第18話:登場人物達との交流
推しのお世話係になって半年が経った。
(色んなことが一気に進んでいったわね……)
推しが檻に入っていると聞き、前世の記憶が蘇って、この世界は『いばらのドラゴン』という小説の世界だと判明。そこから、私の推し救済&更生計画が始まった。
最初こそ大変だったが、今はなんとか事が運び、うまく推しを更生出来そうである。
そして、今日。遂に、あの約束を果たさなければならない日が……来てしまった。
ホークス卿とミュラー卿が、今後の王国の見通しを話し合う為、クロス家へと来訪する日。というのは建前で、彼らの目的は、息子さん達を私に会わせる事だ。前に相談された話をきっちり果たしに来た訳ですね。
私のお父様を説得させたのは、なかなかのやり手だわ。さすが旧友の仲。私も日程が決まったとお父様から聞いた時は、かなり驚いた。
断りたかったのだが、実はこの日、月に1回の王妃様との対談の日であった。この日は塔に行かない為、その午後、クロス家に来て、ホークス卿とミュラー卿がお父様とお話している間、息子達とお茶をするという流れになったのだった。
憂鬱な私とは一転して、ロージー含むメイド達は、朝から張り切って準備をしてくる。何故か楽しそうなメイド達に、「適当で良い」と指示したのだが、かなりめかし込まれてしまった。
(うわ……やり過ぎじゃない? 気合い入ってるように見えて、恥ずかしいわよ……)
鏡を見て、驚きと呆れが同時に来た。メイド達はやり切った達成感に満たされている。ロージー曰く、『お嬢様に初めてのご友人が出来るかもしれない……!』と、朝からソワソワしていたようだ。
(私の事を気にしてくれて、ありがたいわね)
そんなメイド達に、私はお礼を伝えてお父様の待つ応接間へと向かったのだった。
正直、今日はお父様達と一緒にお茶をするのだと、高を括っていた。社交界において、未婚の女性1人と未婚の男性が一緒にいる事は、よろしくないからだ。
(ギルバートとマーシャルとは、あまり話をせずに終わるかもしれない)
特に推しではない2人なので、そこまで深く関わりたくないと思う私は、贅沢なんだろう。ギル推し、シャル推しの推し友よ……許せ。
私は少しの辛抱だと気持ちを切り替えて、ホークス卿とミュラー卿をお父様と迎えた。
しかし、ミュラー卿は流石に侮れなかった。なんとミュラー卿の娘さんが一緒に来ており、別の部屋で4人でお茶をする事になったのだ。
抜かりなさ過ぎやろぉおーーー!!と、心の中で絶叫はしたが、女の子のお友達が出来るチャンスかもしれない。私は1個歳下の女子をロックオンしてお話しする事にした。
「改めて、ルシア・クロスです。今日は精一杯おもてなしさせて頂きます。ゆっくり寛いでくださいませ」
私が『天使の微笑み』で笑うと、3人は少し緊張を解いたようで、空気が緩んだ気がした。口火を切ったのは、深緑の長い髪を揺らすマーシャルだった。
「ありがとうございます、ルシア様。私は、マーシャル・ミュラーで御座います。こっちは妹のムイナです。ムイナ、挨拶を」
笑顔を見せていたマーシャルは、鋭い深緑の瞳をムイナに向ける。すると、ムイナがビクリと身体を震わせ、オドオドと私へお辞儀をしてきた。
「あ、ム、ムイナ・ミュラーと、申します……」
「兄妹共々、宜しくお願いします」
明らかにムイナと私に向けるマーシャルの視線が違う。それは、横にいるギルバートにも伝わっているようだ。ギルバートも目の前の兄妹を交互に見ている。だが、暫くして私の方へと視線を移し、口を開いた。
「おれ……私は、ギルバート・ホークスと申します。ルシア様とは同じ年になるかと思いますので、今後とも宜しくお願いします」
ギルバートは真面目な面持ちで頭を下げてきた。群青色の短い髪に、少し薄めの新緑の瞳のギルバートは、既に小説にあったような堅固な性格を持っているようだ。あの柔らかい父親とは、全く正反対の性格……。どうやったらそんな風に育つのかしら。という疑問は心の隅に置いておく。
一通り挨拶が終わり、マーシャルが1人饒舌に話し始める。今の国の情勢についてや、魔塔の話、父親の仕事についての考えを披露してくる。
自分の話ばかりね……。私より4個年上、つまり、この中で最年長。だからって、なんでも知ってるマウントでも取りたいのかしら?
小説内での描写はあまり無かったが、ものすごいプライドの高さである。ヤンデレキャラじゃなかったっけ? あと顔をよく見ると、漫画化された時のマーシャルより、あまりイケメンには見えないわね。……性格のせいかしら。
周りを見ると、ギルバートは真面目な表情でマーシャルの話に『うんうん』と頷くだけ、そしてムイナは愛想笑いのような相槌を打っている。
(みんな、マーシャルに合わせてるって感じね)
私は様子を見ながらゆっくりと紅茶を口にする。マーシャルの目が私を捉える度に、『こんな話もわからないのか』と言った視線を送ってきているようだった。
(私の事を馬鹿にしているのが見え見えね)
興味のない話には乗りません。という事で、私は前に座るムイナに声を掛けてみた。
「政治のお話は殿方に任せて、ムイナ様、お話しましょう?」
「え……?」
愛想笑い中のムイナは驚いた様子で私の方を見た。話を続けるマーシャルと、それに相槌を打つギルバートもこちらを気にしている。だが、私は気にしない。
「ムイナ様は、綺麗な若草色の髪の毛をしているのですね」
「あ、ルシア様……! 私の方が年下ですので、『様』は、ちょっと……」
顔を赤くしながらムイナが私から視線を逸らす。その仕草が本当に可愛くて、私は思わず笑ってしまった。
「わかりました。では、ムイナと呼んでも良いですか?」
「は、はい、もちろんです……!」
ムイナは、ここに来て初めて嬉しそうに笑った。笑顔が眩しいわ……! 横に座るマーシャルと本当に血が繋がっているのかしら。
マーシャルの先程からの嫌味な笑みを思い浮かべながらそう思った。
「私の事もルシアと、呼んで下さい」
お友達になれる、そんな気がして私が言うと、ムイナは一変して困ったような顔を浮かべる。
「え……!? そ、それは、出来ません! わ、私なんかが……その……」
「良いじゃないですか! 年も1つしか違わないのですから」
私が言うと困り果てたように下を向くムイナ。
(しまった……。積極的過ぎた)
笑顔が見れた嬉しさにぐいぐい行き過ぎてしまった私。3歳の子を困らせてしまったわ。……そう思うと、この世界の3歳児も社交界の勉強をしていて、全く子供らしくない子供が多いかもしれない。と、ふと思っていると、横から声が掛けられた。
「すいません、ルシア様。我が妹は、自分の意思すら伝えられない、出来損ないなのです。貴女のような高貴な方と、肩を並べるなんておこがましい存在なので、気にしないでやって下さい」
ムイナを見ながら鼻で笑うように話すマーシャル。それに私はカチンときた。
「貴方の妹君ですよ? そんな言い方はないんじゃないですか?」
私が冷静に言うと、その場が静まり返った。マーシャルは睨むように私を見てくる。ムイナは困惑しており、ギルバートは無関心そうだが私達のやり取りを見ていた。
「妹の事はよく知っています。私は家族なんですから。初めて会った貴女にはわからないでしょうが、ムイナは何も出来ない、考えられない鈍臭い奴なんです。ましてやミュラー家に生まれたのに、魔力も少ない。出来損ないの何者でもないでしょう? まぁ、部外者の貴女には、関係のない事ですので、口を出さないで下さい」
マーシャルは言いたい事を言ってスッキリしたのか、カップを手に取り紅茶を飲み始めた。
まぁ〜、言いたい事ベラベラ語りやがって。一回、コイツに痛い目見せてやらないと、私の腹の虫も治りませんわ。
という事で、反撃を開始した。
「……お可哀想に。貴方は誰かを貶めないと、自分の価値を保てないのですね……」
「!」
私が哀れみの目でマーシャルを見ると、マーシャルはピクリと目元を反応させる。
「妹君を『出来損ない』と呼ぶことで、ご自身の優秀さを必死にアピールしているようにしか見えませんわ。とても、見苦しいです」
「なんだと……」
苛立ちを見せるマーシャル。乱暴にカップを置くその態度にも腹が立つわ。
「自分より幼く、抵抗できない身内を見下して優越感に浸るなんて……ミュラー卿の次期当主様は、随分と『臆病』で『惨め』なお方なのですね。……正直、ガッカリしました」
呆れ気味に言うと、マーシャルは顔を真っ赤にして立ち上がった。
「お前みたいな、のうのうと生活する女に何がわかる!?」
「あら、お前だなんて! レディーに失礼では御座いませんか。それに、私はのうのうと生活もしていません。貴方こそ、私の何を知っているのですか?」
「っ……!」
何も言えず口を閉ざすマーシャル。
「それと、『女』という言葉は、心外ですわね。マーシャル様が、私達『女』を見下している証拠です。そう言った態度は、周りの人達も気付いていると思いますよ」
「何を根拠にそんな事を……!」
私が落ち着いた声なのと裏腹に、マーシャルは声を荒げて私を見下ろしてくる。その横でムイナが震えているのが見えた。
「ムイナが怯えているのは、貴方がいつもそのような態度を取っているからでしょう?」
「あ……」
ムイナが一瞬反応した。それに、マーシャルが気付き、ムイナを鋭い目つきで睨みつけている。
(このままじゃ、ムイナが危ないかも……)
私は急いでムイナの元へ歩み寄り、マーシャルの前に出て、続けた。
「魔導を志す者が、身近な家族の心ひとつ理解できないでどうするのですか?」
マーシャルは何も言わないが、ハッとした表情を見せた。
「表面的な魔力や才能だけで人を測るような『狭い視野』では、いずれ魔導の深淵には辿り着けない、と私は思います。優秀な魔導士とは、あらゆる事象の『本質』を見抜く目を持っている者のことを言うのではありませんか? 貴方のお父上のように」
私がジッとマーシャルを見つめる。マーシャルも負けじと睨んでくるが、負けを認めたように顔を背けてきた。
(どうやら勝てないと思ったようね。だったら、救済でもしてあげようかしら)
35歳の私は、8歳相手にやり過ぎたという罪悪感もあり、優しい口調でマーシャルに語り掛ける。
「マーシャル様、本当に強い者は、弱い者を守るためにその力を使うものですわ」
そっぽを向いたままだが、私の言葉は聞いてくれているようで、マーシャルは黙ったままだった。
「マーシャル様の目指す場所は、どこでしょうか? よくお考えになられて下さい。貴方のお父上は、貴方の事を自慢される程、期待をされているのですから」
「……!」
俯いていたマーシャルがパッと私を見つめてきた。その顔は、知らなかった真実を知った、と言うような表情。
(ミュラー卿は、息子を褒めていなかったのかしら……私にマーシャルを紹介したがってたのに……マーシャルも不憫な子供なのね)
私が微笑んで見せると、マーシャルは我に返ったようで、素早く片手で顔を覆った。表情はわからなかったが、顔が赤くなっているように見えたので、きっと父親が自分褒めているという事実に照れているのだろう。
マーシャルは置いといて、ムイナの方へ向き直った。ムイナの視線がどこか変わっている気がするが……まあ良いか。何も収穫がないお茶会は勿体無い。
「ムイナ、私は女性のお友達がほしいと思っていて……こんな時に言うのもなんだけど、お友達になってくれないかしら?」
「……ッもちろんです、お姉様!喜んで!」
「お、お姉様……?」
私はムイナのおかしな言葉を繰り返す。しかし、ムイナは気にせず「お姉様!」としか言ってこなかった。
(これってお友達になった、と言って良いのかしら……?)
そんな事を考えていると、視線の端に映るギルバートが目に入った。その視線は私に釘付けである。さらに言えば、まるでムイナと同じキラキラとした目で視線を送ってくるので、私は困惑した。
(な、なんなの……あの目はッ! 推し以外の登場人物とは、関わりたくないと思っていたのに……)
私の気持ちとは逆に、どことなく今後も関わっていくのかもと直感的に感じてしまった。
ま、でも、それもこれも聖女リーシャに会えば、全て変わるはずだ。私はそう思って、この状況を諦める事にする。
ちょうどその時。
ーーコンコン
部屋の扉を叩く音がした。
恐らくお父様達だろう。私は救世主の登場に心から感謝した。
は、早く帰ってーーーー!!!
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