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ep.43 ドゥルエラと従者ゴブリン

 アーダンは印を結んだ指先を口元に当てて呪文を唱えた。そして、手の平を向けるのは、〈葬送(フューネラル)〉の刺客の剣で絶命したオークの(むくろ)である。

 禁断の魔術の一片が呪文によって具現し、オークの骸に流れ込む。

 首を失ったオークがおもむろに立ち上がった。そして、近くに転がった頭部を両手で掴んで首の切り株の上に乗せた。左右にクルクルと回して収まりを確かめると、のそのそと歩み出す。


「《彷徨(クリエイト)える(・デッド・)死人(サーヴァント)》」


 死霊術である。

 その首と体の持ち主は別々だったということは、当の死人だって気にしていない。


「命が奪われれば奪われるほど、私の素材が増えるのです」


 アーダンは混乱に乗じて自身に付き従うオークの死人を三体作り出すと、グリオハンへ目をやった。グリオハンは、〈葬送〉の刺客のショートソードを得物に、今度は棘付き棍棒を持った大柄なオークとやりあっている。


「グガアアァァァッ!」


 咆哮(ほうこう)を上げて棍棒を振り回すオークに、ショートソードで対抗する。しかし、攻撃を刃で受けたはいいが、剣はいとも簡単にへし折られてしまった。


「くそっ! まるで玩具のごとき強度よ!」


 悪態をつきながらも、グリオハンは強引にオークに組み付き、力任せにぶん投げて、棍棒を奪い取った。

 あっと(おのの)いたような顔を浮かべるオークの顔に、容赦なく棍棒を振り下ろす。


 アーダンが思わず目を逸らした。


「グリオさん。我々も装備を取り返しにいきましょう」


 アーダンはグリオハンを先導するように、オークの死人を引き連れてファイレナたちの後を追った。


 一方、アーダンとグリオハンに先んじて、奪われた装備を探しているのはファイレナとシオである。


「装備は一体、どこに持ち去られたんだ?」

「こっちです。ファイレナさん。私、ちゃんと見てましたから」


 クランの混乱の中を、シオの先導ですり抜けていく。小柄のリルリングはさすがに素早い。だが、エルフの血を引くファイレナも決して負けていない。

 ふたりは武器置き場と思しき場所へ辿り着いた。剣や斧や盾が整理されずに山積みにされている。その上、武器や防具を作るための素材と思しき獣の皮や骨まで、一緒くたに置かれていた。


「めちゃくちゃですね、こいつ(オーク)ら。武器とガラクタの区別もついてないんじゃないですか?」

「いいから。さっさと探せ。魂砕きの短剣と師匠の魔術杖が最優先だ。クソドラゴンの斧は最悪どうでもいい。どのみち、どこでも買えるような斧だ」

「ケヘヘッ! ここに現れると思ったわさ!」


 下品な声にファイレナは振り返った。ドゥルエラだ。従者のゴブリンも揃っている。


「檻から出たら、今度は奪われた持ち物を取り返しにやってくる。当然だわさ!」

 ドゥルエラはねじくれた木の杖を掲げると、ファイレナも聞き慣れない呪術めいた言葉を早口で並べ立てた。樹々が、風が騒ぎ出し、杖の先端に大きな青白い炎が灯った。


「鬼火だっ! 気を付けろ! シオ!」

「ケエエエッ!」


 錯乱した鳥のような掛け声とともに、ドゥルエラが杖を振る。鬼火は五つに分裂して、それぞれが緩やかなカーブを描いて飛んだ。二つはシオへ、残りはファイレナへ向かっていく。


「ぎゃああ! 危ないっ!」


 シオはその辺りにあった獣の毛皮を引っ掴んで、バサバサと振り、鬼火を叩き落とす。

 一方、ファイレナは身を屈めて鬼火のひとつを避け、もうひとつを転がって避け、最後のひとつは強引に平手で叩いて打ち消した。


「あっつい!」


 顔を歪めて焼かれた手を振る。


「いつまで(しの)げるかねぇ! そらっ! やっておやりっ!」


 ドゥルエラが杖を突き出す。それを合図にして従者のゴブリンたちが襲いかかった。

 一体は剣と小盾を携えたゴブリンで、もう一体は槍を得物にしている。二体とも、位置的に近いところにいるファイレナへ殺到した。一体ずつ仕留めようという腹積もりだ。


「ファイレナさん! 耐えてください!」


 自身が標的にならなかったことをいいことに、シオはファイレナを(おとり)にした。


「ふざけんなよ! クソチビ!」

「杖を探してるんですよ! サボってるわけじゃありません!」


 シオはガラクタの山から長柄のものを投げて渡した。


「おい! これは杖じゃないだろ! でかい鍋をかき混ぜるのに使うやつだろ!」

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