつ迅速に腕を振り払ってからである。
「……参った」
右を向いても人。左を向いても人。人、人、人……。
故郷の祭くらいしか知らないシルフィリアには目の廻る光景だ。怪しげな占い婆がいたり、日の高いうちから娼婦が客引きをしていたり、治安は大丈夫なのかと思わないでもなかったが、この大通りに軒を連ねる店や露店は商会から正式な許可をもらっているはずなので害はないのだろう。
深い溜息を吐いて、シルフィリアはぐったりと壁に寄りかかる。もうかれこれ2刻は歩きどおしだ。
人からよく無愛想だと言われる(その自覚もある)顔が、眉間の皺で3割り増し無愛想になっていた。
「……どこにいるんだ、王子殿下」
シルフィリアが第1王子ファルカの近衛騎士となって5日が過ぎた。それはそのまま、シルフィリアが主となった王子に会うことすらかなわず、無為に過ごした時間である。
感情を抑えることはそう苦ではない質のシルフィリアだが、苛立ちと疲労は隠せなかった。大陸一の栄華を誇るとうたわれるシュトライエン王国の王都エルディア、その華やかな城下町でこんな仏頂面をしているのは、彼女くらいのものだろう。行きかう人々の楽し気な雰囲気が、うらめしい。完全な八つ当たりだった。
この5日、彼女は狭霧宮に通い続けた。日々の訓練の合間を縫って、毎日。時間が悪いのかと、早朝や日没後など、日に幾度も訪ねたりもした。しかし、第一王子ファルカには会えなかった。
それどころか……。
「……」
シルフィリアは思わず、小さくため息をついた。
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