ep.44 ガラクタ山の攻防
「それ、なんて呼ぶんですかね!」
「知るか! でっかいヘラだ!」
魔術杖とは違っても、即席の得物にはなった。
切りかかってきた剣ゴブリンの縦振りを、その長いヘラを横に構えて受け止める。
ゴブリンの剣がなまくらだったおかげで、木製のヘラも真っ二つにされずに済んだが、それでも剣は柄の半分ほどまで埋まっている。
ファイレナは長ヘラをクルリと九十度回転させて剣を往なすと、同時に柄の尻をゴブリンの側頭部にぶつけた。だが、叩いたのは剣ゴブリンの小盾だった。
「ちっ」
ファイレナは力任せにゴブリンを押しやり、腹に一発蹴りを突き込む。剣ゴブリンがたまらずたたらを踏んで後退る。
だが、ゴブリンはもう一体いる。槍ゴブリンだ。
槍ゴブリンは、ファイレナが剣ゴブリンにかかずらっている間に、抜け目なく背後へ回っていた。構えた槍は今にもファイレナの胸を背中から貫こうとしている。
「ファイレナさんっ!」
シオがガラクタの山から皿を拾い上げ、戦輪よろしく投擲した。皿にこめかみを痛撃された槍ゴブリンが、怯んで仰け反る。
振り返ったファイレナが好機とばかりに、長ヘラを振り回し、槍ゴブリンに振り下ろした。
槍ゴブリンが槍でそれを受け止める。その衝撃で、長ヘラは真ん中からポッキリと折れてしまった。
ファイレナがまずいと思ったときには、すでに槍ゴブリンの二撃目が伸びている。穂先はファイレナの右胸の上、肩の付け根あたりをズブリと刺した。
「うあっ」
声を上げてファイレナが退く。反射的に傷口を抑える。じわりと血が滲み出て、手の平が真っ赤に染まる。
好機と見た剣ゴブリンが攻勢に出た。ダッと地面を蹴り、ファイレナへ飛びかかる。
まずいと見たシオが、うずたかく積まれたガラクタの山を両脚で蹴りつけた。何を蹴ったのかは本人もよくわからない。ただ、ガラクタの山は雪崩を起こし、剣ゴブリンを邪魔した。
「うわあああっ」
轟音を響かせて雪崩れるガラクタの数々に、ゴブリンたちだけでなく、ファイレナも巻き込まれた。
「おい! シオ! 何やってんだ、このクソバカっ!」
「助けるにはこれしかなかったんですよおっ!」
見かねたドゥルエラが杖を振りながら歩み寄る。
「どきな! おまえたちっ! あたしがやるよ!」
ドゥルエラは二体の従者に相手を任している間に、入念に魔術を練り上げていたのだ。彼女の頭上にあるのは、石や岩が寄せ集まってできた巨大な手だった。
ファイレナもそれを見て思わず呆気に取られる。
「潰れて死ねぇぇぇ!」
ドゥルエラの声はもはや勝利を確信したものだった。
「あった! ファイレナさん!」
同時、ガラクタの山の中で、ついにシオがファイレナの魔術杖を見つけた。すかさずファイレナの元へと蹴り飛ばす。
「おおい! 足蹴にすんな! ボケェッ!」
巨大な手の平が、蚊かハエでも潰すように落ちてきた。
ガラクタの山を粉砕する巨体な石の手。
剣ゴブリンと槍ゴブリンが巻き添えを食らうまいと蛙のように飛び退いた。
しかし、ファイレナはちょうど手の平の中心部にいた。
ファイレナが潰れて血だまりと化す。その期待にドゥルエラがニマリと笑う。
しかし、石の手は地面を叩く瞬間に、中心から吹き飛び四散した。
ぽっかりと空いた石の手の中心にファイレナが立っている。吹き飛ばした石礫に巻き込まれて全身擦り傷だらけだった。だが、そのリスクを取らねば潰れていた。
「咄嗟に魔法で吹き飛ばしたんですね! さすがです!」
「シオ」
「はい! ファイレナさん!」
シオは自身の短剣に、魂砕きの短剣、それに適当な斧を見つけ、ガラクタの山から下りてきた。
ファイレナはそのシオの頭を杖で容赦なく叩いた。
「いたーっ!」
「師匠の大事な杖を蹴り飛ばした罰だ!」
「だったら、人の頭をそれで叩くのはどうなんです⁉」
シオは涙目で頭を押さえている。
「まぁ、この際、説教はもういい。おまえさ、ゴブリン二体相手できる?」
「え? ええ。まぁ、なんとか。ファイレナさんはあのゴブリンのおばあさんを?」
ファイレナはこくりと頷き、素早く印を結んで、魔術の単語を囁きながら、シオの短剣に触れた。なんの変哲もない普通の短剣が、途端に魔力の輝きに震えだした。
「《魔力の武器》ですね!」
「とりわけこれは、サリフィンアレンジの《超振動魔力刃》って魔法だ。帯びた魔力が刃を震わせる。鋼鉄だってバターのように斬れるぞ。試してみろ」
ファイレナがドゥルエラへ一歩進み、その背中を守るようにシオが短剣を構えて二頭のゴブリンを見る。




