ep.46 生け捕り
ハッとしたファイレナが素早く魔術杖を構える。が、両腕もろとも、細い糸のようなもので体をぐるぐる巻きにされた。
「ボーラかっ!」
ボーラ。長い糸の両端に分銅が付いており、それを対象に投げつけることで捕縛してしまう飛び道具だ。
気付いたときには、両脚ももうひとつのボーラで絡めとられ、ファイレナは体勢を崩して地面に倒れ込んだ。
「しまったっ!」
その隣でシオも倒れた。同じようにボーラで捕縛されたのだ。
ふたりは並んで身を捩った。ボーラに使われている糸は細いがただの糸ではない。なにか特別な素材でより合わせてあるのか、その細さとは裏腹な強度を誇り、無理に引きちぎろうとすると逆に皮膚が切れそうだった。
黒づくめがふたり、悠然と歩み寄ってきた。ついにシオが〈葬送〉に見つかった。
「くそっ!」
ファイレナは悪態をついてシオに目をやる。元はと言えば、このリルリングのシオが自分の都合でファイレナたちに近づいてきたのが始まりだ。ファイレナからすれば、師の蘇生を実現させる旅に余計な面倒事を持ち込まれたことになる。
「そもそも、なんで私がこんな目に遭ってるんだ?」
それはファイレナの純粋な疑問であった。ファイレナは近づいてきた〈葬送〉の刺客に強気の目を向けた。
「おい! おまえら! 目的はシオだろ! 私は関係ない! とっととそいつを連れていけ! 身柄はどうぞ引き渡してやる! だから、こいつをほどけ!」
ファイレナがもぞもぞとあがきながら声を上げる。
「ひどい! ファイレナさん! 仲間じゃないですか!」
「うるさい! スカタン! なにが仲間だ! おまえが勝手について来たんだろ! 素性を隠して近づいてきやがって! おかげで私までこのざまだぞ!」
刺客のひとりが、騒ぎ立てるファイレナの顎に手をやった。ファイレナが刺客へ目を向ける。瞬間、魔法を発動させた。
「《招雷》」
体の自由が利かなくとも、手元で印さえ結ぶことができれば魔法は放てる。ファイレナは卓抜なる魔術師なのだ。
だが、鉄仮面の奥に隠された刺客の瞳を見て、ファイレナは愕然とした。その瞳孔に印が刻まれている。
跳ね返しの魔術印だった。
瞬間、天より地へ突き刺す雷撃がファイレナの体を貫いた。
紫電を迸らせながらファイレナの体が跳ね上がる。
「ぐあああっ!」
思いがけず思い知る自身の魔術の威力である。
「ファイレナさん!」
「……ま、魔術印だと……?」
きれぎれのかすれ声でファイレナが呟いた。
「ファイレナさん。〈葬送〉はギルドマスター直属の集団です。魔術師直属。つまり魔剣士の集団なんです」
「……くそ……っ! 先に言えよ、このウスラトンカチ……っ!」
シオの言葉をなお裏付けるように、刺客のひとりが印を結んだ。仮面の奥でぶつぶつと不気味なくぐもった小声で詠唱をしている。片手から黒い波動があふれ出した。
シオとファイレナがごくりと唾を飲む。刺客がシオの首を掴んだ。
「ぐはああああああっ」
シオが苦しそうな叫び声を上げたかと思うと、瞬く間にぐったりと気を絶した。精神に直接ダメージを与える魔法だ。
「マスターが生け捕りを所望している。こいつは連れていく」
刺客は小さなシオの体を持ち上げて肩に担いだ。
「だが、おまえは死ね」
もうひとりの刺客がファイレナにそう告げる。抜かれた背中の刃が、ファイレナの命を刈り取るためにギラリと輝いた。
次の瞬間、その刺客の側頭部が弾け飛んだ。
何が起こったのか瞠目するファイレナの頬に、脳漿混じりの血が飛んだ。
刺客がぐらりと傾いで倒れ込んだ。その後ろにいるのはグリオハンだ。倒れた刺客の足元には、檻についていた頑丈な錠が転がっている。グリオハンが目いっぱいそれを投擲して刺客を一撃で葬ったのだ。
「なんて馬鹿力だ……」
ファイレナが呆れたように声を漏らす。




