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ep.5 たったひとつの方法

 グリオハンが瞠目(どうもく)する。


「ほう! ならば、言え! 我を元へ戻す方法を!」

「はな……せ……」


 その後はファイレナの声が出ない。口の動きを読めば、かろうじて「その前に死ぬ」と言っている。

 グリオハンは呻きながら手を放し、立ち上がった。

 ファイレナは横向きに転がり、大きく胸を上下させながら、苦しそうに喘鳴(ぜいめい)する。呼吸をするたび、消えかけた意識がはっきりと戻ってくる。


 そんなファイレナの頭を、グリオハンは容赦なく踏みつけた。


「さぁ、言え。言った後に頭を潰す」


 ファイレナは悪態をつきながら呼吸を整えた。屈辱的に扱われ、ますますその瞳にしたたかな炎を燃やす。


「変身の魔術は術師じゃないと解けない。ジェイドウッドの森の賢者のかける魔術ならなおさらだ」


 グリオハンの額に(うね)のような血管が浮き出て震えた。


「なんだと? この期に及んで我をたばかったか!」


 グリオハンが足に力を入れる。果実でも潰すように、ファイレナの頭を潰すつもりだ。


「違う! よく聞け! だからこそ方法はひとつしかない!」


 地面に縫い付けられたファイレナの目は、息を引き取った師の姿に向けられている。


「師匠を生き返らせる!」

「なんだと?」


 聞き間違いか? グリオハンが我が耳を疑う。だが、そうではなかった。


「師匠を生き返らせる! 方法はそれだけだ!」

「この(いま)まわしいエルフを生き返らせるだと?」

「師匠にしか解けないなら、それしか方法はない!」


 グリオハンは思わず笑い声をあげた。


「思わず笑いがこみ上げたわ! あり得ぬ!」

「だったら永遠に他の方法を探すんだな。言っておくけど、人間の寿命はドラゴンやエルフよりも遥かに短いぞ」


 グリオハンが言葉に詰まる。わずかな時間、逡巡(しゅんじゅん)し、(うめ)いた。


忌々(いまいま)しいが、おまえの言うことも一理ある。ならば、こやつを生き返らせる方法は?」

「そんなもの、知ってたら苦労はしない」

「そうか。なら、もうお前に用はない。死ね」


 グリオハンが足に力を入れる。


「待て! ドラゴンに戻りたいなら、最後まで話を聞け!」

「今度はなんだ!」

「まさか、ひとりで生き返らせる方法を探せると思ってるんじゃないだろうな? おまえはもう無敵のドラゴンじゃないんだぞ?」

鬱陶(うっとう)しい。だからなんだと言うのだ」

「翼もなければ空も飛べない。あるのは二本の足だけ。牙も爪も巨体もない。おかげで私のような脆弱(ぜいじゃく)な半エルフをひとり(くび)るのにも手こずるような体たらくだぞ」

「耳障りなことを長々と喋りよる。死ぬ前の時間稼ぎか? 小賢しい」

「蘇生の秘術なんてものが簡単に手に入るはずないだろ。足を踏み入れるのにも困難な場所にあるかもしれない。手強い守護者に守られるかもしれない。今のおまえがひとりで成し得るもんか!」

「言わせておけばいちいち(しゃく)に障る。言いたいことはそれだけか? もう死ね!」


 グリオハンの足に力がこもった。ファイレナの頭蓋(ずがい)がミシリと音を立てる。


「私が協力する!」


 ファイレナは叫んだ。


「おまえの術を説くために師匠を蘇らせる! そのために協力する!」


 このままグリオハンが力を込め続ければ頭蓋が砕けて本当に死んでしまう。死ねば師の後を追ってあちらへ行ける。だが、ファイレナにそのつもりはない。師が命を賭して成した暴竜の人化。その後を見届ける必要がある。


 自分は二代目のサリフィンだ。


 今、生き残るために必要なのは、グリオハンに自身の力が必要不可欠であることを納得させることだ。


「ドラゴンに戻れる術があるというのに、独力にこだわって死んでしまったらなんの意味もないだろ! おまえはもうただの人間なんだ!」


 頭蓋を戒める力が弱まった。グリオハンは迷っている。


「こんな山にこもっていたおまえは人間の世界も知らないんだろ? おまえが思うよりも、非力な人間として旅をするのは困難だぞ」


 しばらく黙考の時間があり、グリオハンがようやく足をどけた。


「気に入らんが、おまえの言うことはもっともだ。半エルフ」

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