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第14話:王宮への招待と、謎の給仕



 私の努力の日々は、着々と過ぎていった。




 体力作りについては、筋トレをする事にした。腹筋、背筋、スクワット…少しずつ数を増やしていく。




 リアム様の為なら、ムキムキにだってなれる。前世で死にゆく私は、貧弱な身体で誰が見ても病人だった。それを考えると、ムキムキで健康体なんて幸せ過ぎる。なんなら、お姫様抱っこだって出来るぐらい鍛えよう! 推しを抱える私……良いじゃない!




 なんて張り切って筋トレをしていたら、メイド達がお父様や兄様達に伝えたのか、専属の先生を付けるように促してきた。


 どうやら、クロス家のムキムキ娘、妹はご法度だったらしい。




 お父様達に言われては仕方がない。私はその善意を受け入れ、マンセル塔から帰った後、先生指導の下、身体を鍛える事となった。


 ただ、やらされている事は、身体を鍛える筋トレというより、ダンスを中心とした貴族としての作法や振る舞いの授業のようだった。




(実はこっそり、部屋で筋トレもしてるけどね)




 これは、ロージーしか知らない秘密である。なんなら、ロージーも一緒に鍛えてる。




 それと、お父様に頼み込んで『乗馬』も、させてもらえる事になった。しかしお父様としては、継続出来るのかと不安があるようだった。さらに私が4歳児なので、まずはポニーから始めるように言われた。条件として、ポニーに乗って体幹を鍛え、それを1〜2年続けられれば、本格的に乗馬を習わせてくれるという。




 それは願ったり叶ったりだわ! 自分が乗馬に向いているかどうかも見極められるし、前世でやりたかった事が、今世で出来るなんてありがたい事だわ!




 そんな形で、私の生活はガラリと変わっていったのだった。






 リアム様のお世話係に任命されて、約1ヶ月経った頃。


 私は、王妃様に呼ばれ王宮へ行く事になった。お父様の馬車にご一緒させていただき、王宮へ向かった。




 いつもと違う……それが変な気分だった。毎日動きやすい作業着を着て、コソコソと教会の秘密通路から敷地内にあるマンセル塔へ向かうが、今日は髪を綺麗に結い上げ、水色のヒラヒラドレスで着飾り、堂々と王宮へ向かう。




(こうも気持ちが違うのね……)




 どうやら、いつもの作業をする生活に慣れてしまったようだ。今の服も、私らしくないと感じてしまう程、堅苦しく感じている。前までそんな感じた事は無かったのに……。


 私は、近付いてくる派手で巨大な王宮を馬車から眺める。ここからでは、マンセル塔は見えない。




(リアム様……今日も変わらず、いらっしゃるのかしら)




 今日は会えない推しの心配をしながら、王宮の門を馬車がくぐっていくのを、私はどこか悠然と見ていた。




「ルシア、大丈夫か?」


「え?」




 私は不意に声をかけられ、視線を外からお父様へと移した。お父様は、いつもの毅然とした様子だったが、私と目が合うと眉を下げる。




「第二王子が……心配か?」




 ズバリ!図星でしょう! さすがお父様……何故わかったの……?


 私が驚いていると、お父様はニコリと紳士に笑った。




「娘の事がわからない父親だと、思ったか?」


「……お父様」




 私はまたもや驚かされた。お父様がそんなこと言う方だったなんて……。前に王宮でお母様の話をしてから、お父様は少し態度が変わった。以前の威厳のある当主に追加して、どこか父親らしい顔を見せるようになっていた。


 その変化も、私にとっては嬉しかった。




「そんな事、思ってません。お父様は、いつもルシアを大切にしてくださってますもの!」




 私が笑って言うと、優しい笑みを浮かべるお父様。それを見て、私は頭を下げた。




「お父様、いつもありがとう御座います」




 顔を上げると、お父様の意表を突かれたような表情が目に飛び込む。まさかお礼を言われるとは思ってもいなかったようだ。


 すぐに表情が微笑みに変わると、「こちらこそ」と、静かにお父様は返してくれた。ちょうどその時、馬車がゆっくりと停車した。




 馬車のドアが開き、お父様が先に降りていく。それに続き、私が降りようとすると、お父様が私に手を差し出して来た。4歳児の私の背に合わせてくれるお父様。




「レディ、お手をどうぞ」


「ふふ! ありがとう御座います」




 私はその仕草に、思わず笑みを溢しながら手を取った。ゆっくりと馬車から降り、お父様を見ると、満足気な表情……。




(やっぱり、私のお父様は中身もイケメンだわ!)




 そんな事を思いながら、思わず微笑んでしまった。すると、背後から「ふふふ」と笑い声が聞こえてきた。




「!?」




 私が勢いよく振り返ると、そこには前回王妃様の下へ案内してくれた女性が立っていた。




(声が聞こえなかったら、気付かなかった……


)


 気配を消して足音も聞こえない……私の頭の中に忍び装束が思い浮かぶ。




 この人は忍者なのか? 隠密の人? そんな忍んで来なくても良いのに……。にしても、優雅に笑うのね。こうやって見ると、給仕には見えないわ。




 内心ドキドキしながらも、口元に手を当て笑う女性を見つめる。すると女性はスッと手を下ろし、微笑みながら私とお父様を交互に見た。




「羨ましい程、仲がよろしいのですね」




 女性は落ち着いた声で私達に声を掛ける。




「そう、見えましたか?」




 私が聞くと、女性はゆっくりと頷き口を開く。




「えぇ。誰が見ても、微笑ましい……親子でした」




 どこか不思議な雰囲気を醸し出す女性。その言葉の間と雰囲気の意味を探ろうとした時、女性が続けた。




「私は、ルシア様をご案内する為に参りました。ご準備が宜しければ、お連れいたしますが、宜しいでしょうか?」




 丁寧で落ち着いた言葉遣いで、私とお父様に声を掛けてくる。お父様を一瞥すると、毅然とした態度ではあるが、少し怒っているような……そんな複雑な表情を見せていた。




(この女性と、何かあるのかしら……?)




 他の人には感じ取れないであろう、父親の小さな感情に戸惑いながら、私は女性の方へと顔を向けた。




「大丈夫です。宜しくお願いします」




 私はペコリと頭を下げる。そしてお父様の方へ視線を向けた。




「お父様、ルシアはお話が終わり次第、帰りますわ。お父様は、ご公務頑張って下さいませ。またお家でお会いしましょう!」




 必殺"天使の微笑み"ならぬ、新技“天使の笑顔"をお父様へ送る。にっこりと笑って見せると、お父様は微笑んで私の頭に大きな手を乗せてきた。




「あぁ。父も早く帰るからな」


「お待ちしております」




 暫く笑い合い、私はお父様へお辞儀をすると女性の元へ歩み寄った。




「それでは、参りましょう」




 給仕の女性はそう言って、私の前を歩き出した。私はその女性の後をついていく。


 王宮の中を進んでいく間、すれ違う人々は、私を注視してくる。


 そりゃあそうだよな。4歳児が王宮に来る事もないだろうし……。だけど、私は王妃様に呼ばれたので、堂々と歩かせて頂きますわ。


 私は視線など気にせず歩みを進める。前を歩く女性は、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる。




(……気の遣える方なのね)




「あの、貴女のお名前を、お伺いしても良いですか?」




 私は、女性に声を掛けてみる。これからもこうやって会う事があるかもしれない。名前ぐらいは覚えておいても良いかも……。そんな気持ちで名前を聞いてみた。


 女性は一瞬目を見開くと、ゆっくりと立ち止まり、私の方へ身体を向けた。




「名乗りもせず、ご案内してしまったご無礼をお許しください」


「え?」




 私は、目の前の女性が突然謝ってきた事に驚いてしまった。慌てて口を開き、弁解する。




「い、いえ! 私の方こそ、突然ごめんなさい! これからもお会いするかもしれないので、お名前ぐらい知っておきたいと、軽い気持ちで聞いてしまって……!」




 先程まで胸を張って歩いていた私は、打って変わって焦り倒した。女性は面食らったという顔を見せた。




「そ、そうだったのですね……」




 どうやら女性に私の意思が伝わったようで、女性は再び頭を下げてきた。




「そこまで考えが及ばず、大変軽率でした。むしろ、寛大なお心に敬服致します」


「いや……言い過ぎですよ」




 敬服なんてされる程の事を言ったつもりはないんだけど!? と内心叫びそうになり、かなり冷静な言い方になってしまった私。


 すると、女性は目を輝かせながら首を横に振ってくる。




「とんでもない! こんな給仕の名前を覚えて下さろうとするなんて、有難いことです」




(そ、そういうものなのかしら?)




 私はいまいち分からず、首を傾げでしまった。それを見て、女性は「ふふ」と笑い、お辞儀をしてきた。




「私の名前は、デミと申します。以後お見知り置きを……ルシア様」




 デミさん……。なんだか優しそうな名前だわ。名前を知れただけで、少しこの女性と近くなった気がする。


 私は、同じようにお辞儀をした。




「こちらこそ宜しくお願いします、デミさん」




 私が"天使の微笑み"を炸裂させると、デミさんはふと寂しそうな表情を露わにした。




「デ、デミさん?」




 て、天使の微笑みが、効かなかったの!? デミさんには逆効果だったのかしら? 私は初めての事で戸惑ってしまう。


 するとデミさんは、ハッと我に返ると、気まずそうに笑みを見せた。




「すいません……こんな私に対して、ルシア様のように接してくれた方を、思い出しておりました」




 デミさんはそういうと、立ち止まっていた場所の近くにある扉の前に立ち、ドアノブに手を掛けた。




「ルシア様、またお目に掛かりましょう」




 そう言って、私にニコリと綺麗な笑みを見せたデミさん。ゆっくりと扉を開くと私は中へと通される。




 閉められていく扉の向こうのデミさんは、どこか名残惜しそうな表情を浮かべていた。




(デミさん……一体、何者なんだろうか……)




 私の直感が、なぜかそう思わせたのだった。




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