表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
78/89

ep77 狂暴なるオーク

 三人が〈影の道(シャドウ・パス)〉のふたりにかかずらっている間、グリオハンはマルグルンとの一対一を戦っていた。

 戦斧に炎をまとわせて振り回す。炎の尾を引く斧が何度もマルグルンに襲い掛かる。

 一方のマルグルンは、〈見えざる(インヴィジブル・)(タッチ)〉の魔法によって身体能力を強化されている。グリオハンの持つ戦斧よりも重量のある戦槌を、まるで剣でも扱うように軽々と振るい、怒涛の攻撃を易々とさばいていく。そもそもオークのクランの頭領として、他種族のクランとの争いを戦ってきた生粋の戦闘者だ。戦い慣れもしている。

 あえてグリオハンに攻めさせ、攻め疲れたところを狙って、反撃に転じる。

 振り抜かれた戦槌は、グリオハンが構えた戦斧を弾き飛ばし、無防備にさせた。そこへ、返した戦槌を叩き込む。

 グリオハンは咄嗟(とっさ)に腕を盾に使った。だが、戦槌を腕一本で防げるわけがない。グリオハンが吹き飛んだ。

 人間だったなら、全身の骨を粉砕され、あらゆる臓器が弾け飛んだことだろう。丈夫なグリオハンでもさすがに無事とはいかない。


「ぐぬぅ……」


 グリオハンが地面を這いずる。片腕が思うように動かない。奥歯を噛みしめながら、やっとの思いで上体を起こす。

 マルグルンは鼻息荒くグリオハンへ歩み寄った。すでに敵を叩き潰すための戦槌は振り上げられている。

 グリオハンは、無事な片手に戦斧を握りしめ、巨木でも切り倒すかのようにマルグルンの腰目掛けて振り抜いた。確かな手応え。戦斧がオークの巨体に半分ほど埋まった。その傷口を炎が焼く。血が泡立ち、蒸気となって立ち昇る。

 しかし、マルグルンは気にする様子もなく、戦槌をグリオハンに叩きつけた。

 頭部から首筋、肩の付け根にかけてを激しく強打され、グリオハンは地面に突っ伏した。


「あれはただの強化魔法じゃない」


 マルグルンの様子を見たファイレナが奥歯を噛む。

「狂暴化の魔法。あまり被術者にとっていい魔法じゃない」


 現にマルグルンは、戦斧をまともに喰らって腰元を(えぐ)られているにも関わらず、平然としている。戦闘衝動がすべてに勝っているのだ。

「ギルドマスターに他人への情はありません。ましてやマルグルンさんは構成員でもなんでもない。戦闘に役に立てば、後はどうなってもいいって思ってるんです」

「クソ野郎だな」


 ファイレナにとってマルグルンは、一時は同じ釜の飯を食った仲間だ。使い捨ての駒のような扱いにいい気はしない。

 グリオハンがふらつきながら立ち上がる。マルグルンの方が優勢だ。


「あの狂暴化の魔法をディスペルする」

「ファイレナさん! その前に、あいつですよ!」


 シオは蜘蛛面を示す。

 同時に蜘蛛面も動き出した。六本の剣を振りかざし、ふたりを同時に斬り付けた。

 シオは短剣を両手に持って剣を弾きながら、相手の力を利用して後方へ飛んで距離を取る。一方のファイレナも魔術杖を盾にして剣撃を防ぎながら、地面を転がって脇へ逃げる。


「シオ! 私が魔法を練り上げる時間を稼いでくれ!」

「わ、私がですか⁉」

「もう、おまえしかいないんだよ!」


 シオが蜘蛛面に目をやる。赤い宝石の埋まった不気味な面で顔を隠した暗殺者。自前の二本の腕に加えて、魔法で生み出された四本の腕を触手のように揺らしている。

 シオは完全に顔面蒼白だ。


「じ、時間さえ稼げば、倒してくれるんですね?」

「努力する」

「約束してくださいよおっ!」

「どのみち、おまえはあいつらに殺されるんだよ! だったら生き残る可能性のある方に命をかけろっ!」


 ファイレナは問答無用で術の錬成に入った。印、詠唱、歩法。自身の魔術の知識すべてを使ってできる限り早く、正確に、そして強力に練り上げる。

 蜘蛛面がファイレナを見た。

 シオは覚悟を決めた。


「信じてますからね! ファイレナさんっ!」


 短剣二本を逆手に構えてシオは突進した。

 蜘蛛面が剣を構える。シオは全人類種(ヒューマノイド)の中で最も素早いリルリングだ。次々に繰り出される蜘蛛面の剣閃を、身を低くしながら次々に交わしていく。

 蜘蛛面と近い距離を保ちながら、常に死角へ入る動きで、辺りをちょこまかと駆け回る。ちょうど、蜘蛛面を中心にぐるぐると回るようだ。

 グリオハンのように力もなく頑丈でもないシオは、一撃でもまともに喰らえばそれが致命傷になり得る。素早い身のこなしで翻弄するのが、シオの時間の稼ぎ方だった。

 蜘蛛面はついに闇雲に剣を振るい始めた。


「六本腕があれば、どれか当たると思ってるんですか⁉ 甘いですよ!」

「そうか。では、これならばどうだ」


 蜘蛛面が剣で印を結び、短く呪文を唱えた。

 蜘蛛面の周りに強い気流の渦が生まれ、シオは足を取られた。


「うわっ」


 しまったと思った次の瞬間には、すでに蜘蛛面の剣が迫っている。

 両手の短剣で辛うじてそれを受け止めた。

 蜘蛛面は力任せにその短剣を弾き飛ばした。力自慢でもない蜘蛛面でも、小人の短剣を弾き飛ばすのは容易かった。

 あっと言う間にシオは武器を無くした。蜘蛛面はさらに容赦なく前蹴りを埋め込んだ。

 シオは胃液混じりの嗚咽(おえつ)を吐き出し、地面を転がった。

 すぐさま、剣の突きがシオに追い打ちをかける。

 転がって避けると、その方向に二発目の剣が突き立つ。

 思わずシオが硬直する。見上げたその目に四本の魔法剣が映った。

 もう逃げ切れない。

 だが、ファイレナの魔法が間に合えば……。


「ファイレナさんっ!」


 玉のような汗を浮かべたファイレナは今、結んだ印を中心に(みなぎ)る魔力に包まれている。だが、その発動にはあと僅かな時間が必要だった。

 シオがこれまで数々の盗みを成功させてきた手練を発揮する。魔法剣が己に届くよりも速く、懐に忍ばせたもう一本の短剣に触れる。


 魂砕きの短剣だ。


 手に触れたときにはすでに投げ放っている。当たれば精神に甚大なダメージを与えられる。それどころか、あわよくば一撃で廃人にもできる。

 だが、短剣は魔法剣で弾かれた。シオも一流の盗賊だったが、相手は一流の盗賊集団で暗殺を専門に請け負う生粋の戦闘者だった。

 シオの顔が絶望の色に染まる。

 蜘蛛面の剣がシオの胸を貫いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ