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ep.49 葬送の追撃

「ウォオオオオッ!」


 怒号を上げ、グリオハンがリーダー格の蜘蛛面へ常人離れした膂力(りょりょく)の横薙ぎを放つ。

 これは受け止められるような一撃ではない。それを見極めた蜘蛛面は、後方に高く飛び上がると、後方宙返りを打ちながら、中空で二刀を交差して振るった。その軌跡は魔力の斬撃へ変わって飛び、X字にグリオハンを斬り付けた。


「ぐぬぅっ」


 グリオハンの負った傷から血の飛沫(ひまつ)が飛び、戦斧をまだらに染める。すると、どうだ、再び斧から業火が吹き上がった。


「まさか、あいつの血に反応してる?」


 ファイレナはグリオハンの脇をすり抜けながら、燃え上がる炎を一瞥する。

 よそ見をやめて、後方に控えた刺客のひとりに目を向けると、魔力の奔流(ほんりゅう)の漂う手の平を向けた。

 後方の刺客はそれを見るなり、跳ね上がってファイレナの頭上を越え、シオの方へ飛ぶ。もうひとり残った刺客は剣をアーダンに向けて牽制をする。

 ファイレナの思ったとおり、隙をついてシオの身柄を確保するつもりだったのだ。


「やっぱりな」


 見越していたファイレナは即座に反転し、魔術杖を振るった。手から漂わせた魔力は(おとり)。本命の魔法は杖から放たれた。たちまちに地面から(つた)が伸び上がり、シオに向かった刺客を絡めとった。

 それを見て、アーダンと対峙していた刺客が、洗練された剣術で、立ちはだかるアーダンを斜めにバッサリと切り捨てた。

 だが、アーダンは倒れない。刺客の手首を掴んで不敵にニヤリと笑う。


「あなたの相手は私です。行かせませんよ」


 蔦に絡まった刺客は自由を取り戻すために身じろぎをしている。


「そうはさせるか!」


 ファイレナが片手を振ると、まるで生き物のように蔦がうねり、刺客の首に絡みついて容赦なく締め付ける。

 苦しげに(うめ)く刺客。が、やがて意識を手放してぐったりとなった。


「あと、二人です!」


 アーダンが呪文を唱え、その手に背徳の魔術を(みなぎ)らせる。

 同じくして、対峙した刺客も呪文と片手印によってその手に魔力を溜める。黒ずんだ魔力。シオの精神を削り取ったのと同じ術だ。


「それを食うのは不味そうですね!」


 アーダンはひと目でその魔術の危険を悟った。刺客よりも早く自身の魔法を叩き込む。だが、刺客とて同じ考えだ。両者が腕を振りかぶった。

 しかし、体術なら刺客の方に分があった。

 鉤型に指を曲げた刺客の手が、アーダンの腹部を抉るように掴む。アーダンの体を精神破壊の波が駆け巡った。


「があああああっ」

「アーダンっ!」


 魔術杖を振りかぶるファイレナがふたりの間に割って入った。刺客の手を杖で痛撃し、アーダンを致命的な攻撃から解放する。

 身を(ひるがえ)して倒れたアーダンは、ファイレナを見上げるなり、安堵から漏れ出る息を何度も吐いた。


「た、助かりました!」

「安心してる場合じゃない!」


 ファイレナの警告どおりに、刺客が動いた。

 両手に一刀ずつ剣を握り、十字、八の字、T字と、二本の剣を使って魔術の印を結んでいる。

 ファイレナは指で印を結ぶ他、足運びによる歩法でも魔術印を結べる。〈葬送〉は二本の剣でそれを扱う技術を持っているのだ。


「魔法が来る!」


 刺客が仮面の奥の目を光らせた。瞳孔に浮かぶ魔術紋が浮き上がる。ファイレナはひと目でそれが精神操作の魔法だと見抜いた。

 精神を集中し、意識を研ぎ澄ませ、叩き込まれる魔法に抵抗する。魔法が来るとわかっていれば、そう易々と屈服するファイレナではない。

 自身にふりかかる魔術が弾け飛ぶのを感じた。


「私は専門家だぞ! 片手間のおまえの魔法なんかが効くかボケッ!」


 ファイレナが手本を見せてやるとばかりに魔術杖を掲げた。


「オアアアアッ!」


 突然の咆哮とともに、横からアーダンがファイレナに襲い掛かった。


「おまえがかかってんのかよ!」


 アーダンの力任せの組み付きにファイレナが押し倒される。その目は焦点が合っておらず、いつもの知性が感じられない。


「この、クソボウズッ!」


 ファイレナは後方へ倒れ込みながらも、アーダンの腕を掴み、その下腹部を蹴り上げた。

 巴投げ。アーダンの体が宙で反転して、背中から地面に叩きつけられた。


「がぁっ」

「このウスラバカ! つまんない魔法にかかりやがって!」


 悪態を吐くファイレナの頭上に刺客が迫った。握った二本の剣が、ファイレナを串刺しにせんと怪しい光を放っている。

 ファイレナは地面を転がってそれを危機一髪避け、次の攻撃に備えて素早く立ち上がる。


「オアアアッ!」


 またしてもアーダンが組み付いてきた。


「いい加減にしろよ、おまえっ!」


 さながらゾンビである。本来、不死王として生きる屍を操る側が操られる側に回るなど滑稽(こっけい)極まりない。

 ファイレナの苛立ちが頂点に達した。


「せめてその死なない体を使って役に立て! スカタンッ!」


 刺客が再び剣を構えてファイレナへ迫る。ファイレナは理性を失ったアーダンを背負い投げして、刺客の剣撃にぶつけた。横薙ぎに振られた剣がアーダンを斬り裂く。真っ二つだ。

 斬り裂かれたアーダンの体の向こうから、ファイレナが手を伸ばす。呪術歩法から、印を結んだままの手で刺客の胸に触れる。


「《炸裂する魔力(リジェクション)》」


 爆発音とともに魔力の粒子が弾け、刺客が吹き飛び巨木に叩きつけられた。

 仮面の隙間から血が滴り落ちている。

 ファイレナは刺客が取り落とした剣を拾い上げ、刺客へ歩み寄ると、ためらいなくその喉に剣を突き立てた。短い断末魔の声を上げて刺客が絶命した。

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