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戦利品

「後ほどギルドで報酬の方払わせていただきますので」

「あーはい」


 アランの依頼を勝手に俺が達成してしまったわけだが、それでも報酬ってでるものなのかなと首を傾げる。

 とりあえずフレイアとクロエの件は片付いた。

 後はこの何故か熱っぽい瞳でこちらを見てくるホルスタウロスなのだが。


「なんか咲、気に入られてない?」

「うむ、なんでだろうな」


 そう、さっきからモォモォと牛とは思えないセクシーな鳴き声をあげながらホルスタウロスの群れが俺から離れようとしないのだ。


「多分リーダーだと思われてるんですよ」


 クロエがにこやかに答える。


「リーダー? 俺ミノタウロスでもホルスタウロスでもないですよ?」

「ホルスタウロスは基本的にメスの中からリーダーを選んでそのリーダーに従うんですけど、リーダーが一族を繁殖させる為のオスを見つけると、そのオスをリーダーにしてハーレムを作っちゃうんです」

「なっ!?」

「んだと!?」


 俺とオリオンは同時に驚いた。

 確かにフレイアもホルスタウロスは元から移動系のモンスターではなく拠点を持つものだと言っていたが。その拠点にする理由ってもしかしてオスが関係あるのか。

 見た目胸以外ほとんど人間とかわらないホルスタウロスはモォモォと声を上げて胸を押し付けてくる。


「あー完璧ですね。胸を押し付けてくるのはホルスタウロスの求愛行動なので、王様は彼女達の繁殖相手に選ばれたんですよ」

「えっ……これどうすればいいの?」

「どうしても嫌なのでしたら、彼女達を火で炙ったり剣で斬りつけたりすれば追い払うこともできるかもしれませんが、基本的には無害ですし、彼女達の出す母乳は栄養価が非常に高い上に、絞れるのが本人か繁殖相手と認めたオスだけなので、市場に出回っていませんから、とても高値で取引されます」

「繁殖相手だけが絞れる母乳……」


 ゴクリと唾を飲み、一人の例外もなく超巨乳なホルスタウロスを見やる。


「それに彼女達はリーダーの命令には従順ですので、しっかりと戦い方を教えたりすれば高い筋力値からミノタウロスを超える戦士となってくれますよ」


 確かに昔超胸がデカくて頭に角の生えた戦士を一度だけ見たことがある。あの時はあれがホルスタウロスだと気づいていなかったが、今にして思えば戦士として教育されたホルスタウロスだったのだろう。

 そして何より大きいのは


「乳製品が食える」


 ミルクにチーズ、バターにヨーグルト、クリームもいけるか。鶏を飼えば卵を使ったお菓子を作るなんてこともできる。

 そう思ったが、ツンドラの如く冷たい視線を送ってくる相棒がいた。


「スケベスケベスケベ」

「お前はミルクほしくないのか?」

「母乳とかやだ」

「ホルスタウロスのミルクはとっても甘くて美味しいんですよ」


 クロエに言われ、うぐっと揺らぐオリオン。


「酒の摘みにチーズ、朝飯にミルクとヨーグルト、お前の好きな焼き菓子も作れる。多分ディーなら作り方も知ってるだろ」


 小麦粉が必要だが、小麦粉だけなら大した値段ではない。

 加工された乳製品が高いのだ。


「うぐぐぐぐぬぬぬぬぬぬ」


 おー悶えとる悶えとる。

 そして……。


「わかった。モンスターだしな、別にどうこう考えることじゃないな」

「何を考えるんだ?」

「うっさいバーカ!」


 やたら機嫌の悪いオリオンをなだめつつ、俺は合計十七頭に及ぶホルスタウロスの群れを連れて一度自城へとかえるのだった。




 ホルスタウロスを連れて帰ると、皆が目を丸くしていた。

 繁殖相手に選ばれたと告げると、ソフィーは不潔不潔と言いながら頬を膨らませていたが、ディーはホルスタウロスの価値をわかっていたようで、恐らくこれだけの数のホルスタウロスのミルクが絞れれば一財産築けるぞと資金が潤ったことを喜んでいた。

 餌となる飼葉なら裏山に生い茂っているし、教育をほどこせば自分達で野菜作りまでするらしい。


 これはもうフレイア達から報酬貰わなくてもいいかな、なんて思っていたが一応約束したのでステファンギルドへと俺は顔を出した。




「ふざけないでよ!」


 ギルドに入った瞬間、怒声が飛んできて、剣呑な雰囲気が伝わってくる。

 そこにいたのは怒ったフレイアと、アランの姿だった。

 俺はいつものギルドのおじさんに近づいて、小声で話を聞く。


「なんで喧嘩してるの?」

「あー丁度良かった。アラン君がフレイアさんたちに報酬の支払いを求めてるんだけど、それを拒否してるんだよ」

「でもあいつ逃げ帰っただけですよ」


 俺はゴブリンの巣でおきたことを細かに話す。


「うん、それは僕たちも聞いてるんだけどね。でも決まりとしては依頼が達成されたら依頼者に報酬を支払って、もし協力者に助力を得たのなら報酬とは別に依頼主が協力者に報酬を支払うようになってるんだ」

「あーなるほど。じゃああいつはただ足引っ張っただけで、捕まった人間を見捨てて逃げてもゴブリンが倒されれば金が入るようになってるんだ」

「言い方は悪いけど、そういうことになっちゃうかな。途中依頼の受諾者をかえるなら一度ギルドを通してもらって正式にかえてもらわないと、こっちも当事者だけのやりとりじゃ口出しできなくて、君とフレイアさん達が言っていることが本当でも、受諾者はアラン君になってますとしか言えないんだ」

「そりゃ難儀な」

「だからなんであたしがあんたなんかにお金払わなきゃいけないのよ!」

「結果として君たちは助かったのだから、こちらに支払いの義務が生じるのは当然だろう?」

「なに寝ぼけたこと言ってんのよ! あんたのやったことなんて慢心しながらゴブリンの巣に入って、仲間を失って一緒に捕まった後、私達を見捨てて逃げただけでしょ!」

「あまりギルドで大声を出さないでもらいたい。侮辱罪で君たちを城に突き出さなければいけなくなる」

「全部事実でしょ! どこまで恥ずかしいこと言ってんのよ」

「君だって、後からのこのこやってきた王のことを必要としてなかっただろ!」

「うっ」


 フレイアが一瞬言いよどむ、それと同時に俺がステファンギルドにいることに気づいたようだ。

 ばっちり目があっちゃった。

 フレイアは恥ずかしいところを見られたと額をおさえる。


「報酬を払わなければ城の警備隊に突き出すぞ!」


 フレイアはもう一度俺の顔を確認する。

 俺は片手を振って、「いいから払っちまえ」とジェスチャーする。

 その様子を悔しそうに歯噛みする。

 フレイアは硬貨の入った革袋を取り出す。


「大人しく払えば……」


 アランが受け取ろうとするが、フレイアは革袋を強く握りしめ、思いっきりアランの頬を硬貨でぶん殴った。


「くたばれクソ野郎!!  それは死んだあんたの仲間の分よ!」


 アランは盛大にノックアウトされ、辺りに硬貨が散らばる。

 フレイアは肩を怒らせながらギルドの外へと出た。その後をクロエが続く。


「やっぱ女怒らせるとおっかねー」

「アラン君もこれだけ大声で無能だのクズ野郎だの言われたら多分まともに仕事はできないよ」

「それだけで十分だ」


 俺はステファンギルドの外に出ると、怒り心頭しながらも申し訳なさそうな表情でこちらを見ているフレイアに会う。


「ごめん……お金、なくなっちゃった」

「すみません」


 二人は大きく頭を下げる。


「ああいいよ、こういうこと慣れてるし」


 タダ働きと言ってもホルスタウロスという大きな見返りをえた俺としては彼女達を責める気はさらさらない。


「あんま気にしなくていいよ」


 そう言ってやるとクロエは「なんて器が大きい」と勝手に勘違いしていた。


「その、それに……魔紋も沈めてくれて……ありがと」

「こちらこそ結構なものを揉ませていただいて」


 そう言うとフレイアの顔にぼっと火がついた。

 意外と可愛い奴だなと思ったりした。


「その、わかってるかわからないけど、私もクロエも呪いにかかってて、その解呪する方法を探してたの」

「私達の長老様が王様の城に行けば解呪の方法があると教えてくださって」

「ただのボケ老人かと思ってたら本当に紋章石を見つけて……」

「それで盗んだと」

「すみません」


 二人はしゅんと頭を下げる。


「別にその火の紋章石に関してはあげたものだから返してと言うつもりはないよ。それよりクロエさんは大丈夫なの?」

「……私のはあまり気にしないでください」


 ニコリとほほ笑むクロエと、辛そうな表情をするフレイア。


「これからアテはあるの?」

「路銀が尽きてしまいましたので、どこかで歌でも奏でようかと思っています」


 あっ、歌で思い出した。


「俺君の歌を聞こうと思ってたんだ」


 フレイアを指さす。


「えっ、私は歌えない。竜の血が音に乗って特殊な効果を作用させるから……多分」

「クロエの歌を聞いてると眠くなるみたいなやつか」

「そう……だから歌えない。でもヴァイオリンくらいなら弾けるかも」


 その表情は楽しみを奪われたもののそれで、きっとフレイアは歌を歌うのが好きだったのだろう。


「んー、どうすっかな」

「どうかいたしました?」

「ウチの裏山から温泉がでたんで、観光地を作ろうかってことになってるんだけど。人手がなー」


 チラッと二人を伺う。

 言葉の意図に気づいて二人はこそこそっと話すと、クロエが向き直る


「王様、温泉地には娯楽、詩人は不可欠です。どうか我々をそこでお雇いいただけないでしょうか?」

「お、お願いします」


 フレイアもぎこちなく頭を下げる。


「誘っておいてなんだが、王の下につく意味って知ってる?」


 それは王の命令に従うことが大前提で、更に他の王と領土戦争になるかもしれないということだ。


「はい、この身は王様に捧げます」


 クロエは跪くが、フレイアは嫌そうだ。


「や、やっぱり私こいつの下につくのは……」

「フレイアちゃん!」


 珍しくクロエが強い口調で言い正す。

 やはり母親には逆らえないのかフレイアは同じように跪いた。


「こ、この身を王に捧げます」


 二人がそう言うと俺のスマホが輝きだし、画面に契約完了と表記され、クロエとフレイアの名が綴られていた。


「そんじゃよろしく」


 俺はホルスタウロスと詩人二人を仲間に入れた。




 救出依頼                  了




フレイア HR 吟遊詩人

 筋力E ==

 敏捷C ====

 技量C ====

 体力D ===

 魔力B =====

 忠誠D ===

 信仰D ===


 ドラゴニュートの呪い

 ドラゴンの力を使うことができる。ステータスを最大三段階上昇

 魔力を使用すると呪いにより魔紋が侵行する。魔紋の侵行が全身に回ったときドラゴン化し、人に戻れなくなる。

 ステータス上昇を行わない魔法では、魔紋の侵行はしない。

 下腹部にある魔紋はハート型に見えるが実際は竜の頭を象ったものである。

 魔法を使用するとき発熱する為露出させる必要がある。


 クロエ HR 吟遊詩人

 筋力F =

 敏捷D ==

 技量B =====

 体力D ===

 魔力C ====

 忠誠B =====

 信仰A ======


 フレイアの母でありハーフエルフでもある。

 信仰が高く、ヒーリング系統の魔法を得意とする。

 半面それ以外はからっきしである。

 本人も魔法より家事の方が得意と答えてしまう為、戦闘登用は難しい。

 見た目から実年齢を測ることは不可能なほど、美しく母性的な女性。



 ホルスタウロス モンスター

 筋力A ======

 敏捷C ====

 技量D ===

 体力A ======

 魔力F =

 忠誠S =======

 信仰F =


 リーダーに対する忠誠心が非常に強く、一度リーダーと決めた相手を絶対に裏切らず忠誠が下がることはない。人間をリーダーと認めることは希少。

 ステータスだけで見ると、中堅ダンジョンのボスクラスの能力がある。

 温厚な性格だが、群れのリーダーを攻撃されると外敵を殲滅するまで暴れ狂う為、オスのミノタウロスとは別の注意が必要。

 生体メモ

 オスと違いメスは集団で行動することが多く、群れの中でリーダーを決めて生活をする。しかしメスのリーダーはあくまで仮のリーダーであり、繁殖する為のオスが見つかればリーダーはオスへと移り変わる。

 繁殖相手が死なない限りリーダーがかわることはなく、生涯ついて回る。

 またホルスタウロスがオスのミノタウロス以外の種と交配すると、必ず生まれてくるのはメスのホルスタウロスであり、オスのミノタウロスと交配すると産まれてくるのはオスのミノタウロスに固定されていることがわかっている。

 オスのミノタウロスは交配が終わった後、メスの面倒を見ることはなくどこえなりと姿を消してしまう。

 メスのホルスタウロスはリーダーとして行動を共にできる相手を探す為、同種での交配を拒むケースが多く、異種交配を望む珍しいタイプである。

 自身から高栄養のミルクが出る為、常時瓶を携帯しており、蓄えたミルクを物々交換する程度の知識はもっている。

 しかしあまり知能が高くない為、騙されて安くで譲ってしまうことが多く、人間側からの取引は基本的に応じない。

 一時期金持ちの王がホルスタウロスを捕まえて一攫千金を狙ったが、見た目人間と大差ない為誤解しがちだが、能力的にはメスもオスも大差ない為、実は群れでいるホウルスタウロスの方が、怒らせた時に厄介なのである。結局ホルスタウロスを捕まえることは叶わず、逆に滅ぼされてしまった経緯が存在する為、迂闊に手出しをするものは少ない。

 ある程度であれば言語を覚えることも可能であり、しっかりと教え込めば言葉でのコミュニケーションも可能になる。

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