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ゴブリン殲滅戦

「おーおーやっとるねぇ」


 なんとか間一髪間に合ったようで、ギルド職員の予想通りフレイアは捕まっていた。

 オークは今さっき倒したので終わりのようだが、ゴブリンはまだ三十匹近く残っている。


「多いな」


 俺がげんなりしていると、後ろから満腹になったオリオンがやってくる。


「多いね。前の巣穴よりは少ないけど」

「まぁでもこの程度ならお前一人で十分だろ」

「当たり前だろ」


 そう言って結晶剣を肩に担ぐオリオン。


「ならこいつら全滅させたら肉丼もう一食いけるぞ」

「最高だな。サクっと終わらせて……」


 そう言った瞬間背後からワラワラと警備のゴブリンとアランの追跡を諦めたゴブリンがやってきた。


「中にいるのだけじゃなかったのかよ」

「ゴブリンは一匹見たら十匹いるって言うしな。あたし何匹か連れて倒してくるから、お前中の頑張って倒せよ。てか死ぬなよ」


 そう言ってオリオンは襲ってきたゴブリンと中にいた十匹近くを連れて洞穴の出口へと向かって行く。

 残されたのは俺と二十匹のゴブリンである。

 俺と二十匹のゴブリンってなんかラノベのタイトルでありそうだなと、バカなことを考えていると、小さいおっさんが宴を邪魔されて凶悪な眼光をこちらに向ける。


「ゴブリン二十匹か……なんとかなるかな?」


 チラリと横目でフレイア達の方を見ると、無惨に引き裂かれた服と暴行された痣が生々しく残り、酷い目にあったのだと察するに難しくなかった。


「……調子に乗るなよ小さいおっさんども」


 俺は苛立ちを含んだ声をあげ、サーベルを腰から引き抜く。

 カッコよく駆けつけた俺だが、ディーもソフィーも連れてきてない。その為俺にできるのはただただ油断せずにゴブリン達を一匹ずつ斬り殺していくだけだ。

 下ろしたてのサーベルにはゴブリン達の黒い血液が付着していく。

 別にこいつら一匹ずつは子供程度の力しかないからそんなに強くはない。ただ子供だろうがナイフや棍棒を手に襲い掛かってきたら厄介ということだ。

 後ろから殴られ斬られて鮮血が飛ぶ。捕虜達がその光景に目を塞ぐ。


「悪いな、助けに来たのがSレアの戦士じゃなくて、しょっぱい王で」


 そう呟きつつ、一匹ずつ確実に飛びかかてきたゴブリンをいなして背中を斬り、ナイフで突き刺そうと走って来たものに足蹴りを入れて転倒させる。そして頭に剣を突き刺す。

 一匹ずつだが順調に数を減らしていく。

 火蜥蜴の種火を使いたいところだが、滝が近くて火がうまくつかない。予想以上に湿気に弱いらしい。

 俺の傷も多くなってきて、足元がふらつく。

 それに気づいたクロエが俺に回復の魔法を飛ばす。


「あっ、まずい!」


 ゴブリンはクロエが援護していることに気づいて、そちらへ殺到する。

 フレイアが咄嗟にクロエを庇うが、流れた血は彼女達のものではなかった。

 ぴちゃりと跳ねた血は、俺の腹と肩から流れたもので、突き刺さった汚いナイフを見て顔をしかめる。


「なんで、あんた……」

「どけ、このタコ野郎!」


 俺の腹を突き刺しているゴブリンを叩き斬り、脚にナイフを突き立てているゴブリンの頭を蹴り潰す。

 肩にまだしがみついているゴブリンの頭を掴んでゼロ距離で火蜥蜴の種火を使う。

 ゴブリンの体は燃え上がり不気味な断末魔を上げながら炭になった。


「あー、くそぉ痛ぇ」


 残り十数匹。

 火蜥蜴の種火もゼロ距離なら火がつくことがわかったが、ゼロ距離イコール俺が刺されていることになる。

 これでは俺が倒れるのが先か、こいつらは全滅させるのが先かわからなくなってきたぞ。

 やはりチェスや将棋でもそうだが王というのは前にでるべきではないのだ。

 が、目の前で女が襲われるのを黙って見てたら、それはそれで王じゃないだろ。


「王なめんな!」


 棍棒でぶん殴られ、視界が霞む。

 俺を押さえつけようとするゴブリンに噛みつき、ヘッドバッドする。

 間違いなく王なんて言う上品なものの戦いではなく、野蛮な泥仕合でしかなかった。

 ゴブリンの数も大分減ってきたが、俺のHPも恐らくゲージが見えてたら赤色で点滅していることだろう。

 さっきから後ろでフレイアがひっきりなしに呻いている。


「何だよ、今忙しいんだよ」

「ふぁずして!」


 何をと思ったが、口に咥えさせられている骨で間違いないだろう。

 俺はすぐさま骨をとってやる。


「ぶはっ!」

「そういやお前魔法使えるんだろ、なんとかしてくれ」

「今やるわよ!」


 フレイアが歌のような詠唱を始めると、不思議なことに彼女の下腹部に魔紋と呼ばれる魔法の術式が浮かび上がる。

 詠唱していることに気づいたゴブリン達が即座にフレイアに飛びかかろうとする。


「何俺無視してんだよ!」


 俺はゴブリンの頭をひっつかみ、燃やしながら地面に投げつける。


「下がって!」


 俺は咄嗟に飛びのくと、フレイアの口から業火が吹きだされた。


「ドラゴンブレス!」


 猛り狂う炎は一瞬にして広間全体を炎の海へとかえ、ゴブリン達を燃やし尽くし、骨すらも残らない灰へとかえる。

 爆炎の生暖かさが肌を撫で、肉の焦げる嫌な臭いが鼻に残る。


「うわ、すげぇ」


 あれ、これ俺無駄に戦ってたけど、最初からフレイアを解放すれば良かったんじゃね? と今更気づく。

 見たこともない魔法に驚いていると、魔法を撃ち終えたフレイアが倒れ、体からシュウシュウと音と煙をあげている。


「うっ……く……」


 苦し気に呻くフレイア。

 心なしか体を覆う魔紋が増えている。さっきは胸と下腹部だけだったのにお腹全体に魔紋の侵食が進んでいる。


「フレイアちゃん!」


 クロエがすぐさま抱き起こす。


「どうしたんだ?」

「彼女はドラゴニュートの呪いにかかっていて、魔法を使えば体がドラゴンの血に侵食されていくんです!」

「マジか。どうやって止めるんだ」

「侵食自体は火の紋章石で止まっていましたが、力を使ったことで侵食を食い止められなくなったみたいです」

「う……うっ」


 そこで俺はピンと閃いた。


「フレイア、俺と契約しろ。そしたら召喚石を使える。それで呪いを解除しろ」


 叫んでみるが、苦しげなフレイアはそれどころではない様子だ。


「フレイア!」

「すみません王様。この呪いはかなり深いものなので、恐らく召喚石一つでは治療できないかもしれません」

「大丈夫だ、俺今石三つある!」


 俺達があたふたしているとゴブリン達を片付け終えたオリオンが帰って来た。

 状況を説明してやると、珍しくふむと考え。


「咲、この前なんかスキル覚えなかった? スペルなんとかってやつ?」

「あっ」


 そういや、そんなんあったな。

 用途不明すぎて使ってなかったけど。

 俺はすぐさまスマホを操作して、スペルリリースを使用する。


「これがきくのかわかんねーけど」


 淡い光がスマホから俺の右手に広がっていく。

 すぐさま使用方法を確認する。


「えー、患部に右手または両手をあて強くこすったり揉んだりする」


 俺は半裸のフレイアを見る。患部ってあの一番光ってる胸だよな……。


「…………」


 俺が戸惑っていると、クロエが半泣きで俺の手をとる。


「王様、どうかお願いします! フレイアちゃんを!」


 くっ、人工呼吸と思え、それで恥ずかしがることはないのだ。

 自分にそう言い聞かせ、俺は患部に触れる。


「んっ……くっ……」


 フレイアから熱い吐息が漏れ、後ろからオリオンの吹雪のようなまなざしに耐える。

 これは仕方のないことなのだ。治療なのだ。

 

 そう治療


 治療なのだ!


 恥ずかしい治療は長引いたが、やがてゆっくりと魔紋は小さくなっていった。

 魔紋は消すことができず、俺の能力ではこの程度が限界なようだった。

 それでも生命の危機は脱したと言ってもいいだろう。


「よし、なんとか落ち着いたな」


 やっぱりスペルリリースってのは状態異常を回復させる系のスキルのようだった。

 さすがSレアスキル、結構有用なものを習得していたようだ。

 俺は額の汗を拭くと、ダイヤモンドダストより寒い視線をしたオリオンに向き直る。


「スケベ」

「治療です」

「スケベ」


 もうスケベのレッテルは剥がれそうになかった。

 俺は弁解を諦めフレイアを背負い、捕まっていたホルスタウロス達全員を連れて洞穴の外へと出た。


「ありがとうございます。なんとお礼をしていいのやら」


 クロエさんがひたすら頭を下げる。


「いや、なんとなくで来てしまっただけなんで」


 なんとなくできたわりには生傷だらけになってしまった。

 クロエさんのヒールで傷は塞がっているが、それ以外はそのままだ。


「あ、あのフレイアちゃんに服を着せてあげたいので……」

「あぁすみません」


 俺の背中で寝ている、あられもない格好をしたフレイアをクロエに引き渡す。

 フレイアもそうだが、クロエも酷い格好をしている。


「ん?」


 よく見るとクロエの体にも魔紋らしきものが……。もしかして親子そろって呪いにかかっていたのか?


「スケベ!」


 オリオンにぶすりと目つぶしを受けて、俺はのたうち回った。

 おかしい、結構いいことしたはずなのに今回酷い目にあってる。

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