ep.86 復活のとき
「どうするとはどういうことだ?」
腕組みをして様子を見ていたグリオハンが口を挟んだ。
「ここへ帰ってくるまで、ずっと蘇生の術の行使の仕方を考えてた。でも、結局わからなかったんだ」
一瞬の沈黙の後、グリオハンが眉を潜めた。
「なんだと?」
その目元、声色には明らかに静かな怒りがある。
「きさま、我をだましたのか?」
ファイレナに突っかかろうとするグリオハンの前にアーダンが割って入った。だが、力でグリオハンを抑えられるわけがない。アーダンが押されて後退し、ファイレナも後ろへ下がる。
「だますわけないだろ! 私だって師匠を蘇らせたいんだよ!」
「私からも申します。ファイレナさんは道中、ずっと思案していました。調べものもしていました。あなたが寝ているときでもです」
アーダンがなんとか力任せにグリオハンを押し返した。
グリオハンが低く唸った。
「だったら、さっさと蘇らせる方法を探せ!」
「言われなくてもやってるって言ってるだろ、このクソバカドラゴンが」
ファイレナは言葉を吐き捨て、グリオハンに背中を向けた。
だが、今の段階で蘇生の秘術を行使する術はない。ファイレナは荒く鼻息を鳴らす。
「なぁ、アーダン」
だしぬけにアーダンに言葉を向ける。
「なんでしょう?」
「おまえ、神官だろ? 蘇生の術とかなんか呪文を思い出せないか?」
「は? 急に?」
「おまえはリッチになれるほどの神官だった。不死者に成り下がってからその奇跡のほとんどは忘れてしまったかも知れないけど、それでも、治癒魔法はなんとか思い出したじゃないか。たとえ、それがなけなしのものだったとしてもだ」
「ちょっと! 言い方、もう少しありませんか⁉」
アーダンが不満げに表情を歪める。
「しかしねぇ、簡単に言われますが、蘇生の魔法なんて滅多にあるものではありません。それに、そんなものを思い出せるなら、不死鳥の卵なんで探さずにさっさとその魔法でなんとかしていますよ」
ファイレナは舌打ちをした。
「舌打ちされる覚えはありませんがね⁉」
「ちょっと! 皆さん!」
ふたりが言い合っていると、突然、シオが声を上げた。
「なんだよ、うるさいな。今、不死鳥の卵を使う方法を話してるところなんだよ」
ファイレナは苛立っていて、シオにも尖った言葉を返す。
「いえいえいえ! これ! 見てください!」
シオは黙らない。他の三人もシオへ振り返った。
見ると、サリフィンの上に乗せた不死鳥の卵が淡い光を放っている。
「こ、これは……?」
ファイレナが思わず駆け寄り、その卵に触れようと手を伸ばす。だが、寸前でその手を止めた。
四人は石棺を囲み、固唾を飲んで見守った。
しばらく淡い光を放っていた卵が、その光を強めた。そして、それを最後にその光を徐々に失っていく。
四人が互いに目を配り合う。
「……んっ……」
わずかばかりの呻き声を漏らしたのは、他でもないサリフィンだった。
「し、師匠……?」
「……うぅ……」
「師匠っ⁉ 師匠ぉーっ!」
ファイレナがサリフィンの肩に手をかけた。
「い、いけませんよ、ファイレナさん! 今はまだそっとしとかないと」
アーダンがファイレナの肩を掴んだ。
「触んな! 変態! 師匠が蘇るんだよ!」
「だから、あんまり触らない方がいいってアーダンさんは言ってるんですよぉっ」
シオがファイレナの腰に手を回して、後ろへ引っ張る。
「……うぅ、ファイ、レナ? ファイレナ……いるのか?」
サリフィンは強く目を瞑ったまま、二日酔いに苛まれる朝のような苦しそうな声を出す。
ファイレナは腰からシオを振りほどいた。
「はい! ここにいます!」
「……な、なんか、倒れてきたのかな……お腹に何か乗ってない? 重い……」
ファイレナは、ハッとして復活の卵を持ち上げ、アーダンへ押し付けた。
サリフィンがようやく目を開ける。
サリフィンからすれば、知らない顔を含めた四人が自分を覗き見ている状態だ。
「え? 何? 怖い……」
「し、師匠……本当に蘇ったんだ……」
ファイレナはサリフィンに手を貸して、ようやくサリフィンが石棺から状態を起こす。
「サリフィン様。あなたはドラゴンとの戦いのときに命を落としたのです。覚えておいでですか?」
アーダンの問いかけに、サリフィンはしばらく険しい表情を見せた。その目が大柄な蛮族風の男グリオハンに向いてから、すべてを思い出したように表情が和らいだ。
「そうか。たしかに、私はアンバーグロウピークの暴竜との戦いで命を落とした」
サリフィンは自分に添えられたファイレナの手を優しくとった。
「なるほど。今、すべて理解したよ。そんな私を君はどうやってか蘇らせたんだな」
その瞬間、ファイレナの瞳から涙が溢れ出た。とめどなくボロボロと頬を伝っていく。




