第11話:推しとご対面…!
私達は塔のてっぺんにたどり着いた。それは、もう……壮絶だった。この塔、どんだけ高いの!? どんだけ階段あるのぉおーー!?
(心の準備って、この事だったのね……っ)
どのくらい時間がかかったか分からないが、今は、てっぺんで息を整えている所だ。4歳児には、なかなか厳しい道のり。ロージーも、顔が青ざめている。……大丈夫かしら?
ラルフさんはというと、全く息が乱れていない!! 凄すぎる……! それだけで尊敬出来るわ!!
私が脳内でラルフさんをベタ褒めしている間、ラルフさんは私に水をくれたり、ロージーの背中をさすったりと気を遣ってくれていた。優しいクマさん……!
ここに到着する間、ラルフさんは色々と話してくれた。ちなみに、私達は登るのに必死だったので、ラルフさんの独り言を聞いていたような感じだ。
この塔の看守は、全員で4人いる。ハンス、ラルフさんは日中の番で、夜の番をアレントさん、エーヴェルさんという男性2人が見ているらしい。皆、ギルドの募集を見て集まったハンターらしいので、腕っぷしには自信があるようだ。聞くところによると、この中で、ハンスが1番若く、剣術と魔術共に優っているという……疑わしい……。
それと、リアム様の食事が運ばれる時に、看守達の食事も届くのだという。塔の前で、看守が受け取る規定になっているそうだ。その時だけは、給仕やメイドが来るそうなので、気を付けろ、との事。
その食事だが、最初は高級なコース料理のプレートだったらしいが、リアム様が食べていない事を知り、だんだんと簡素な食事になっていったという……。更に、リアム様の痣が悪化していった事により、ほとんどの人が、この塔を訪れなくなったと言うのだ。塔の入り口まで来ては、『リアム様の容態はどうだ?』と、看守達に聞くだけらしい。
なんて奴らだ!! リアム様の痣は、人に移るものでもない……ましてや、ドラゴンである証のようなものなのに……ッ!!
リアム様の境遇に、私は腹が立って仕方なかった。途中からはその勢いで、この塔の階段を登ってきたようなものなのだが……。
ちなみに、ラルフさん達も食事を運ぶ時以外、リアム様のいる目の前の扉を開ける事はないらしい。たまに、呻き声がして中に入る事はあるが、それも最近はほとんどないと言う。
「2人共、大丈夫か……?」
ラルフさんの声が上から降ってくる。見上げると、ラルフさんは、この最上階で唯一ある部屋の扉の取手に手を掛けていた。
(いよいよ、ね)
私は意を決してゆっくりと立ち上がり、ラルフさんに頷いて見せた。その時のラルフさんは、一瞬驚いたように目を見開いた。
何かしら? 何か私の顔についてる??
私が首を傾げて見せた時、ロージーが立ち上がる。
「大丈夫です。お嬢様、いよいよですね」
意気込むように、ロージーがゴクリと喉を鳴らした。私達の様子を見て、ラルフさんが扉を開いた。
リアム様と、ご対面……ッ!!!
中に入って行くラルフさんの後に、ゆっくりとついて行く。部屋は思いの外広めで、天井も3m程ある空間が広がっていた。床、壁そして天井は、変わらず全て石で出来ており、冷たさを感じる。下の部屋のように、ここも埃まみれだ。
ただ違うのは、部屋を真ん中で区切るように、鉄格子が立ち並んでいる事。それは、見た通りの牢屋だった。私の胸がズキリと痛む。
手前の半分のスペースには、王妃様が早速設置してくださった台所と、魔道具冷蔵庫が設置してあった。だが、私の脳内はそれどころではない。
こんな所に、推しが居るの……? 小説や漫画での描写とは違う……。ここまで酷い環境じゃなかった気がする。
想像を遥かに超える様子に唖然としながら、魔法で完備されている(ここは小説と一緒)お風呂やトイレの個室を見つける。
そして、その隅っこで、うごめく黒い影を捉え、さらに私は言葉を失った。
「!?」
痩せ細った身体を抱きかかえるように、身を縮こませるリアム様の…推しの姿が、そこにあった。
(嘘でしょ……こんなに弱々しい姿……ッ)
漫画のような神々しい姿など、微塵もない。身体だけでなく頬も痩せこけ、虚ろな目でジッと一点を見つめている。常にブツブツと何かを話しているが、ここからでは全く聞き取れない。
さらに言えば、見える素肌にみっちりと黒い痣が描かれており、その文字のような痣は、常にリアム様の身体を這うように蠢いている。
蠢く痣からは、シュルシュルと何かが擦れるような幻聴が聞こえてきそうだ。びっしりと肌を埋め尽くす黒い呪文。それが生き物のようにリアム様の首筋を這い上がろうとするたびに、私は吐き気にも似た拒絶反応に襲われた。
……怖い。
4歳児の身体が、恐怖でガタガタと震え出すのを止められなかった。
「ラルフさん……あちらにいらっしゃるのが……」
「リアム王子、だ」
ラルフさんは、当たり前のように答える。普段通り……と言う事なのだろう。表情一つ変えない。
ロージーは、恐ろしいものを見る目でリアム様を見つめ、すぐに視線を逸らしていた。
(この様子だと、推しを更生させるのは、甘いもんじゃないわね……)
そう思ったのも束の間、私はギュッと拳を握りしめていた。
というか、こんなボロボロの姿を見て、誰も助けたいと思わないの……!? 服すら着替えてない程汚れ切って……これじゃあ、まるでホームレスじゃない!! 国王は一体、何をしているのかしら!!?
私は憤りを感じ、身体が震えた。それと同時に涙が込み上げてくる。
小説では、リアム様は10年程この状態だった。1年目で感情が壊れ、2年目で眠れなくなり、食事も出来なくなる。3、4年目で感情が無くなり、5年目に気力すら喪失。6年経ち思考力、判断力に異常が起き、7年目からは、国への憎悪を抱くようになる……。そして、この国を滅ぼそうと動き出すのだ。
(そうしたのは、間違いなく……この国の人達だ。推しの…リアム様のせいじゃない……ッ)
小説のような国の結末は、なるべくしてなったのだと、今の状況を見て悟った。
「お、お嬢様!? な、泣いていらっしゃるのですか!?」
「……泣くな、お嬢さん」
私を見て驚くロージーと、無表情だが何となく雰囲気で焦りを見せている様子のラルフさんが、私の周りであたふたしている。
(涙が……)
私は、なぜか止まらない涙を必死に拭いながら、ラルフさんへ視線を向けた。
「ラルフさん、檻の中に入りたいのですが、よろしいですか?」
「……え」
「お嬢様!?」
私の言葉に、2人は目を丸くする。私は有無を言わせないと言う気迫で、ラルフさんを見つめた。
「わ、わかった」
ラルフさんはすぐに頷き、牢屋にある小さな扉の鍵を取り出してくれた。
「ちょ、ちょっと……ッ、そんな!」
ロージーが慌てて止めようとする。それを私が、手を伸ばし阻止した。
「ロージー、お願い。今は、そのまま見てて?」
出来るだけ笑顔を作り、ロージーを安心させる。しかし、その笑みが不自然だったのか、ロージーは顔を歪ませていた。
その時。
ーーガチャン!
鍵の開く音がした。ロージーが言い返してこない事はわかっている。きっと、納得いっていないけれど、主人の言う事を受け止めようとしてくれているのだ。ロージーは、いつもそうやって、見守ってくれていた。
「ロージー、待ってて。行ってくるわ」
「……はい。お嬢様……お気を付けてくださいね」
ロージーは心配そうな表情で、祈るように頷く。私は「えぇ」と笑って牢屋の方へと足を進めた。
「気を付けろ……何が起こるか、わからない」
ラルフさんが檻の扉を開きながら、私に気遣いの言葉を掛けてくれた。軽く会釈しながらお礼を言うと、私は冷たい鉄格子に触れる。
牢屋の扉をくぐり、ゆっくりとリアム様の前に近付く。リアム様はと言うと、私には全く目もくれない。ただひたすら一点を見つめ、何かを呟くばかりだった。
(……ビビるな莉奈。あんたは推しを助ける為に、ここまできたんでしょ!)
私だけでも、彼の味方でいなきゃ……ッ!
彼のことを信じてあげなきゃ!! 闇堕ちなんて、させない……絶対に!!
私は強く心に言い聞かせ、しゃがみ込む。
一度、小さく深呼吸をして、私は真っ直ぐリアム様を見つめた。
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