表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/330

白昼夢

「ほーれぷっかぷっか」


 城中庭にあった、水の枯れた噴水に水を引いて、そこに大量のクラーケンを飼うことにした。

 意外とこの愛くるしいゼリーみたいなイカちゃんは誰にでも人気なようで、オリオンですら可愛がっている。


「ほーれぷっかぷっか」


 噴水でクラーケンを突っついているオリオンに俺は声をかける。


「意外だな。お前ならイカ焼き来たー! とか言って全部食っちまうかと思った」

「咲、あたしをバーバリアンかオークと勘違いしてない?」

「違うのか?」


 ミスリル製のバックラーが頭にヒットして、俺の顔面は地面にめりこんだ。


「いってぇ、やりすぎだろ」

「むしろ命があっただけありがたいと思って」

「俺の命軽すぎない?」

「ほーれぷっかぷっか」


 またオリオンがクラーケンを突いて遊びだす。

 その中で一匹、頭の石が金色のクラーケンが噴水を這い上がってくる。


「ほーれ危ないぞぉ」


 オリオンが掴んで噴水に戻そうとする。


「あっ、やばい」


 ブビーとイカスミをはいて、オリオンの顔は真っ黒になった。


「イカ焼きぃ!」

「よせ、やめろ! そいつはなんか特別気難しいんだよ!」


 俺はオリオンをはがいじめにしながら顔を拭く。

 この前ソフィーがエリザベスと勝手に名付けたクラーケンである。

 しばらくして大人しくなったので放してやる。


「なにこいつオスなの? メスは石が赤なんでしょ?」

「いやメスだ。オスの色は青らしい。こいつはなんか特異体らしくて金色をしている」

「ふーん……」


 俺が噴水に腰かけると、エリザベスはぴょんぴょんと飛び跳ね俺の顔にはりついた。


「キュイー」

「とれねぇ」

「なにこれ殺そうとしてるの?」

「そう見えるが、一応求愛行動らしい」

「咲、変なのばっかに好かれる」

「ソフィーにも同じこと言われた」


 二人でバカなことをやっていると、セバスがいつのまにやら目の前に立っていた。


「主様、お話が」

「ん、どうしたの? てかディーは?」

「ディー様はアデラ様と共に同盟軍との会談と、領地の視察でしばらく出られています。羊毛の加工や小麦をライン工場化できないかと言っていました」

「そういや、俺が言ったんだった。生産率上げるのに工場化したらって。さすがディー動きが早い」


 すっかり忘れていた。ってことはしばらく帰ってこないんじゃないか。


「戻しますが、カチャノフ氏からコンテストの招待状が来ています」

「そっか、日付とかちゃんと聞いてなかったしな」

「それとはまた別に同盟軍名義で百目鬼様からもお手紙をいただいています」

「百目鬼から?」


 俺は二通の手紙に目を通す。

 一通はカチャノフから、すげー武器ができましたので是非来てくだせーと。


「ディーいないけど大丈夫かな。モデルにするとか言ってたけど」


 もう一通百目鬼から送られた手紙を開いてみると。


「なになに、拝啓 晩夏の候 、梶チャリオットの皆々様にはますますご清栄の御事とお喜び申し上げます。わたくしの方もいたって壮健、無事消光いたしておりますので、他事ながらご放心ください。

 さて、本日突然のお手紙を差し出させていただいたのは、兼ねてよりお話にあったフェルマーダブラックスミス女神杯 のことについてです。

 勇咲様につきましては王という高位の身になりますので、私などとは比べ物にならないほど調整にお時間がかかると思いますが、何卒同行し、感動を共有しあえれば幸いです。

 私のようなものにお時間を割いていただくのは、誠に恐縮でありますが無知なる私に梶様の知識を少しでも授けていただく。

 いえ、あくまで強要ではありませんので、ご都合がつかないのでしたら断っていただいても全然構いませんし、むしろ私のような泥臭い女と付き合うと人間価値が下がりますし、それでもよろしいのでしたら。

 いえ、やはり私ごときが梶様のような御多忙な方をお誘いするなんて分不相応な振る舞いでした。

 私のようなゴミクズが人様と同じように楽しむ権利があると勘違いしてしまい、そのことに気づかず押しつけがましくお誘いしたご無礼をどうかお許しください。

 私のようなものは一人草葉の陰から、誰にも気づかれぬようコンテストの成功をお祈りさせていただき……


 なんの手紙だよ! 誘ってるのか、やっぱりやめたのか! そして文面が超固い! どっかからビジネス定型文でも拾ってきたんじゃねぇかってくらい固い! とても同年代に送る手紙じゃねーぞ。

 そして読んでいくと段々ネガティブが半端なくなっていく!

 最後の方なんて、私のようなゴミクズとか書いてあるし。


「いかがなさいますか?」

「いや、行くよ。なんかこのままだと百目鬼が草の妖精になりそうだし」


 木の影から暗黒オーラ全開の百目鬼がコンテストを眺めている様子が浮かんで、これは酷いと頭を振る。


「それじゃあオリオンたち連れて」

「いいの? これデートの誘いじゃないの?」


 オリオンが手紙を覗き込む。お前日本語読めないだろうが。


「これがラブレターだとしたら、あいつ相当センスないぞ?」

「だから咲はモテない」


 グサッとモテないの矢印が俺に突き刺さった。


「嘘だろ。俺モンスターには超モテるぜ?」

「イカにモテて嬉しいのかお前は」

「うぐぐぐ」


 最近はラブコメ展開もそこそこ入って、モテているのではと勘違いしがちだったが、やはり世間の認識はそうなのか……。


「てか、この人咲と同じ世界の人なんでしょ? 友達じゃないの?」

「その言い方だと同じ世界の奴皆友達みたいでひっかかるが、まぁ間違いではない。友達ってほどの仲ではないが知り合いだ」

「じゃあ二人で話してきなよ」

「いいのかな?」


 俺はセバスの方を伺う。


「コンテストは中立地区であるマディソンの街で行われますので、恐らくそこで襲われる心配はないでしょう。それに別行動をするだけで、オリオン様たちもコンテストへ向かわれれば何かあってもすぐに駆け付けられます」

「そっか、別に俺についてなくても同じ街にいりゃ大丈夫か」

「一応わたくしめは後ろからついてまいりますので、何かお困りの際は声をおかけください」

「そうだぞ、あたしたち後ろから見てるからな」

「それはそれでやりにくいな」


 じゃあ行くかと決めて、腰かけていた噴水から立ち上がると、一瞬立ち眩む。


「ん……なんだ?」


 見慣れたはずの城の景色に薄くもやがかかり、視界が霞んでいく。

 やがてそれはひどくなり、テレビに砂嵐がかかるように、ザリザリと頭の中にノイズが走り、景色が徐々に変貌していく。

 それは俺にとってとても見慣れたもので、ついこの前まですごしていた空間。


「なっ……んだこれ?」


 綺麗に並んだ机に、大きな黒板、教卓で教鞭をとっている男性に、つまらなさげに話を聞く生徒たち。

 異世界側の人間からしたら、三十人以上の人間が同じ部屋に集められて一つのことを行っている光景はある種異常にも見える。

 しかしそれが本来の日常であり、当たり前の光景。


「つっ、いてぇ……」


 酷い頭痛にたまらず頭を振ると、そこは見慣れた城の中庭でオリオンとセバスが心配げにしている。


「大丈夫か咲? お腹痛いか?」

「いや、大丈夫」

「お疲れになられているのでしょう。今日は早くお休みになられた方がよろしいでしょう」

「ん、うん、疲れてるのか……」


 白昼夢か、それとも心のどこかで帰りたいと思っている感情が幻を見せたのか。

 どっちにしろ一瞬の出来事なので、確かめる方法はない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12月29日書籍版がファミ通文庫より発売します。 『ファミ通文庫、ガチャ姫特集ページリンク』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ