第4話:推しへの第一歩!
兄達の強固な壁。どう突破するか。
しかし、こうなってしまったのなら手段は選ばないわ……! 小説ではまだまだ先にわかる事だけど、この話をするしかない……!
私はゆっくりと息を吸い、吐く。そして、お父様と兄様達を見つめた。
「お父様、お兄様。私は、リアム様の授かった力を知っています」
その言葉に誰もが喋るのを止めた。注目される私は少し緊張しながら、ここまできたら、どうにでもなれ!という気持ちで言葉を続けた。
「リアム様の力は悪魔の力ではありません。世界を救う、ドラゴンの光の力なのです!」
私が意気込んで告げると、クロス家の食堂が一瞬にして沈黙した。
これは……どういう反応かしら。
静寂を貫くクロス家の皆さんの様子をおずおずと伺う。見ると、全員茫然とした表情だった。
明らかに、反応に困っている。
私がどう説明しようかと頭をフル回転させていると、お父様の声が静寂を破った。
「ルシア……それは、本当か? そんな話は、聞いた事がないが……」
疑いの目が私に降り注ぐ。皆が同じ気持ちのようだ。
どうする……本で読んだ、と言っても、この家の書庫の本は、お父様も把握されているだろう……。
信じてもらえないかもしれないけど、この手しかない。
私はごくりと、唾を飲み込んだ。
「昨日、神の声を……聞いたのです」
「神……? 神託、だと……!?」
シル兄様が目を見開く。あのお父様も開いた口が塞がらない、といった顔を見せていた。
無理もないか。私が突然、そんな事を言ったので驚かない訳がない。それに、私にはそんな能力、全く皆無!! 魔力をほとんど持っていないのだ。せいぜい生活のために使える『生活魔法』が使えるくらいだ。
例えば、マッチを擦ったぐらいの火が使えるとか、顔を洗う程度の水が出せる、そよ風程度の風を吹かす……と言った具合だ。しょぼい!
クロス家の皆んなはそれを知っているから、私を過保護に扱うのだ。お父様もさながら、2人の兄も、魔法に関しては王国の中でも上位を行くほどの腕前。そりゃあ、私の事が健気で可愛いくも見える。
そんな訳で、そんな娘・妹がいきなり『神託を聞いた』と聞けば、その表情も頷けるという訳だ。
「神託を聞けば、同時に司祭様や神職者達も、そのお言葉を聞いているだろう」
……そうなの?
私は思わず顔に出してしまう。
「知らなかったのか? 力を授かった時にも神のお言葉があったそうだが、その時のお告げは、『古き血脈を継ぐ者よ。汝の内に眠る力を解き放て。我その門を開かん。その光、万物を照らす救いとなるか、全てを焼き尽くす災いとなるか。 強固なる意思の楔を打ち込み、魔の誘いを断て』と、あったそうだ」
んん? ややこしく言ってるけど、つまり、『神様が、リアム王子の内なる力の門を開いたけど、その力は救いか、災いかは、強い意志を持ち、悪魔の囁きを絶たないとわからない』ってこと?
「……」
な、なんて人任せなお告げよ……! しかも、力を引き出しておいて、光か闇かわからないってさぁ、おい! 無責任な神だな!
シル兄様の言葉を聞いて、心の中で文句を言っていると、お父様が宥めるような声で話し掛けてくる。
「ルシアが行っても、何も出来ない。国王もそのお告げを司祭様より聞かれ、それ故に、強き心を持つまで……もしくは、魔力が光か闇かわかるまで、あのように幽閉しているのだ」
父から発せられる言葉は、おかしい。
そんなの……。
「そんなの、理不尽すぎる」
私は自分でも顔が歪んでいるのがわかった。
「ひとり幽閉されて、強き心を持つまで待つってなんですか? 1人でなんとかしろなんて、酷すぎます……!」
私はお父様と兄様達を見つめる。3人とも気まずそうな表情を浮かべていた。
「もし私が同じようなことになっていたら、お父様もシル兄様もリオ兄様も、同じ事をされますか!?」
「……」
誰も反論をしてこない。やはり国王の指示に関しては、疑問を持っているのか。そう思った時、シル兄様が苦しそうに口を開く。
「そうなった時は、国を優先、するかもしれない……ッ」
「シルバール!」「シル兄!!」
お父様とリオ兄様が声を荒げ、シル兄様を制した。シル兄様は顔を上げ、私達を見渡す。
「ルシが悪魔……魔族に、なってしまうのなら、ルシを部屋からは出さないっ! それで多くの命を守れるのなら……ルシの手を、血で汚させないのであれば……っ!」
「……シルバール」
お父様が、シル兄様の苦悩の言葉にグッと顔を歪めた。同じ気持ちだと言わんばかりの空気を漂わせる。
だが、私は諦めない。推しの闇堕ちを、このまま黙って見ている訳にはいかないのだ。
「私はそれでも、リアム王子のお側で、ドラゴンの力を信じて、支えて差し上げたいのです」
私は祈るようにシル兄様を見つめる。しかし、シル兄様の表情は変わらない。
シル兄様も諦めない私に痺れを切らしたように声を荒げた。
「じゃあ何故! 誰もリアム王子をあの塔から助け出そうとしないのだ!?」
その言葉に、私はぷちんと何かが切れるような音を聞いた。
「それはこっちが聞きたいですわ!! なぜ誰も光の力を信じようとしないのですか!?」
私は感情のままに声を上げた。初めて声を張り上げる私を見て、その場にいる全員が目を丸くし黙りこくっている。
……やってしまったぁあ! 感情的になるのは良くないのに、思いっきり叫んじゃったよ。後悔先に立たず、だけど。
私は部屋へ戻ろうと席を立った。このままだと、推しへの愛をベラベラと喋ってしまいそうだ。小説の内容も話してしまう勢い……それはマズイっ!
そう思い、足早と食堂の扉へ向かっていると、お父様の静止の声が聞こえた。
「待ちなさい、ルシア」
私は足を止める。
暫く重い沈黙が続き、お父様の声が食堂に響いた。
「……いいだろう。お前の話を、国王陛下に話してみよう」
「え?」「「父上!!」」
私は驚き、すぐに振り返る。兄様達も声を揃えてお父様を注視していた。お父様は軽く手を上げ、兄様達を黙らせる。
「今日、国王陛下とお会いする。その時、ご判断を仰いでみよう。ただし、そこで話が終わったら、それまでだ。良いな?」
条件付きとは、卑怯だ! だけど、一度話してもらえるだけでもチャンス。私は大きく頷いて見せた。
「わかりました! ありがとうございます、お父様!」
私はきっと、満面の笑みで笑っていたと思う。それほど嬉しい、大きな一歩だったからだ。
内心、踊りたくなるほど喜んでいると、お父様が咳払いをした。
「では、この話は、一旦ここで終わりだ。ルシも席に戻って、きちんと朝食を食べなさい」
その時、お父様の手にしたカトラリーの銀色が冷たく光った……気がした。
お父様は何事もなかったかのように、食事の続きを始める。すると、兄様達も諦めたように溜め息を吐きながら、食事を口に運んだ。
私はお父様に返事をして、席に戻り、再びポタージュを口に含む。冷めてしまったが、味は変わらず美味しい。いや、大きな関門を突破した喜びもあってか、いつも以上に美味しく感じる。
次第に会話もしながら、朝食を食べ終える事ができた。
そして、その日の夜。
国王より『明日、娘と王宮へ参上するように』とお返事をいただいた、とお父様から告げられた。
(うおっしゃぁあぁーーー!!)
私は心の中で大ガッツポーズをした。
無責任な神は、私を見放していなかった……!
っという事で、なんとか第1ミッションをクリアした私は、明日、お父様と王宮へ向かうことになったのだった。
推しへの第一歩! 待ってて、私の推しよ!!
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