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ep.4 愛弟子ファイレナ

 ファイレナが紫電球を握り込むと、それは細長く棒状に変化した。雷の力みなぎるそれは、ファイレナの怒りの具現だった。


「《迸る(ライトニング)雷槍(・ジャベリン)》!」


 ファイレナがその雷の槍を投げる。グリオハンは思わず両手を交差させてそれを受けた。

 だが、純粋な打撃ではない雷槍が、人間の腕で受け止められるはずがない。グリオハンの全身を雷が駆け抜け、グリオハンが吹き飛んだ。


「おまえがいなきゃ、師匠が死ぬこともなかったんだ!」


 もう片方の手に同じ雷槍を生み出し、再びグリオハンに投げつけた。ドラゴンから突然人間に姿を変えられたグリオハンの動作は精彩を欠く。飛び来る雷槍に対しても、身を背けることしかできず、再びその高電圧の槍を食らって吹き飛ばされた。


 倒れ込んだグリオハンが、屈辱の怒りに燃えて砂を握る。これまで地面を舐めたことなど一度とてなかった。それが、混じり者の惰弱(だじゃく)な娘ひとりに、なす術なく地に転がされている。


「貴様も殺す!」


 グリオハンが弾けるように立ち上がった。


「こっちの台詞だ!」


 ファイレナが腰に差した魔術杖を抜く。師匠サリフィンのものと瓜二つだ。


 グリオハンは肩を怒らせながらファイレナへ歩み寄る。巨大な翼も長い尻尾もない。自身を討伐するためにやってきた冒険者が持っていたような鍛え抜かれた剣もない。


 できるのはただ、膂力(りょりょく)に任せて殴ることだけ。


 ファイレナは魔術杖の頭に稲妻球を作り出した。


「ウオオオアアアッ!」


 飢えた獣のように、咆哮(ほうこう)を上げてグリオハンがファイレナへ飛びかかった。


「《貫く雷撃(ペネトレーション)》!」


 稲妻球から眩い光が放たれ、グリオハンへ走っていく。電撃を(まと)う光線だ。


 グリオハンの体を稲妻が貫いた。しかし、苦悶の表情で唸りながらも、グリオハンは止まらない。そのままファイレナに自身の体を叩きつけ、地面に転がして馬乗りになった。

 グリオハンは握り固めた拳でファイレナを滅多打(めったう)ちにした。一方のファイレナは魔法杖を盾にしてその乱打を(しの)ぐ。だが、終わらない拳の連打に杖がへし折れた。もう防ぎ切れない。元々ドラゴンだからか、グリオハンの膂力は並外れている。


 体力と意識を削られたファイレナが、やがてぐったりとしはじめた。


「この我がなんと無様な!」


 アンバーグロウピークで、恐怖の権化(ごんげ)として君臨したドラゴンはそこにはいない。理性のない獣のように両腕を振り回している自分に、グリオハンの怒りが燃える。こんな姿でいいはずがない。

 グリオハンはファイレナの首根っこを掴んだ。指にこもる力に、ファイレナが苦しそうに顔を歪める。


「そのエルフの弟子だと言ったな。貴様、師匠の落とし前として、我を元に戻せ!」

「ま……」


 口を開くと同時、ファイレナの手が、グリオハンの胸に触れた。


「《炸裂する魔力(リジェクション)》」


 グリオハンの体を衝撃が貫いた。体の芯を砕くような一撃。叩き込んだのは魔力によって作り出した衝撃波だ。

 グリオハンの体が震え、口からおびただしい量の血液が噴き出した。

 視界が暗転し、意識が遠のく。だが、グリオハンは倒れない。怒りとプライドが敗北を許さない。依然、掴んだままの手にさらに力をこめる。


「もうよい! 絞め殺すなど生ぬるい。このまま首を千切ってくれるわ!」

「が……っ」


 ファイレナがグリオハンの指を掴んで必死に抵抗する。だが、その指が白く細い首に埋まっていく。ファイレナがグリオハンの下でもがく。だが、グリオハンの体は動かない。

 無念にも仇をとれず、すぐ師の後を追うことになる。そう諦めかけたファイレナの脳裏に一条の光が閃いた。


 グリオハンの指を掴む手に一層強い力がこもる。


「や、めろ……。方法……な、ら、……あ、る」


 グリオハンの眉間がぴくりと動いた。


「なんだと?」

「ドラゴン……に……もど……れ、る……」

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