ep.79 太陽の破壊光
「まずは、あのマルグルンの強化の魔法を解除する。それであっちの馬鹿みたいな一騎打ちをさっさと終わらせる。その後に〈見えざる手〉だ」
ファイレナがさっと魔法生物に目を向ける。
「作戦方針か決まったかな? まぁ、無駄なあがきだけどね。こちらも準備は整ったから」
〈見えざる手〉が放つ淡い光が少しばかり強くなった。魔力を込めた証拠だ。
「何かくる! 気を付けろっ!」
ファイレナは仲間に叫んで、自身は一直線にマルグルンへ向かった。走りながら、印を結び詠唱する。
〈見えざる手〉が何かやったことは確かだが、まだ何も起こらない。
シオが辺りに視線を巡らせる。戦闘に気を取られていて、せっかくの不死鳥の卵が無造作に転がっている。
「アーダンさん! あれを!」
「まったく、皆さん、がさつですねぇ。了解しました」
アーダンが霧へ変わりながら、速やかに至宝の回収へ向かう。
一方、シオはタルニャの方へ急いだ。タルニャも連れて帰らなければならない。それに、その手には夢渡りのスカーフが握られたままだった。
グリオハンとマルグルンが互いの武器を交差させて押し合いをしている。だが、マルグルンが圧倒的だ。これまで恵まれた体躯とタフネス、そして規格外の膂力で圧倒してきたグリオハンだが、魔法の力も借りてそのすべてを上回るマルグルンには分が悪かった。
おまけにグリオハンには負傷の影響もある。
「時間をかけすぎだぞ! クソドラゴンっ!」
そこへファイレナが猛然と迫った。
「邪魔をするな! 半エルフ!」
「これは最初からチーム戦なんだよ! バカ!」
ファイレナは背後からマルグルンの背中に掌底よろしく手の平を打ち付けた。
「おまえは利用されてるんだ! 目を覚ませ、マルグルンッ!」
手の平から練り上げた魔法を放出する。
「《魔法解除》ッ!」
放たれた魔力がマルグルンの巨体に流れ込む。電撃でも食らったように、一度大きく体を跳ね上げ、マルグルンが、がくりと膝をついた。
「マルグルン!」
ファイレナがその肩に触れる。すると、丸太のような腕が、跳ね飛ばすようにそれを振り払った。ファイレナが尻もちをつく。
魔法生物の魔術はあまりにも強力だったのか。ファイレナの脳裏に解除の失敗がよぎった。
「……ん? これは?」
マルグルンが辺りを見回している。狂暴化がかかっている間の記憶がなく、意識がわずかな混乱の中にあるのだ。
そして、すぐに脇腹にある焼けた大きな傷跡を抱えてうずくまった。
グリオハンが戦斧を携え、一歩踏み出した。ファイレナの片手がその間に割って入って、止めた。グリオハンの不満げな目がファイレナを睨み付ける。
ファイレナは構わず、マルグルンへ声をかけた。
「おまえは〈見えざる手〉に狂暴化をかけられてたんだ。あいつはおまえが死ぬまで戦うように仕向けてた」
「お頭……」
マルグルンはファイレナに何か話しかけようとして、突然、上を見上げた。
「なんの音だ?」
「音?」
耳を澄ますと、たしかに地鳴りのような音が響いている。今は頭上となっている大地が局地的に震えている。
直感的な怖気が走る。ファイレナは〈見えざる手〉を見た。何かが起こる。
「何かくる! 逃げろっ!」
ファイレナが叫んだその後に、〈深層〉の暗闇を、天井から眩い光が照らした。
「太陽の破壊光〈ソーラ・レイ〉だ」
〈見えざる手〉の声が響いた。
天空より強力なエネルギーの光線を呼び出す。その威力は、分厚い大地を貫き、〈深層〉に到達してなお衰えることなく、その地下世界までをも突き刺した。
巨神の槍とでも形容できよう天上世界からの強い光が、忘れ去られた神殿を眩しく包みこんだ。だが、その光がもたらすのは慈愛などではなく、純粋な破壊だ。
「うわああああああっ」
破壊の音にファイレナたちの叫びが混じり、かき消されていく。
光を直接受けたものは消し飛び、衝撃に何もかもが吹き飛ばされる。
視界が真っ白に塗り潰され、己が身すらどうなっているのかもわからなくなった。




