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ep.8 賢者の祠

 こうして村のはずれに小さな(ほこら)が建った。

 石を積んで組み上がったもので、賢者のための祠としては、簡素を極めている。


「こんな辺鄙(へんぴ)な村では、賢者様に相応しい立派な祠は建てられませんが、ご勘弁ください」


 村長が申し訳なさそうに低頭する。ファイレナは緩く首を振った。


「いえ、いいんです。これはあくまで師の遺体を安置するだけのものですから」


 祠の前には石棺があり、その中にサリフィンの遺体が寝かせられている。腹の上で両手を組み、穏やかな表情で目を(つぶ)っている。

 ファイレナはその頬を撫でた。ただ眠っているかのように瑞々(みずみず)しい肌だ。


 ファイレナはこの遺体に、長い時間をかけて練り上げた時間停止の魔術を施した。美しい師匠が白骨化するのは見たくない。次に再び目を覚ますときまでずっとその美しいままでいてほしかった。


「おい、いい加減にしたらどうだ。さっさと蓋を閉めて祠に放り込め」


 両腕を組んで見守るグリオハンがしびれを切らす。村民は皆一様に怪訝(けげん)そうな表情を浮かべるものの、恐ろしそうな蛮族の男には一切目を向けない。


「蛮族なんで、情緒っていうものがないんです。気分を害してしまって申し訳ない」


 ファイレナはグリオハンの代わりに村民たちに謝罪して、グリオハンを睨みつけた。


 蓋のされた石棺が転がる丸太の上を滑って祠の中へ入っていく。最後に入り口に石を積んで封印すると、その周りに村人たちが思い思いの花を添える。


「賢者様復活の日まで、この花が尽きることはないでしょう」


 村長が祠に向かって深く頭を下げた。村人たちも膝をついて黙祷する。


「用は済んだだろう。行くぞ、半エルフ。肝心の蘇生の術がなければ、こんなことには意味がないのだからな」


 敬愛する師の眠る祠を前に感傷に浸っていたファイレナが、射殺すような視線をグリオハンに突き付けた。


「道中、おまえを(くび)り殺してしまうんじゃないかと心配になるよ」

「それはこっちの台詞だ。今でも我はおまえの体を絞るのを我慢しているのだぞ」


 剣呑(けんのん)な空気でふたりが睨み合う。


「ところで、これからどちらへ向かう予定ですか?」


 事情を知らない村長が、無頓着に割って入る。

 ファイレナはグリオハンから視線を外し、村長に向いて首を振った。


「まずは蘇生の術を探さなければなりません。冒険者たちに話を聞けば有力な情報もあるでしょう。まずは人の集まる大きな町にでも向かってみます」

「なるほど。でしたら、ここから西に向かってみてください。そこにセイリンという町があります」


 村長が杖で西の方角を指した。


「セイリンは、フェアモル湾という湾沿いの港町なんですが、その湾を隔てた向こう側に大きな町が多くあるのです」

「なるほど。陸路を迂回するのは時間がかかるから、湾を横切るわけですね」

「おっしゃるとおりです。対岸の大きな港町なら各地の噂も多く集まるでしょう」

「素晴らしい案です。では、セイリンへ向かってみたいと思います」


 ファイレナは村長の厚意に深々と礼を返した。

 サリフィンの弟子が旅立つと知り、村人たちが最後に握手を交わそうと列を作る。

 意外にもグリオハンはそれを辛抱強く待った。

 ようやく出発の段になり、グリオハンが溜息混じりに言葉を吐く。


「おまえたち人類種の儀礼というのは面倒なものだな。こんなものがずっと続くと思うと、蘇生の術が見つかるのはいつになることやら」

「へぇ。そんな気の利いた皮肉も言えるんだな。見直したよ」

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