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渡部が自分を気にかけてくれたからだとか、気持ちを踏みにじったからだとか、そういう怒りではない。
ショウイチからみて成堂は、全てが上手く行ってるように思えた。だからこんな、自分の手で全てを壊してしまうような行いが許せない。
いや、もしかすれば羨ましいのかもしれない。最低の日々と言えるほどに追い詰められながら、ついぞショウイチはその毎日を破壊することができなかった。
それを成堂のような立場の人間が進んでやってのける。
言い換えれば、嫉妬と言えるのかもしれない。
「許さなイ!!」
人間としての醜い激情が、かろうじて人としての理性を繋ぎ止めた。
生え揃う鱗。逆立つ毛。床を打つ尾。引き掴む鉤爪。総身が異形、リザードマンへと変わる。
成堂が拳を上げ、ファイティングポーズを取った。
「来い」
応えて、リザードマンが地面を蹴った。
瞬間。鈍い音。距離が縮まりきるその前に、成堂が右脚で顎を蹴り上げた。
リザードマンの体が沈む。
「ガああア!!」
倒れるその前にリザードマンは更に深く踏み込み、腕を振り上げた。
大振りな構えの隙に、成堂は鋭いボディブローを放つ。ベキベキと拳がめり込み、肺から空気を押し出した。
「ゲっヒャアああ!!」
一瞬怯んだものの、構わずリザードマンは腕を振り下ろす。体を入れ込むようにその手が取られ、投げられた。
背中が壁に叩きつけられて、濁った呻きが漏れる。
流れるような打撃と投げのコンビネーション。冷めた頭が違和感を覚えさせる。
「ボクシングじゃ、ナい?」
「……グローブがあると殺せないからな。それに、ただ腕を振るだけじゃ勝てない相手も居る」
ちゃんとした言葉を投げられて、成堂は軽く構えを下げた。
リザードマンはゆっくりと立ち上がって、そして、構えを取るのをやめた。
「オレ達が戦う理由は無い」
「良いのか? そこに転がってる奴らの仇を取らなくても」
「君が殺したんじゃないんだろ?」
「それは、そうだが」
「君を殺しても渡部さんは生き返らない。不毛なだけだ」
「俺を許さないんじゃなかったのか?」
「僕はハチュウ人を何人か殺してる。許されないのは一緒だ」
そこまで言って、リザードマンは何かを思い出したかのように成堂を睨んだ。
「それに、君より先に殺さなきゃならない奴らがいる。君がその仲間だっていうなら、ここで殺していくけど」
「奴らってのはハチュウ人の事か?」
瞳は相手を捉えたまま、首だけが頷く。
「俺は違う。むしろ今から奴らを倒すために、そこのを喰ってた訳だしな」
「……ならいいよ」
満足したのか、リザードマンはスタスタと歩き始める。成堂の隣を通り過ぎようとして、その肩を掴まれた。
「おいおい、いきなりだな。俺を置いていくなよ」
「一緒に戦うの?」
「まぁそうするつもりだが、面白いな。不安定だとは思っていたが、ここまでいきなり変わるとは。どうなんだ? ハチュウ人の」
成堂の言葉は、勢い良く扉が開け放たれる音で遮られた。
少し小柄なハチュウ人が、目を輝かせて立っている。
「こコに居」
外に向かって放たれた言葉が終わる前に、リザードマンがそれを黙らせた。腕の刃に両断された体が左右に倒れる。
成堂が楽しそうに声を漏らし、拍手した。
「向こうから来てくれるってのは、楽でいいよな」
「おかしな真似をしたら、君も殺すよ」
教室から出て廊下を見回すと、2人を挟み込むようにハチュウ人が駆け寄っている。
成堂とリザードマンは背中合わせで構えた。




