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程なくして学校に着く。校門を通って校舎に入る辺りで、ショウイチに声をかける者がいた。
「おう。ちょっと来いや」
先程絡んできた生徒達と同じ顔ぶれ。渡部に受けた注意が効いてないのか、或いは逆効果だったのか。その顔にはわざとらしい怒りが見える。
部活の練習とやらは、きっとすっぽかしたのだろう。
連れて行かれればどういう目に遭うかはわかっている。従う必要はない。だが、今までのショウイチは何も言わずに従ってきた。
それは覚えている。何をされたか全て。
穏便に済ませる、か。
果たして、一切抵抗せずに従うことが穏便なのかはわからないが、きっとそうなのだろう。
胸に巣食うドス黒い激情は昨日の今日まで持ち得なかったもので、それに身を任せればどうなるかは目に見えている。
「うん」
小さく頷いて、ショウイチは生徒達の後に着いていった。
体育館の裏にある薄暗い部室棟。トンネルのようになっているそこには汗と何かの臭いが充満して、人は滅多に寄り付かない。
生徒のプライバシーを重んじるという名目のもと、運動部の顧問もあまり顔を出さないある種の無法地帯となっていた。
その奥から物音が聞こえて、生徒達は顔を歪ませる。
「あ? めんどくせぇ誰か居やがるな」
「マジ?」
空気を切り裂くような鋭い音と、靴が地面を叩き、擦るような音がリズミカルに響く。
見ると、成堂が奥でシャドーボクシングをしていた。生徒達の気配に気づいたのか、拳を下げて視線を向けてくる。
「あー、ちょっと今から使いてぇんだけど、良いかな」
にこやかな問いかけに、成堂は首だけで視点をズラした。生徒達の奥にショウイチの姿を認めて、近くに投げていた鞄を拾う。
「好きにしろよ」
「あんがと」
すれ違いざまにショウイチを睨みつけて成堂は去っていった。
この学校にボクシングやそれに準ずる部活はない。トレーニングをするのであれば、こういった場所を選ぶしかないのだろう。
「さて、おい」
生徒達はショウイチを奥の壁に投げつけ、逃げ場を塞ぐように取り囲んだ。
今朝とは違う。救いの手が来ることはないだろう。
仮に運動部の生徒が来たとしても、わざわざ声をかけることすらしない。ショウイチのような、彼らのような、落ちこぼれには。
「なんか今日のお前、腹立つんだよなぁ」
「調子乗ってるよね」
これは暴力の前振り。
暴力を振るう自分たちが悪いのではなく、振るわせるお前が悪いのだと、何の意味もない免罪符を手に入れるための。
「なんとか言えよ!」
よほど鬱憤が溜まっていたのだろう。拳が振り下ろされるまで、今度は早かった。
顔を避け、小指が肩を叩く。バランスが崩れたところに足を払われ、転んだ。
「イキってんじゃねぇぞ!」
「何様だテメェ!」
あとはもう、穏便に殴られるだけだった。
やがて運動部員達の話し声が聞こえ始めて、舌打ちをしてから生徒達は去っていく。まだ自分たちの居場所に執着しているのか、チームメイトに見られるのはバツが悪いのだろう。
ぐちゃぐちゃに踏まれた鞄と制服の汚れを払い、ショウイチは教室に向かった。




