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第16話:前世の料理、日本食!



 王妃様とお話した昨日は、夜ぐっすり寝れた。実は、前々から『東邦国』の料理については考えていて、王妃様を説得出来るか不安だったのだ。何度もシミュレーションを重ねて良かった……! これで日本食を作ることが出来るわ! そんな気持ちで昨夜はワクワクしながら眠りについた。




 王妃様から、1ヶ月に一度、リアム様の報告とお話をしに王宮へ来てほしいとお願いされた。もちろん、私はすぐにそれを了承! こんなに頼ってもらえて、王妃様とも繋がれるなんて、私としては嬉しい限りだわ! それに、魔道具エレベーターの件も相談したかったし……。




(あ、そういえば……)




 昨日の食材ゲット作戦の成功で、すっかり忘れていたが、王宮から帰ろうとした時、アーノルド・ホークス卿とミハエル・ミュラー卿と出会ってしまったのだ。あんまり関わりを持ちたくなかったのだが、仕方がない。


 その時、2人から言われたのは、『息子達と会ってほしい』というお願いだった。何故私がお二人の息子さん達と会わなきゃいけないの?




 お父様がいる時に話してくれよ……と、心の中で思ったが、『父と相談してみます』と一言告げて、その場を後にしたのだった。




(帰ってきたお父様も、同じように言われたみたいで、頭を抱えていたわね……)




「お嬢様、こちらの鍋に野菜を入れたら良いですか?」


「ん? あぁ、そうね!」




 私が昨日の事を思い出していると、ロージーから声を掛けられ現実に戻ってきた。




「火の通りにくい野菜から入れてね」


「わかりました!」




 私達は今ちょうど、王妃様の用意してくれた食材でご飯を作ってみている。ひとつの窯ではお米を炊いており、もう一つでは味噌汁を作る。




 基本的な東邦国の調味料、醤油、味噌、みりんや乾物も沢山揃えてくれており、料理はかなり幅広く作れそうだ。




 ロージーが、削り節と昆布で取った出汁の中に野菜を入れていく。出汁の香りが最上階に充満し、ロージーも目を瞑り、香りを楽しんでいた。




「この"だし"とか言う、黄金のスープ……何度嗅いでも不思議で良い匂いですね」


「ふふ、この出汁のおかげで、味噌汁というスープも美味しくなるのよ」


「へぇ〜!」




 ロージーが目を輝かせながら、沸き立つ出汁と野菜を眺めている。




「そういえば、お嬢様。いつの間に、東邦国のお料理を勉強されたのですか?」


「え?」




 ま、まずい。ロージーには、嘘が通じないだろう。料理長のユーリックに聞いたと言えばユーリックに聞きにいくだろうし、本だって読んでいる所を見た事が無いと、言われるかもしれない。




「そ、それはね……」




(前世の記憶があるからよ!……とか言えないし)




 私は、なんと伝えるべきか悩みに悩む。するとその時。




ーーカサ……




 檻の方から、布の擦れるような音がした。私はハッとして、急いでそちらに目を向ける。すると、リアム様が顔を上げ虚ろな瞳をキョロキョロと動かしていた。




「リアム様!」




 私はすかさず檻の近くへ駆け寄り、名前を呼んだ。リアム様の視線が私を捉え、そのまま見つめ合うような形になる。




 い、今……ッ、私は推しと目が合っているぅううーーーー!! 虚ろな目もイケてるわぁあーーーッ!!




 脳内絶賛オタモード中。じゃなかった。リアム様が、突然反応を見せた。何かした訳じゃない……。あるとするなら、今料理をしていてお米を炊き、出汁を野菜と煮込んでいる事。




「……もしかして、この出汁の香りに?」




 私がポツリと呟くと、ロージーがパンッと手を叩き、私に近付いた。




「お嬢様、そうかもしれませんよ! 黄金のスープの香りが、王子に刺激を与えたのかもしれません!」




 喜ぶロージーの言葉に、私も嬉しくなった。東邦国料理、もとい"日本食"によってリアム様が何か感じてくれたなんて、喜ばしいッ!!


 私は嬉しい気持ちで頬が緩むのを感じた。目を離さず見つめるリアム様の表情は無表情で、不思議そうに私を見てきているが、それでも何かを感じてくれているのなら、私はそれで良かった。




「リアム王子、待っていてください。今日からいつもと違うお食事を、ご用意しますから」


「……」




 優しく声を掛けるが、リアム様からの返事はもちろんない。それでも私を見つめ続けてくれる推し……。なんとも愛しい……!


 後ろ髪引かれる思いで、私は厨房へ戻った。ご飯は良い具合に炊けているようだ。




「ロージー、こっちの窯の土鍋を横の台に移動させてくれるかしら? あと15分蓋をして蒸らしておきましょう」


「かしこまりました」


「火傷しないように気を付けてね」




 私の指示にロージーが動いてくれる。その間私は台の上に立ち、牛肉を薄めに切った。そして新しい鍋を窯に置き、油を少し入れる。そこに牛肉を入れ炒め、切っていた野菜を入れて、全体的に油を馴染ませる。




 すると、今度は牛肉と野菜の香ばしい匂いが立ち込めてゆく。リアム様をチラリと見るが、この匂いには反応していなかった。




(この匂いじゃ何もないのね。香りが強いのかしら……出汁の香りにだけ反応する? いや、焦っちゃダメね)




 そんな事を思いながら、私は料理の方へ意識を戻した。味噌汁の分と取り分けておいた出汁を鍋に加えて、酒、みりんを入れて蓋をする。あとは少し煮込んで具材が柔らかくし、醤油で味付けすれば完成だ。




 そう、作っていたのは『肉じゃが』だ。




(ふふ、肉じゃがなんて、久しぶりに食べるわ! 日本食が楽しみで仕方ないッ!)




 私は思わず微笑んでしまった。この世界に生まれ落ちて4年間と、病気になりご飯が食べれなかった数年間……。海外に行って日本食が恋しくなる日本人の気持ちが、よく分かるわ……!




 そんな事を思いながら、私はロージーと一緒に、ご飯を盛る器の準備に取り掛かった。王妃様は、東邦国の器や鍋なども用意してくれており、陶器の器がズラリと勢揃いしていた。




(流石ですわ、王妃様! しかし、昨日の今日でよくぞここまで用意を……)




 器選びを楽しみつつ、肉じゃがも最後まで完成させ、味噌汁にも味噌を溶き入れた。


 いよいよ、食事を盛り付ける。


 土鍋の蓋を開けると、フワリと白い湯気が立ち上ってゆく。中のお米も表面はツヤツヤで、一粒ひと粒が立っている。パールのような輝きが美しい。




(あぁ〜! この香りよぉー!!)




 私は思わず、一筋の涙を流す。日本人の血は流れていないが、前世の食への記憶が一気に流れ込んできた。脳内バックでは、前世で誰かがカラオケで歌っていた打◯獄◯同好会様の『日本の米は世◯一』という曲が流れてゆく。




「お、お嬢様!? 大丈夫ですか?」




 あの頃の思い出に浸っていると、ロージーが慌てて私に声を掛けてきた。




「だ、大丈夫よ! あまりに綺麗に炊けていたから……」


「脅かさないで下さい〜! 急に泣かれるので驚きました」




 ロージーは本気で心配してくれたようで、安堵の表情を浮かべた。そして、私にお(ひつ)を渡してきた。




(お櫃まで、ちゃんとあるのよね〜)




 キャンプで培ったご飯の炊き方がここで生かされるとは。更に、お櫃は食卓でよく使っていたのが経験値として記憶に残っていた。




(お婆ちゃん、ありがとう!)




 まさか、ここで前世の祖母に感謝する日が来るとは、私も思っていなかったわ。




 炊き立てが1番美味しいので、先に食べてもらうラルフさんもロージーの分は、そのまま器にご飯を盛った。


 白米をよそった器をお盆に乗せる。そして、具沢山のお味噌汁と肉じゃがを順に乗せ、最後に、はじめに作っておいた『大根サラダ〜鰹節のせ〜』を乗せる。


ワンプレート和食ランチの完成だ。




(うんうん! 良い感じに出来たわね!)




 私は2つのお盆を見ながら頷く。




「ロージー、ラルフさんを呼んで、早速食べてみてくれない?」


「はい!」




 ロージーは、部屋の扉の前で待機するラルフさんに声を掛け、中へと連れて戻ってきた。ラルフさんは、部屋に入り食事を見るなり目を見張った。何も言わずに席に着くラルフさんだが、器を覗き込み、「おぉ」と感嘆を上げる。




「これ……東邦国料理」




 ラルフさんが珍しく声を上げたので、私は驚いた。




「そうです! これからは東邦国料理を振る舞っていこうかと思っているのですが、ラルフさんは東邦国料理をご存知なんですか?」




 私が聞くと、ラルフさんはこくりと頷き、マジマジと料理を眺める。ロージーも席に着き、早速料理を食べ始めようとカトラリーを手に取った。ラルフさんは手を合わせ、軽く頭を下げた。




「いただきます」


「ラ、ラルフさん……それは……!」




 私は懐かしい作法を見て感動した。日本と同じ習慣。私の反応に、ラルフさんがゆっくりと口を開いた。




「これ、東邦国の食べる前の、感謝の言葉」




 知ってます……! 私も前世では必ずやっていました! って言うか、東邦国は、もう日本と言っても良いのではないか?




 私は何も言わずに、コクコクと縦に首を振る。すると、その動作がおかしかったのか、ラルフさんが微笑んだ……気がした。


 わ、私としたことが、嬉しくてつい取り乱しちゃったわ。




「どうぞ、召し上がって下さい」




 私がコホンと咳払いをして言うと、ロージーが少し緊張気味に味噌汁を覗き込む。




「この、みそしる、とやらは、黄金色だったのに、泥水みたいになっていますね……」




 スプーンでかき混ぜ、味噌汁をすくうとロージーは意を決したように口へと運ぶ。一方ラルフさんは、箸を持ち、味噌汁のお椀を手に取ると、そのまま口元へと運んでいった。




 ーーズズッ




 ラルフさんの慣れた手つきを見ると、東邦国へ行った事があるのだろう。そこで料理も食べたに違いない。そう感じていると、2人の表情がパッと変わった。そして、味噌汁を眺めるラルフさんと、ロージー。




(あ、味が薄かったかしら……?)




 私が味見した時は完璧な配合だった。この国の人にとっては、薄味に思えたかもしれない。と、その心配はすぐに吹き飛んでいった。




「美味しい……!」


「お嬢様! とても美味しいです〜!! コクがすごいです〜!!」


「! 良かったわ!」




 2人は満面の笑顔。というより、ホッコリした表情を見せていた。こんな顔をしてくれて、私は心の底から嬉しくなった。




「お嬢様は天才です! こんなお料理、初めてですよー!」


「この白米も、美味い」




 ロージーとラルフさんの手は止まらず、どんどんと食事を進めていく。毎回感動してくれながら、気付けばあっという間に食べ終わってしまった。ラルフさんはご飯を2回おかわりしていた。それほど上手くご飯も炊けていたという事だ。




(まずは、第一段階突破ね!)




 大絶賛の声に、私はホッとひと安心した。


 次はカモシカ男もとい、ハンスに食べてもらう……。果たして、どんな反応が返ってくるか。




 不味いと言われなければ良いのだけど。




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