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なんだろう、この感じ。
ショウイチはいつもとは違う森の雰囲気を感じ取っていた。
その違和感は、いつもの洞穴に近づくほど強くなっていく。
胸に抱えたカバンをギュッと握り締め、しかしショウイチは一歩ずつ足を進めていく。
じわじわと、違和感が確信に変わるように、五感が何かを訴え始めた。
木々のざわめきに混じる異音。
鼻につく、嗅ぎ慣れない臭い。
肌を刺す、張り詰めた空気。
不安になって首を巡らせると、ショウイチはフラフラと歩く影を遠くに見つけた。
腰の後ろから伸びる尾と、頭から生える2本のツノは見覚えがある。
「歩けるようになったんだ……!」
頬を緩ませて、ショウイチは影に向かって走り出した。
覚束ない足取りながら、木々の間をすり抜けていく。影の姿が段々と明瞭になってきて、ショウイチはその背中に声をかけようと息を吸い込んだ。
「あっ、む、ぐっ」
その息が音になって吐き出される前に、何者かが背中から飛びかかってくる。咄嗟に口を押さえられ、ショウイチは正面に倒れ込んだ。
口に当てられた手に人らしい温もりはなく、じっとりとした冷たさを宿している。鋭い爪が頬に刺さって、血の玉を浮かばせた。
アギトさんじゃない? 別のハチュウ人……!?
ショウイチは目を白黒させる。カバンを抱えたまま倒れてしまったため、全く身動きが取れない。
確か、ハチュウ人は人間を喰うのであったか。たった一人の友人のセリフを思い出し、思わずギュッと目を瞑った。
「安心しろ。俺だ。アギトだ」
耳元で囁かれる声は、確かに聞き覚えのあるものだった。拘束が緩くなる。振り向けば、確かに見慣れた顔がそこにあった。
「……どうしたんですか?」
ただならぬ様子を感じて、ショウイチは声を抑えながら問う。
「今は説明できない。ここは危険だ、急いで離れなくては」
アギトが軽く体を起こす。ツンとした臭いに思わずショウイチは顔を顰めた。
よく見れば、全身の鱗を染めるかのように、その体には血がついている。
ショウイチが目を見開いて固まっていると、その視界の奥に、新たなハチュウ人が現れた。
「ソコにイたカ! チョロチョロと逃げマワりやがっテ」
首の長い、まるでコブラのような頭をしたハチュウ人が、チロチロと舌を出しながら2人を見下ろす。
所々発音の狂った言葉からは、おおよそ理性的で友好的な様子は感じられない。
「フハ、よく見りゃあ人ゲンのガキを連れてるじゃねぇか。どこでヒロって来たんダ? サル好きもここまで来るとオッかないなァ!」
大袈裟に喋る様子は、どうやら仲間が来るのを待っているらしかった。
アギトはゆっくりと立ち上がり、ショウイチに背中を向ける。
そこにはバックリと、大きな切り傷が入っていた。ダラダラと流れる血から、つい先ほどできた傷だとわかる。
「逃げろ」
「で、でも」
「逃げるんだ!」
初めて聞くアギトの怒号に、思わずショウイチは立ち上がった。
その姿勢で固まっていると、血塗れの手に肩を押される。倒れ込むのを堪えようとした足がそのまま一歩めになって、ショウイチは駆け出した。
「ニがすカ!」
首の長いハチュウ人が吠え、その腕が鋭く伸びる。ショウイチの背に喰らい付かんとするそれを、刃が一閃斬り落とした。
「ギッ!?」
伸びていた腕がすぐに元の長さに戻る。
振り上げた姿勢で固まるアギトの腕からは、鋭く伸びた逆鱗が3枚、ポタポタと血を滴らせていた。
「はァ、本キでサル畜ショウを守ろうってんだナ。笑えルぜ」
「貴様らのように、気に食わん者は殺すというほど、愚かではないからな」
未だビタビタと動き回る切り落とされた腕を踏み潰し、アギトは毅然と答える。
「そのキに食わねぇ余ユウが、いつまでもツヅくとイイがなァ」
腕の傷口を長い舌がべろりと舐める。すると、ボコボコと肉が膨らんで新たな腕に生え変わった。
ニヤニヤとした笑み答えるように、アギトの周りをハチュウ人が取り囲んでいく。
「束にならないと戦うことさえできないか」
もう片方の腕からも逆鱗を生やし、アギトは拳を構えた。




