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ep.6 宿敵同士

 ファイレナは体を起こし、頭を振った。どうやら潰れていないらしい。


「なら、ひとまず休戦して手を組むつもりと考えていいんだな?」

「利害の一致だ。ただし、元の姿に戻ったときは、まず、おまえの方から食らってくれる」


 グリオハンは(あご)を上げ、ファイレナを見下ろした。


「ふん。好きにしろ」


 ファイレナは吐き捨てた。どのみち、師匠が生き返れば、ファイレナは師匠と力を合わせ、ドラゴンに戻す前に消し炭にするつもりだ。


 ファイレナが内心で(あざけ)る。死ぬのはおまえだ。


「そうと決まればさっさとその蘇生の術とやらを探しに行くぞ」


 グリオハンはアンバーグロウピークの険しい山道に足先を向ける。


「待てって。師匠の亡骸(なきがら)をここで白骨化させるつもりか?」


 ファイレナが倒れ伏したサリフィンに目をやる。

 グリオハンは(うめ)きながら、そのサリフィンの細腕を乱暴に掴んで引っ張り上げた。


「おい! 丁重に扱え! せっかく蘇生の術を見つけても、師匠が満足に生き返らなかったら意味がないんだぞ! このバカ!」

「ええい、いちいちやかましい奴だ!」


 グリオハンは苛立ちに声を荒げる。これがドラゴンならどれほど恐ろしい咆哮だったろう。今はただの大人の大声に過ぎない。


「いいか。人間の体はドラゴンと違って(もろ)いんだ。そして、それはもうおまえにとっても他人事じゃないんだ。覚えておけ、このタコ!」


 ファイレナはグリオハンを指差した。そして、視線がふと両脚の間でブラブラと揺れるモノに引き寄せられ、盛大に舌打ちした。


「それと、おまえ素っ裸じゃないか。それで人里に降りるつもりなのか? 人間の文明を馬鹿にするのも大概にしろよ。クソドラゴン」


 ファイレナは自分の羽織っていたローブを脱ぎ、丸めてグリオハンへ投げ渡した。


「せめてそいつを腰に巻け。局部さえ隠せば、私がおまえを蛮族で通すから」

「これを、巻く? 面倒な……」

「いいから私の言う通りにしろ! そうじゃないともっと面倒な旅になるぞ!」


 ファイレナは噛みつくように言葉を叩きつけ、自身は師サリフィンの着ていたローブを脱がして羽織った。さらに、師愛用の魔術杖を腰に差す。


「これじゃ本当に二代目サリフィンだ。……本当に名乗っていいのか? 師匠……」


 ファイレナにとって偉大過ぎた師。その死に顔を見つめていると、体の奥からまた悲しみが込み上げてきて、目から溢れそうになった。


 その横合いからグリオハンの太い手が突き出た。邪魔なファイレナを押しのけ、グリオハンは乱暴にサリフィンを肩に担いだ。


「さぁ、さっさと山を下りるぞ」

「お、ま、え、丁重に扱えと言ってるのがわかんないのか! 肩に担ぐんじゃなくて、お姫様だっこをしろ! お姫様だっこを! クソボケ!」

「なんだそれは」

「背中と膝の裏に両手を回してこうだよ!」


 ファイレナがジェスチャーを交えてサリフィンの亡骸の持ち方を指導する。グリオハンは鬱陶(うっとう)しそうにファイレナを見ている。


「師匠が満足に復活しなくてもいいのか?」


 ファイレナが強い口調をぶつけると、グリオハンは唸り声を上げながらも言う通りにサリフィンの亡骸を抱えた。


「それで? おまえだって名前はあるんだろ? さすがに暴竜って呼ぶわけにはいかない」


 ファイレナは先に歩き出し、グリオハンを振り返る。グリオハンはジロリとファイレナを見返す。


「我が名はグリオハン」

「グリオハンか。私はファイレナ。二代目サリフィンはひとまずお預けにする」

「ふん。好きにしろ」

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