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第5話:遂に来た、王宮。



 次の日、私はお父様と初めての王宮へ向かった。4歳とはいえ、国王の前に立つのだから、それなりの格好に身を包む。




 春ということもあり、今日は薄めの黄色いドレスに、髪はハーフアップにする。髪留めは、お父様から3歳の頃プレゼントで貰った、エメラルドの宝石をあしらった物を使う。靴はドレスとお揃いの、踵にリボンのついたパンプス。白いレースの可愛い靴下を履いている。




 いつもより着飾った私を見て、兄達はベタ褒めだった。




「本物の天使だ」「春の妖精のようだ」




と、褒めちぎってくる。


 そんなに褒めるのは、貴方達ぐらいだぞ! 家族愛フィルターは厚めなようだぜ……!


私は恥ずかしくなりながらもお礼を伝えておいた。


 私達を見送る時の兄様達は、もどかしそうに馬車が見えなくなるまで、手を振り続けていた。


 お嫁に行くわけじゃあるまいし、大袈裟すぎるわ。




 そう思いながらお父様に向き合うと、お父様もどこか複雑そうな表情を見せていた。クロス伯爵とあろう者が、そんな哀しげな顔を見せて大丈夫なのだろうか……。




(お嫁には、当分行けないかもしれないわね)




 まぁ、私は一生独身で良い。推しのリアム様を愛でて生きていければ、それで良いのだもの!!


 リアム様の事を考えながら馬車に揺られて20分程して、遂に、王宮に到着したのだった。






 王宮には、かなり小さい頃に来た事がある。しかし、ほとんど記憶にないので、初めて来たようなものだった。




 もちろんの事だけど、ウチの敷地や建物、装飾とは、比べ物にならない程、豪華絢爛。入り口から王宮の門まで馬車でさらに揺られて10分程掛かった。


 敷地広すぎるでしょ……! そしてこの豪華な建物…装飾……さ、流石、国のトップ様の家だわ。


 私は目の前の建物の大きさなどなどに圧倒され、少し気後れする。こんな建物の所有者である国王陛下に、今からお願いしにいくのか……。そう思うと、なかなかに大変な道のりを選んでしまったのかもしれない。


 改めて、私のしようとしている事の大きさに気が付き、心臓がドクンと脈を打った。




(何を弱気になっているの、ルシア!! ここまで来れたのだから、きっと大丈夫よ!)




 私は自分に言い聞かせ、深呼吸した。すると馬車が止まり、従者が扉を開けてくる。




「ルシア、私の手に捕まりなさい」


「は、はい」




 お父様が先に降りると、小さな私をエスコートしてくれる。


 やはりカッコいいわ、お父様。


 流れるようなスマートさに、私は思わず、父親に惚れてしまうところだった。危ない危ない……。


 私が手を離そうとすると、お父様が私の手を握り返してくる。




「え?」




 声と共に顔を上げてお父様を見ると、お父様は少し顔を赤らめ、咳払いをした。




「ルシが、迷子になってはいけないからね。このまま"太陽の間"まで行こう」




 そう言ってゆっくりと歩みを進めるお父様。他の人の目も気にせず、私の歩幅に合わせるお父様の優しさに、私は感謝した。




(なんだかんだ、緊張していたみたい。お父様の手の温もりのおかげで、落ち着いてきたわ)




 気付かなかった私の緊張も、お父様は見抜いていたのかしら? 出来る男は、違うわ。


 そんな事を思いながら、嬉しさが込み上げてくる。やはり私は4歳児である。大人になるまで、まだまだ遠いな。……中身は35歳ですけど。




 太陽の間に向かう間、お父様へ挨拶する貴族は多かった。お父様は、顔を見合わせると名前を呼んで、挨拶や軽い会話をされる。


 お父様の脳内スペック、どうなってるの!? こんな大勢の名前を覚えられるって、すごい特技よ……!


 父の凄さに感動していると、初めてお父様は足を止めて挨拶した。




「アーノルド、ミハエル、今日は早いな」


「お、ルカリオ」


(こんなにフランクに話すお父様は初めてだ)




 私は見知らぬ顔の男性2人、青髪の騎士の格好をした男性と、深緑の髪に魔導士のような服装の男性を見上げる。


 な、なんてイケメン……!


父に負けず劣らずのカッコよさに眩しすぎて、私は思わず目を閉じそうになってしまった。


 そんな大人の男性2人に見下ろされ、再び緊張が走る。




「ルカリオが遅刻なんて珍しい……と、思っていたら、こんな可愛らしいお嬢さんと一緒だったのか!」


「まるで、ミモザの精霊だな」




 青い髪の男性と深緑の髪の男性2人は、それぞれ笑顔を見せながら、私を眺めてくる。少しビビってしまった私は、お父様の足元へ近付いた。


 それを見た青い長い髪の男性は声を上げて笑い、深緑のアシンメトリーな髪の男性は静かに微笑んでいる。




「なんて可愛いんだ! 女の子は癒されるな」


「私の息子にも、君の可愛い気を分けてやってほしいものだ」




 ここだけ、和やかなムード。それより、笑われてしまった……。むむ。


 複雑な気持ちで男性2人を眺めていると、どこか既視感を覚える。この人達を、見た事があるような……。


 そう思った時、お父様が私に声を掛けた。




「ルシア、この2人は私の昔馴染みだ。アーノルド・ホークスと、ミハエル・ミュラーだ」




 その名前を聞いて、私は目を見開いた。




「ホークス侯爵と、ミュラー魔法伯……!」


「おや! 小さな精霊様は、俺達の事を知っているのか!」




 私の言葉に、青い髪の男性:アーノルド・ホークス侯爵は、長い髪を揺らし笑顔を向けてくる。同じように深緑の髪の男性:ミハエル・ミュラー魔法伯も、微笑みを絶やさず紳士にお辞儀をしてきた。


 ちなみに、魔法伯とは、国王に属する魔導士で伯爵と同じ爵位のことである。(小説『いばらのドラゴン』内説明より)




「ふむ、光栄な事だな」


「2人の家門を知っていたとは、勉強熱心だな、ルシア」




 お父様も意外だと言った表情で私の頭を撫でてくる。私は笑顔を見せながらお父様の言葉に頷いた。




(知らない、はずがない……)




 2人の家門は有名な家門だが、何より彼らは、小説の登場人物達の父親達なのだ! 多分! きっと! いや、そうに違いない……! どこかで感じた既視感は、それだったようだ。


 確かに気付けば、顔立ちや髪や瞳の色が同じ……。




 聖女リーシャに恋心を抱くイケメンキャラ、騎士ギルバート・ホークスと、魔導士マーシャル・ミュラー。




 ギルバートは、『蒼剣(そうけん)の騎士』と呼ばれる人気No.3のキャラクター。笑顔を振り撒く父親とは正反対で、真面目キャラだった。一途にリーシャを想う健気さと、リーシャにしか見せないハニカミ笑顔が、人気の秘密だ。


 マーシャルは、どこか闇を抱える不思議キャラで、いつもムッとした顔か、ニヒルな笑みをしている。『深緑(しんりょく)の黒魔道士』と言われ、リアムに続くヤンデレが好まれていた。




 そんな2人の父親と、こんな所で出会うなんて……。


 私は内心、目を白黒させている。な、なんだか出会ってはいけない人達と出会ってしまった感。私は少し圧倒されながら、スカートの裾を掴みお辞儀をする。




「はじめまして。(わたくし)は、ルシア・クロスと申します。父がいつもお世話になっています」




 必殺『天使の微笑み』を炸裂させる。クロス家にしか効かない技だが、愛嬌は大事! 技は使わないと勿体無いからな。


 そう思って見ると、意外にも効果があったらしく、ホークス卿もミュラー卿も、顔を綻ばせていた。




「ルカリオが羨ましいよ」


「全くだ! 天使…いや、女神だ! 将来が楽しみだなぁ」




 ミュラー卿に続き、ホークス卿もお父様の肩を叩いた。お父様もあからさまに嬉しそうにしている。


 おじさま達にも必殺技が効くのね……。私の必殺技が通用する範囲は、もう少し広いようだ。色んな所で試してみよう、と心の中で思っていると……。




「ルカリオ! 今度ルシア嬢に、俺の息子を紹介させてくれ! 同い年だし、友達は必要だろ?」


「私の息子も、是非」




 ホークス卿、ミュラー卿が、前のめりでお父様に詰め寄っていた。何故そんな話に……? と言うか、私の方にも何やらスゴい圧がくるですけど!?


 背筋に冷たいものが走り、私の心の中は焦る。




「俺の息子は、凄いぞー! このままいけば、最年少で騎士になってもおかしくない!」




 ホークス卿はニヤリと笑いながら得意気に言う。それにムッとした表情で、ミュラー卿が反応した。




「私の息子も、魔術の天才だ。跡を継ぐ日は近いだろう」




 な、何やら息子自慢で、競い合っている! お父様は、止めないのかしら……。


 お父様の様子を伺うと、いつも通りの何ともないといった表情を見せている。




 ……だが、私は見逃さなかった。一瞬、片眉がピクついていたのを……。この癖が出る時は、動揺しているサインだ。


 少し間が空いて、お父様が口を開いた。




「……考えておこう」




 お父様のこの反応と言葉は……。




「お前、絶対合わせないつもりだろ……」




 あ、さすが旧友。バレてる。


 お父様は目をつぶって何も言わなかった。その行動も知っているのか、ホークス卿とミュラー卿は苦笑していた。


 ここは娘として、助け船をだしてあげましょう!




「お父様、国王陛下がお待ちなのでは……?」




 私がお父様の手を引いて声を掛けた。お父様はハッと目を開き、私を見てきた。そして優しく微笑む。




「そうだったな」




 ひとこと言うと、お父様は顔を上げて早々に別れの言葉を2人に伝えていた。




「ルシア、挨拶を」




 お父様に言われ、私は頭を下げる。




「あ、はい。それでは、ホークス卿、ミュラー卿、失礼いたします」




 私の仕草に感心しながら、ホークス卿が右手を左胸に当てながら騎士の挨拶をしてくる。




「あぁ! また近々お会いしましょう、レディー」


「ルシア嬢、それでは」




 ミュラー卿は、微笑み頭を下げてきた。私が笑顔で返すと、2人は朗らかな表情で見送ってくれた。




 そして、その様子を見ながら、私は複雑な気持ちを抱いていた。


 実は、小説原作内で、登場人物ギルバートは父の跡を継ぐ為に見習い騎士になるのだが、マーシャルは父親と反りが合わず、魔塔の魔導士となるのだ。まぁ、そこでリーシャと出会って、リーシャの事が好きになるのだが……。




(ミュラー卿は息子に対して、かなり期待をしていたみたいだけど……親の心、子知らず。お可哀想に……)




 微笑んでいたミュラー卿を思い出したながら、やるせない気持ちをミュラー卿へ送る。父親の儚い夢が、長く続く事を祈っていた私だったが、お父様があの場から逃れた事にホッとしている様子が目に入ってきた。


 その瞬間、ミュラー卿への慈悲な思いは、一瞬で私の中から消えていった。


 ふふ、お役に立てたようね!


お父様が安心しているのなら、それで良いわ。




お父様の手をぎゅっと握りながら歩みを進め、私は遂に、太陽の間へと足を踏み入れるのだった。




 こっからだ……! 気合い入れてくぞぉおおーー!!(乱心)




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