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第10話:2人の看守



 声を掛けた私は息を飲む。




 王妃様が裏切るなんてあり得ない。あんなにリアム様のことを思っている母親が、あっさり嘘でしたー、なんて言うわけがない!




 睨むようにうごめく影を見ていると、上から何かが降ろされた。これは……。




「縄梯子?」


「じょーちゃん達、それで上がってきな」




 少し若そうな男性の声が、上から降ってきた。すると、ロージーが光に向かって叫ぶ。




「じょーちゃんとは失礼な! こちらいらっしゃるのは、クロス伯爵家のお嬢様ですよ!!」


「ロージー!」




 私は思わず、ロージーを静止した。怪しい相手に名前を言ったら何があるかわからない。しかし、すでに名前を言ってしまった為、止めるのが遅かった。




 影は一瞬怯んだのか沈黙していた。だが、すぐに笑い声が聞こえてくる。




「俺達は自由民だ! 地位だとか権威だとか、知ったこっちゃないね!」




 影の1人、笑う男は、「早く上がれ」と指示してくる。




(……悪い人では、ないのかしら?)




 私はそう疑いながらも、行くしかないと、縄梯子に手を掛けた。




「お嬢様!?」




 ロージーの焦る声が聞こえたが、私は意を決して梯子へ足を掛ける。上へと登っていく間、下ではロージーがオロオロと心配気に見守っている。




 光と2つの影が近付いてくる。私の鼓動はだんだんと速度を上げて胸を打ちつけた。


 入り口にたどり着き、光を浴びて瞬時に目を閉じる。すぐに慣れた目に飛び込んできたのは、カビや埃まみれの石造りの個室だった。




 き、汚ッ!!!?




 私がこの環境に呆然としていると、急に身体が浮き上がった。




「!?」




 驚いてみると、屈強な体の男に抱きかかえられている。私が緊張している中、その男は無表情のまま、濃い緑の瞳でジッと私を見てくる。


 茶髪で短髪の屈強な男の横には、ニヤニヤと笑う若い男が、同じように私を見ていた。




「お前が、お妃さんの言っていた娘か! マジで4歳児だったんだな! なぁ、ラルフ!」


「……」




 な、なんなのこの人達……! 失礼にも程があるわ! って言うか、早く下ろして!!




 私は、イタズラそうに笑う金髪で赤目の男と、ラルフと呼ばれた私を抱き上げる男を睨むように見る。この人達が、この塔の看守……。




 ラルフと呼ばれた男はよく分からないが、金髪の方は、明らかにこちらを歓迎していない、不躾な視線を向けている。




(ラルフとやらも何を考えているか分からないし……なんだか、先が思いやられそうね)




 私がため息を吐くと、ラルフさんが私を地面にゆっくりと降ろしてきた。その手つきは、とても優しく、敵意を感じる事はなかった。


 あ、一応年上なので"さん"付けで呼ぼうと思います。その方がしっくりくる……って言うのは、日本人だからかしら。


 そう思いながら入り口の方を見ると、ロージーが上がってきており、金髪の男に手を引っ張られている。すると、ロージーが顔を歪めた。




「い、痛いです! もう少し優しく……!」


「はぁ!? 手伝ってやってんだから、我が儘言ってんじゃねぇよ!」




 金髪男が声を荒げ、ロージーはビクッと肩を震わせた。




「ちょっと、貴方……!!」




 私が金髪男に文句を言おうと口を開いた時、ラルフさんが、金髪男の肩に手を置いた。




(え?)


「ハンス……代わる……」




 ハンスと呼ばれた金髪男は、「はぁ?」とラルフさんを見上げた。ラルフさんはロージーの脇に手を素早く入れ込むと、グイッと一気に持ち上げる。ロージーは呆気に取られつつ、すぐに地面に立たされた。




「あ、ありがとう、ございます」




 ロージーがぎこちなく頭を下げると、ラルフさんは瞼を開閉するだけで、何も言わなかった。




 ふむ……ラルフさんは、力持ちで優しいクマさんタイプ……ハンスの野郎は、力のない軟弱カモシカ男ね。手足も細いし、口だけなんだわ。先程は年上がどうのこうの言ったが、ハンスはハンスで良いだろう。35歳の私の方が年上っぽいし……。もちろん、口に出す時は"さん"付けするけどね。




 そんな事を思っていると、早速カモシカ男が口を開いてくる。




「お前らが何をやろうと、第二王子は、病みきってる。この状況が変わるとは思わねーが、とりあえず、俺達に迷惑だけはかけてくれるなよ」




 嫌味な顔で言ってくれる……! なかなかのイケメンなのに、なんて勿体無い……。リアム様だけじゃなくて、お前も更生してやろうか??


 私がそんな事を思っていると、ロージーが怒りに震えながら私の前に出る。




「なんて事言うんですか……! お嬢様のお気持ちも知らずに……!!」




 ロージーが強い口調でハンスにズイッと近付く。ハンスはそれに驚いたのか、一瞬怯んだように見えた。しかし、すぐにニヤリと笑みを浮かべる。




「お妃さんからの報酬がたんまり貰えたから、お前らをここに入れてるだけだ。別にお前らの気持ちなんか、興味ねぇんだよ」




 あっかんべーと、舌を出してくるハンス。私も、一言言ってやらないと気が済まぬ。




「王妃様から報酬を貰っているのであれば、協力していただくのも、仕事なのではないですか? ハンスさん」


「あぁ? なんだよ、チビっ子」




 ち、チビっ子……ッ。いやいや、落ち着け。確かに私は、チビっ子4歳児だわ。ロージーが今にもハンスに襲い掛かりそうなので、私は急いで続けた。




「それなりに報酬を頂いているのなら、塔に受け入れて頂くだけでなく、リアム様への対応や状況報告、情報交換も仕事の範囲内だと思うのですが、いかがでしょう」


「チビのくせに、生意気だな」




 ハンスが.私に敵意の眼差しを向けてくる。だが、それをラルフさんがすぐに止めてくれた。




「確かに……彼女の話も……一理ある」


「ラルフ……お前……」




 呆れたような表情をラルフさんへと向けるハンス。その意味はわからないけれど……。




「ふふ! ラルフさんは、飲み込みが早いお方で助かります」




 とにかく、ラルフさんは話も分かる味方のようだ。私は思わず笑い、2人を見つめた。




「チビ、てめぇ!」


「それと、自己紹介が遅れましたわ。(わたくし)は、ルシア・クロスと申します。ルシアという名前がありますので、以後、『チビ』などと呼ばないよう、ご容赦くださいませ。ハンスさん」




 私はハンスが噛み付いてくる前に、先手を打った。最後にスカートの裾を持ち、軽く会釈して見せる。


 必殺『天使の微笑み』会釈バージョン!


 予想通り、ハンスはグッとその場に立ち止まり、顔を歪めている。悔しそうな表情だ事。




 ラルフさんは私をジッと見つめ、ロージーは勝ち誇ったように胸を張っている。ひとまず、ここは置いておいて、リアム様に会いに行かなきゃ!




「早速なのですが、リアム王子の様子を見たいので、案内して頂いても宜しいですか?」




 私が営業スマイルでお願いすると、ハンスはフンっとそっぽを向いた。




「勝手に行きゃ良いだろう? かわいそーな王子様は、この塔のてっぺんにいる。その扉を出て……って、ラルフ!! 勝手に案内してんじゃねぇ!」




 ハンスの事は気にせず、ラルフさんが「こっちだ」と指を指しながら、案内を始めていた。




「彼女達、ここ初めて……案内してくる」




 この状況、面白過ぎない……? ハンスの顔が怒りなのか、恥ずかしいからなのか、どんどん赤くなっていく。意外と可愛い人なのかもしれない……と、私のオタクセンサーが言っている。




「チッ!! 好きにしろ! 俺は下を見張ってるからな!」


「あぁ……」




 ラルフさんには心を許しているのだろうか、ハンスはラルフさんに突っかかる事なく、先に部屋を出て行った。




「じゃあ、案内する……」


「宜しくお願いしますわ、ラルフさん」




 私がニコリと笑って見せると、ラルフさんがホワっとした……気がした。


 え、今のなに? もしかしてロリコン……いやいや、私の天使の微笑みがクリティカルヒットしただけよね!?




 私が疑問に思っていると、ラルフさんは部屋を出て行く。私とロージーがついて行くと、ラルフさんが扉を開けたすぐの所で止まっていた。扉の外も、先程の部屋と同じような石造りの床、壁が続いており、人2人が横並びになれる程しかない廊下となっていた。




 そして、ラルフさんの目の前には階段がある。階段は螺旋状に上へと続いているようだ。


 私が観察していると、ラルフさんが振り返りながら口を開いた。




「心の準備……良いか?」


「……こ、心の、準備?」




 私は思わず聞き返す。ロージーも、ラルフさんの言葉に戸惑っている様子だった。




「……行くぞ」


「え、えぇ……」




 ラルフさんが階段を登り始める。私とロージーはお互いに顔を見合わせた。




 何の心の準備なのか分からない。けれど、立ち止まってもいられないわ……!


 推しリアム様! もう少しでお会い出来ますわ。待っていてください!!




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