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第8話:推しのお世話係、任命!



 お父様と私は、距離を取りながら、見知らぬ女性の後についていく。お父様は無言のまま私に合わせて歩いてくれるが、どうやらあの女性の事を知っているらしい。どこか警戒している気もするけど……。




 その時、私の中で一つの仮説が組み立てられる。


 もしかして、お父様の愛人!? ここで会うのは人目につくから、人気の少ない所へ連れていって、あんな事やこんな事を……ッ!?


 35歳の頭の中は、少しモザイクを掛け、伏せさせて頂く。




(まぁ、もしそうだったら、私を連れてはいかないか……)




 内心思いながらも、愛人説は無くなったわけではない。ひとまず案内される場所まで私は女性を観察しながら、歩き続けた。


 そして、女性が一つの扉の前で足を止め、「こちらでお待ちください」と扉を開けた。




 中を覗くと薄暗く、よく見えない。だが、応接室のようで、三人程掛けられる高級そうなソファに挟まれたテーブルが、ソファ横の間接的なライトに照らされ、薄らと見える。




「……なるほど。ここで待てば良いのか?」


「えぇ、お掛けになってお待ちください」




 お父様は何か勘付いたのか、納得したように部屋の中へと足を踏み入れる。私ひとり話が見えてないんですけど……。置いてけぼりの私は、父に促され中へ入る時に、女性を一瞥した。




 女性は、凛とした表情のとても綺麗な方だった。顎がシュッとして、スッとした目と鼻のバランスが良い。グレーの瞳は神秘的だが、お団子にしている深い茶色の髪が親しみを感じさせる。




 すると、私の視線に気付いた女性がニコリと優しく微笑んできた。私は思わず肩を震わせる。


 ば、バレてたか……じっくり見過ぎたわね……。


 私は、申し訳なさの含みつつ、軽い会釈をしてソファへと向かった。女性は中に入らず、そのまま扉を閉め、そこでお別れとなった。




 あの方は、どなただったのかしら。中に入らないって事は、別の方がここに来るってことよね……。


 先程の女性は、お父様の愛人という訳では無さそうだと、私の直感が言っている。まぁ、要注意人物かもしれない。あのお顔を忘れないでおこう。


 そう思っていると、お父様の声がした。




「ルシア、こちらに来なさい」


「あ、はい。お父様」




 私がソファの横に立つお父様の元へと足を進める。そして、ちょうど立ち止まった時だった。




 ーーガチャリ




 私達の入った扉と向かい合うように設置された扉から音がした。そちらを見ると、扉が開かれ、2人のドレスを着た女性が入ってくる。その後に現れた女性を見て、私は目を見開いた。




(お、王妃……様……!?)




 思わず声に出しそうになるが、私は冷静を装った。内心動揺する私がお父様をチラリと見ると、落ち着いた様子で頭を下げている。私は慌てて同じように頭を下げ、王妃様を迎えた。




 王妃様は、先程の謁見の時と同じ服装だった。……そのままここに来たのかしら。


 頭を下げたままチラリと王妃様を見ると、歩き方から髪をかき上げる所作まで品性を感じてしまう。女の私まで魅了されてしまうわ……っ流石、リアム様のお母様!!




「頭を上げてください、クロス卿、そして、ルシア嬢」




 柔らかな声が聞こえ、お父様と私は頭を上げた。王妃様はソファの前に立ち、2人の女性は部屋の灯りを付けて回っている。


 そんな女性達を見ていると、ふと視線を感じた。視線を向けると、王妃様が私の事をジッと見つめていた。




 な、なな、なんでそんなに見つめていらっしゃるのかしら……? 私、何かやらかした?


 私が心当たりを考えていると、その焦燥に気付いたのか、落ち着かせるかのように優しい笑みを浮かべる王妃様。


 ほ、惚れてまうやろーーー!! 私の脳内、チャンでいっぱい。


 そんな中、王妃様が静かに口を開いた。




「お待たせしましたね。お掛けになってください。お茶を飲みながらお話しましょう」


「お心遣い感謝いたします」




 お父様が再び頭を下げ、ソファにゆっくりと腰をかける。私も真似をしてお父様の隣に大人しく座った。同時に、王妃様も優雅な仕草で腰を下ろした。


 うむ……お美しい……。




「王妃様、我々をここに呼ばれた理由をお聞かせいただけますか?」




 私が王妃様の仕草に目を奪われていると、お父様が少し緊張した様子で王妃様へ問いかけた。すると、王妃様がふふっと笑った。




「クロス卿は、変わらず陛下の側近ですわね。私との密会が、まるで陛下への裏切りとでも言いたそうな表情です」


「いえ……そんな事は、ありません」




 そうだったのね……! お父様が悩んでいたのも、緊張していたのも、王妃様に呼ばれたと分かっていて、国王への後ろめたさがあったからか!


 私は王妃様の言葉で納得した。




「お茶も入りましたし、どうぞ、飲みながらお話を聞いてください」




 王妃様はそう言うと、今の状況の説明を始めた。


 簡単に言うと、今日、私の話を聞きたいと申し出たのは、王妃様だったらしい。国王陛下は、『こんな4歳児のデタラメな話など(王妃様はもっとオブラートに包んでくれました、笑)聞かなくても良い』、と豪語していたが、王妃様の願いで、今回の謁見が承認されたのだと言う。




 前日の国王の反応を見ていた王妃様は、王宮で話をしたとしても断る可能性が高いと思っていた為、内密に給仕の女性に私達が太陽の間から出てきた際、ここに案内するよう指示していたのだった。


 もちろん、騎士達やその場にいた侍従達にも、他言無用と伝えて……。……って、そんな事、出来るの?


 と、疑問に思うのは置いときまして、王妃様としては、大事な息子をあのマンセルの塔、『通称:見放しの檻』と、呼ばれる場所から救い出したいと考えているようだった。




「陛下は、私が心配するからとリアムの事は一つも話をしてくれません。ですので、私の方で侍従に調べさせました。そこで分かったのですが、リアムはこの一年、ほとんどの食事を口にしておらず、痩せ細っているそうなんです」


「!」




 王妃様は目を潤ませ、苦しそうに言う。


 お父様から聞いた通りの状況のようだ……。そりゃあ、親としては我が子がそんな事になっていたと知れば、これほど辛い事はないだろう。




「黒い痣は、日に日に増えているそうで、もう少しで体中を覆ってしまうのではないかとも、言っておりました」


「なんと……」




 お父様も驚愕していた。リアム王子が深刻な状況だとは知っていたようだが、そこまでとは思っていなかったようだ。




「ルシア嬢のお告げを、私は信じたい……いえ、信じております……! 先程の貴女の堂々とした発言や熱意に、私は感激しましたの。貴女のその意志の強さに、私は一心を賭けます!」




 これまで大きな感情を見せなかった王妃様は、これまで聞いてきた中で、1番の声を上げた。お父様と私は、初めて見る王妃様の姿に目を丸くする。




「出来る事はどんな支援でもしましょう。ですから、秘密裏にリアムの世話と、リアムの様子を私に報告してほしいのです」




 こほん、と咳払いをし、王妃様は冷静さを取り戻しながら、私に伝えてきた。




「私は、あの塔へは近付けないのです」


「え……なぜ、ですか?」




 私は恐る恐る尋ねた。お父様は事情を知っているようで、固く口をつぐんでいる。




「陛下から止められているのですよ、ルシア嬢」


「国王陛下に、ですか?」




 意外…でもないが、私は首を傾げて続きを待った。




「えぇ。一度会いに行った時にバレてしまって……。私に、あの黒い痣が伝染したり、悪魔の力が及ぶのではないかと、心配されているのです。私が近付かないように、看守には強く陛下からおっしゃっているようです」




 なんて親父だ。聞けば聞くほど、リアム様の事なんて微塵に思っていないのがよくわかる。


 推しの父親だが、渾身の一撃を与えたい……!


 私が拳を握り締め、脳内で国王を殴り倒している間、王妃様は続けた。




「第二王子を……リアムを救い出して、また太陽の下で、伸び伸びと生きてほしい。私の願いはただそれだけです」


「王妃様……!」




 私も全く同じ気持ちです……!! リアム様は、日の当たる場所で眩しく笑う、純粋で正直な子供だったと、小説でも描写があった……。絶対にその方が、可愛い姿に決まっている! そして、見たいに決まっているでしょうが!!




 私の脳内妄想では、暗黒期の推しがキラキラと笑顔満点でリーシャと笑う姿……! 最高かよ! 鼻血が出そうになるのを堪える。




「その為に、貴女のお力をお借りできないかしら? ルシア嬢」




 王妃様が悲しそうな表情を見せ、私に懇願してきているっ。そんな顔しないで推しの母よ!! そんなの、私にとっては願ったり叶ったりだわ!


 私は爆発しそうになる感情を落ち着かせ、笑顔を見せながら王妃様を見た。




「もちろんです! 私でよろしければ、お力添えさせていただきます……ただ……」




 私はチラリとお父様の様子を伺った。お父様はどう思っているのだろうか。王妃様の言う、国王陛下への裏切りになってしまうのであれば、陛下の側近ではいられなくなってしまう可能性もある。そこまで考えていなかった私も、まだまだだったわ。……迷惑と思われるだろうか。




 すると、お父様は私を見つめてきた。そして、あまり時間も掛からず、お父様が王妃様の方へ視線を向けた。




「私は、娘の意思を尊重いたします」


「クロス卿……!」




 王妃様の表情が柔らかくなり、瞳からは涙が流れていた。私はお父様へと思わず抱きついた。




「お父様! ありがとうございます!」




 最初は驚いていたお父様だったが、笑いながら私の背中を撫でてくれた。




「お前のその強さは、本当にシルビアそっくりだ」


「え、お母様に?」




 私は突然の言葉に身体を起こし、お父様を見つめる。すると、小さく「あぁ」と呟くと、懐かしむような表情で、私の髪を耳に掛けてくれた。




「シルビアも、一度決めた事を曲げない女性だった。ルシはその部分をそっくり継いでいるのだな。お前の目を見ればわかる。……その意思を曲げる事はないのだろう」




 お父様は、完敗といった優しい微笑みを浮かべた。




「そうですね。ルシア嬢を見ていると、お母様を思い出しますわ」


「!」




 王妃様からも同じような言葉が聞こえ、そちらへ向く。王妃様も懐かしそうに笑っていた。


 王妃様とお母様は、どういう関係……?


 そう思っていると、王妃様がお父様の方へと視線を向けた。




「クロス卿。ルシア嬢の安全は、この私がお約束します。何があっても、ルシア嬢をお守りしますわ」




 真剣な表情の王妃様に、お父様は頭を下げ、敬意を表した。




「塔の看守達は、少々荒くれ者のようです。元々魔物などを討伐するハンター達を雇っているようですので……。彼らは陛下に対して不満もあるようですし、陛下の息の掛かった者ではありません。なんとかこちらの味方に引き込み、私の方から口止めしておきます」


「わかりました」




 お父様が頷く。それを見て、王妃様が再び口を開いた。




「それと、塔の事を調べていて分かったのですが、秘密の裏口があり、ルシア嬢にはそこから出入りをしていただきます」


「秘密の、裏口ですか?」




 私が王妃様の言葉に反応すると、王妃様は笑みを浮かべた。




「えぇ。今は使われていない通路で、王宮と繋がる隠し通路となっています。大昔はここで国王達が、愛人と会っていた、なんて噂もあるようですよ」


「そんな通路、すぐに塞いだ方が良いのでは……」




 口にして私はハッとした。慌てて口を手で押さえたが、もう遅い。失礼な事を言ってしまったかしら……。チラリと王妃様を見ると、王妃様は口に手を当て優雅に笑っていた。




「ふふふ。私もそう思っていたのですが、何かあった時の逃げ道として残されているのです……本当の理由は分かりませんけどね。今は、魔法伯達によって、その通路は監視されています」




 王妃様……キラキラした笑顔ですが、なんか怖いオーラ出てます……。


 笑みを浮かべたまま王妃様は、ゆっくりと続ける。




「ですので、決まった時間に、この通路を見えないようにします。その間にルシア嬢は通路を辿ってください」


「そんな事が出来るのですか?」




 私が目を見開き問うと、王妃様はどこか嬉しそうに手を合わせて微笑んだ。




「あら! ルシア嬢は、色んな可愛らしいお顔を見せてくれますね」


「!」




 そ、それはこっちのセリフですーー!! 太陽の間にいた時の品のある微笑みも素敵でしたが、今の可愛らしい微笑みも堪りませんーーー!!


 あ! よく見るとアニメで観た、推しの微笑みとクリソツでは!?


 私が脳内放送に意識を持っていかれている所で、王妃様が私の顔を覗き込むように見てきた。




「私の得意魔法をご存知ですか?」




 急に質問され戸惑ったが、その意図に気付きハッとして王妃様を見た。




「あ、結界魔法……!」


「あら! ご名答ですわ!」




 ぐはっ! 素敵笑顔、いただきました…!




「私の結界魔法で、ルシア嬢の姿を魔法伯達から見えないように致します。その間にあの塔へと向かってください」




 なるほど。そう言うやり方が出来るのか。王妃様の力は、この国でも随一。それなら、安心出来るかもしれない。


 私は王妃様に向かい、頷いて見せた。




「必ず、ルシア嬢を守ってみせますから」




 王妃様が真剣な眼差しで私を見つめる。カッコよ過ぎる……! 私は、そのお言葉を信じます、王妃様!




「ありがとうございます、王妃様! よろしくお願い致します」


「私からも、娘の事、どうぞよろしくお願い致します」




 私と同じように頭を下げるお父様。私はその姿に嬉しくて、涙が出そうになる。35歳ともなると、こんな父親の優しさが見に沁みてしまう……。身体は4歳児だけど!


 あ、そうだ!


 私は一つ提案したい事を思い出す。




「あ、あの! 王妃様。出来れば、温かく柔らかい食事をそこで提供してあげたいのですが、何か良い方法はありますでしょうか?」




 私の言葉に、王妃様はパンと手を合わせる。




「まぁ! それは良いアイデアです! 確か、塔の檻の前にはスペースがあるので、そこに簡易的な厨房を設置出来るはず。その道具を看守達に渡しておきましょう」


「あ、ありがとうございます!」




 こんなにあっさり快諾してくれるなんて! 流石王妃様、話が早いわ!




「お礼を言うのは私の方です! ルシア嬢、クロス卿、本当にありがとうございます。明日からよろしくお願いいたします」




 王妃様は目を潤ませつつ、笑顔を見せた。




「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」




 という事で、遂に……遂に…やった……!!


 私は、王妃様の命で、推しの『お世話係』としてあの塔にいけるッ!!


 やったわーーーーーッ!!!


 頭の中でガッツポーズが止まらない!


私は推しに会う第一歩を踏めた事に、内心大興奮だった。そして、意気揚々とお父様と帰路に着いたのである。






 世話係に大反対だったお兄様達はかなり驚かれた。そしてその後、こっぴどく怒られ、説教される私なのであった。




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