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音の爆発にハチュウ人達が怯む。その隙を突くように、リザードマンはヘビ男へと飛び込んだ。
首を狙って奔る右腕の刃。長い首を器用に捻じ曲げ、男はその一撃を躱す。
勢いを殺さず、リザードマンは男の脇を駆け抜けた。そのまま数歩進んで、土をめくりあげながら足を止める。
速い。反応することすら精一杯な程に。
包囲網は容易く突破された。このままリザードマンが逃げようとすれば、誰も追いつくことなどできないだろう。
だが、その瞳から感じる濃密な殺気から、決してそうならないのだとわかる。
ここで殺される。全員。
「ブッ……!」
脳裏をよぎった最悪の結末を掻き消そうと、ヘビのハチュウ人が声を上げようとして、できなかった。
出てきたのは不様な音と汚い血の泡。見やれば、骨に至るほど深く、腹が斬られている。
あの、すれ違った時か。
首に向かった一撃を躱し、体勢が崩れたその瞬間。リザードマンは体を捻り、左の刃を振り抜いていた。
反応すらできないとはな。
長身がぐらりと揺れ、地面に倒れる。リーダーがやられた事で、ハチュウ人達の顔には明確な恐怖が浮かび始めた。
「ゲッ……ゲッ……」
その姿を嘲笑っているのか。
リザードマンはべろりと、左の逆鱗に着いた血を舐めとった。
「ワアあああああ!!」
精一杯叫びながら、ハチュウ人の一人がリザードマンに背を向けた。
これ以上ないほどわかりやすく、戦闘を放棄して逃げ出そうとする構え。ただ逃げるだけならば、声など出さなくて良かったはず。
あるいは、囮になろうとしていたのかもしれない。自分の仲間を生かすために。
「アっ」
その勇気ある行為は、二歩目を踏み出す前に終わった。
首が飛ぶ。
「う、おオ、オオオオオ!!」
すぐそばで、気づかぬうちに、仲間が死んだ。
次はオレか?
近くにいたハチュウ人が、リザードマンに向かって武器を振り下ろす。その動きは怒りよりも恐れに歪んでいた。
向かってくる腕を逆鱗で刺し、空いた腕で肩を掴む。
聞くに耐えない音を立てて、鎖骨が砕けた。
「ぐあッ!」
あまりの痛みにハチュウ人はギュッと目をつぶる。手を離れた武器が地面に落ちた。
目を開けると、そこには、バックリと口を開けたリザードマンがいる。
「あ、ア」
首筋に噛みついた。
「アアああああああああああアアあアアア!!」
牙が肉を突き破り、ゴリゴリと骨をしゃぶる感覚。チリチリと神経を撫でるような痛みは、そこに脊髄があるからだろうか。
ハチュウ人はもう泣き叫ぶことしかできない。
「や、ヤベぇ」
「ニゲるぞ!!」
2人目が襲われた所でようやく、他のハチュウ人達が動き始める。統率の取れてない動き。後先を考えず、それぞれが思うまま、散り散りになって走り出した。
ただ死にたくないという一心で。
それに気づいたリザードマンが、口元の骨を噛み砕いた。うるさい叫びがようやく止まる。
逆鱗に刺さった死体を投げ捨て、地面を蹴った。
「ゲハハハ」
蹂躙だった。
森の至るところで順番に悲鳴が上がる。また一人、また一人とハチュウ人は喰われ、殺されていった。
「やッ」
やめてくれ、とでも言いたかったのだろうか。声を発そうとしたその瞬間、口を開けたままの表情で、最後の首が落ちた。
気づけば元の洞穴の前に戻っている。リザードマンがそう仕向けたのだろうか、結局彼らの必死の逃走劇は、ただ数分そこら自分の寿命を伸ばしただけだった。
「グルル……」
唸りながら、リザードマンはきょろきょろと首を回す。そして、もう敵はいないとわかったのか、残念そうに肩を落とした。
腕の逆鱗が小さくなり、ベリベリと全身の鱗が剥がれていく。
全ての鱗が落ちて、ショウイチの姿に戻った。
「僕は……」
ゆっくりと周りを見て、そして最後に自分の体に目を向ける。鱗に着いていた返り血は全て落ちているが、服は破れて無くなっている。
胸を見ると、まるで体に馴染みきったかのように傷口の鱗は消えていた。今は鈍色の鱗が一枚、胸の中央にあるだけだ。
「面倒だなぁ」
すんすんと手の臭いを嗅ぐ。血の臭いは手に染み付いたものか、それともこの洞穴に染み付いたものか。
「帰らないと」
淡々と鞄を広い、ショウイチはその場を後にした。
森を抜け、光の差さない道を選んで歩く。
普段、ショウイチは少しでも街明かりのある場所を選んで歩いていた。暗闇のどこかから、得体のしれない化物が飛び出してくる気がして。
そういう漠然とした恐怖感はもうどこかに行ってしまった。
誰ともすれ違うことなく家に着き、そのままシャワーを浴びる。肌を擦ると、剥がれきっていなかった鱗の一枚が排水口に吸い込まれていった。
石鹸を水で流してから、腕の臭いを嗅ぐ。異臭はしない。
風呂場を出て、服を着る。体が大きくなったのだろうか、肌着が少し窮屈に感じた。
適当な食材を胃に流し込んで、そのまま布団の中に潜った。
昨日までは楽しんでいた、生きるための作業。
心が死んでいることに気づけないまま、ショウイチは瞳を閉じた。




