第3話:強固な壁…。
次の日の朝食の時間。
私が食堂へ到着すると、既にお父様と兄様達が席につき、何か話をしていた。
「おはようございます、お父様、お兄様方」
私がスカートの裾を掴み挨拶をすると、話をやめて、お父様と兄様達が私の方へと素早く視線を向けてきた。
「おはよう、ルシア!」
お父様は安堵したような表情で私に挨拶してくれる。なんてイケメン。作画担当者よ、見よ。この美しい顔を……。私が心の中で父の美しさに浸っていると、もう1人のイケメンも声を掛けてきた。
「ルシ! もう体調は良いのかい?」
「シル兄様、ご心配いりません。ルシアは完全復活しましたわ!」
私が満面の笑みで返すと、シル兄様は頬を赤らめ緩めた。その顔には、『今日のルシも天使だ』と書かれている。
「もう無理するなよ、ルシ」
「えぇ、気を付けますわ」
私の返事に、リオ兄様はホッと笑いながら私に笑顔を向けた。
うむ……クロス家男子達、目の保養だわ。
私は『隠れオタクスキル』を発動。表情には出さないが、心の中でそっと3人に手を合わせた。
「さぁ、ルシア。お前も早く席に座りなさい。朝食にしよう」
「はい、お父様」
私はお父様に促され、いつもの席に座る。そのタイミングを見計らったように、次々と朝食が運ばれ、机の上は瞬く間に華やかな朝食に彩られる。
そして、和やかに始まる朝食。すると、たまにしか出てこない、私の大好物のポタージュが目の前に置かれ、私は目を輝かせた。
「ルシは、そのポタージュが本当に好きだなぁ」
お父様が私の表情を見て、嬉しそうに声を掛けてきた。
「はい! 大好きです!」
「ははは! そうか。おかわりもあるそうだ。どんどん食べなさい」
(もしかして、お父様が作るように指示されたのかしら?)
お父様がおかわり分まである事を知っているという事は、きっとそうに違いない。
「ありがとうございます、お父様!」
私がお礼を伝えると、お父様は笑みを浮かべ、そのままポタージュを口に運んだ。
昨日突然倒れた私を、本当に心配してくれたのだろう。ここまで、気を遣ってくださるなんて……本当にパーフェクトな父親だわ! ベストファーザー賞をあげちゃうレベルよ!
私は、心の温まるポタージュをゆっくりと味わって食べた。このモッタリとした、だけど口溶けの良いスープ。味付けも濃すぎず、身体に染み渡る優しさ。
(うーーんっ! 流石は当家のシェフ、グッジョブ! 美味しい〜〜ッ!)
私がその美味しさに浸ると、周りから小さな笑い声が漏れる。ふと見ると、兄様達が口元を押さえながら私に注目していた。
「ルシは本当に可愛いなぁ!」
「その堪らないって顔、大好物の時だけしか見れないよな!」
中身35歳の私に可愛いなんて……! 貴方達の方が何十倍も可愛いわ!! と、そんな事を思っていても恥ずかしさというのは、勝手に込み上げてくるもので、私は顔が熱くなるのを感じた。
「ーーッ! シル兄様、リオ兄様!」
私が必死の抵抗で兄様の名前呼ぶと、リオ兄様は「ルシが怒ったー!」とからかってくる。それを見てシル兄様は、またクスクスと笑っていた。
「むむむー……っ」
ここまで私を笑ってくとは、何事じゃい! だが、そんなイケメン2人の笑う顔が見れて、満足している私がいる……。なんとも複雑なオタク心である。
「シルバール、サリオン。2人とも、ルシアをイジメるのはやめなさい」
お父様が兄様達を制してくれた。笑いながら謝る2人。反省はしていないのだろう。私は全く反省していないだろう兄様達を放っておいて、忘れない内に本題に入る事にした。
「お父様、今日のご公務は確か、王宮での行政会議でしたか?」
「ん? そうだが……どうした?」
私の言葉にどこか不安そうな雰囲気を醸し出すお父様。それはお兄様も一緒だった。
……なにか、嫌な予感。
「私も王宮へ連れていってもらえませんか?」
私が真っ直ぐお父様を見ながら伝えると、お父様は真剣な眼差しで私を見た。
「……なぜ、そのような事を言うのだ?」
謎の間があった。気になるけれど、ここまで言っておいて言わない訳にもいかない。雰囲気的に必死技である『天使の笑顔』をここで使うのは良くなさそうだ……。私は真剣に内容を伝えるため、グッと手に力を込める。
「私は、第二王子リアム王子の友人として、お世話をしに行きたいのです……!」
その瞬間、食堂の空気が一気に重くなった。
(ん? なぜか、みんなの顔が暗い……)
お父様と兄様だけでなく、執事のロバートやロージーを含むメイド達も、顔を曇らせている。すると、お父様が困ったように眉をハの字にした。
「ルシア……申し訳ないが、その申し入れは、許可できない」
「え……なぜですか?」
私が問うと、お父様はグッと顔を歪める。
「昨日、リアム王子の話をして、ショックでお前は倒れたではないか。もう、あんな事に、なってほしくないのだ」
お父様の泣きそうな顔が、本心だと伝わってくる。私を心配して、リアム王子とは縁を……いや、話すらしないと考えているようだ。
そんな事……っ、させないわ!!
「昨日倒れたのは、それが原因ではありません! 私はいたって健康です。今朝お医者様にも言われました!」
私が珍しく声を張って主張している事に、お父様や兄様、メイド達も面食らっている様子だった。
「私と歳も一つしか変わらない王子が、家族から引き離されているなんて……私には耐えられません! せめて、私1人でもお友達に……っ」
「なぜ、ルシが行かなければならないんだ!」
「!」
私の言葉を遮り、声を荒げたのはシル兄様だった。怒りの表情と震える身体。珍しく激しい感情を剥き出しにしている。
「ルシは、僕達の家族だ! ルシに何かあったら、僕は居ても立っても居られない……ッ!! 」
「俺もそうだ!!」
リオ兄様も立ち上がり、私を睨むように見てくる。すると、お父様が口を開いた。
「ルシア、今のリアム王子の状況は深刻なのだ。1年も家族と離れ、精神的にも参っている。食べ物も受け付けず、痩せ細り、魔力も暴走するため看守すら近付けないのだ。お前が行っても、何も出来ないんだよ」
お父様の暗い表情がリアム王子の深刻さを物語っている。
リアム様は、今誰にも頼れず、ひとり悪魔の力と呼ばれる未知の暴走に耐えているの……?
その瞬間、私の中でふつふつと怒りのような想いが溢れてきた。
私の推しが、そんな酷い目に……!!! なんて可哀想なのッ!!? 何故誰も助けないのよ!?
小説や漫画でもリアムの幽閉シーンの描写はあった。しかし、今はそれが現実なのだ。何も食べれず痩せ細り、頼れる者も居ないなんて……。そりゃあ、闇堕ちするわっ!!
私は、お父様の話を聞き、更にじっとしていられなくなった。なんとか、王宮に行かなきゃ!
「お父様、それでも、私は行きますわ! なおさら行かなくてはいけないです!」
私が食い下がると、兄様達の目が本気になった。
「ルシ! どうしてわかってくれない!! 僕達はお前が心配なんだぞ!」
「お前にちょっとの傷が出来ただけでも、嫌なんだ!」
シル兄様とリオ兄様は、次々と強い口調で私を止めようと口を開く。あまりの威圧感に、私はたじろいでしまった。
兄様達がこうなってしまっては、私の泣き落としも、甘えて頼んでも、絶対に首を縦に振る事はない。しまったなぁ……作戦失敗だ。兄様達が学校へ行った後に、お父様へお願いすべきだった。
兄という、大きな壁。
思わぬアクシデントに、私は項垂れた。
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